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死神 Danse de la faucille  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第八幕  乱気流 ~Le Prince du monde~
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木村 二郎の場合  ~やりたい事ねぇ~


煙の様に消えたように見えたジャニス達だったが、

 ただ高速度で飛び出した為に目で追えなかっただけだった。


 音速を超えて飛行するためジャニスの体の周りには青い光が包み込み木村もろとも保護をしている。

 いわゆる障壁というやつだ。

 勿論、なければジャニスはともかく木村の体は切り裂かれて飛散する肉片になるだろう。 

 今の木村は、いまだジャニスの胸の中に顔が埋まったままで、

 柔らかい肉の感触しか感じていなかった。

 更にはピキューンという摩擦音が大きくて怖くて意識的に頭を向けれないのである。 


 大蛇の様に長い腕で抱かれているので上半身の座りはいいが下半身がブラブラする。

 仕方が無いので足の方は、全力でジャニスのお尻と太ももを確りロックしている。


( ああ、畜生。カッコ悪い体勢だなぁ… )


 やがて、体が起き上がるような感覚がした。


「 あの、体に巻き付いた手足をどけてもらえますか?もうその…、貴方の家の上空ですから。」


 ジャニスは優しく木村の頭を凶暴な胸から解放して、そう声をかけた。

 眼下には自分の家が見えている。

 周囲に目をやると、いつの間にかすっかりと日が落ちていて、

 夜の帳に満月の強い明りが二人を照らしている事に気付いた。


 木村は、バツが悪そうに足を緩めると、その場で正面のジャニスと向かい合うように立った。

 周りにはまだ青い靄の様なものが月明かりに照らされて見えるので、障壁の中なのだろう。

 おかげで、空中なのに立っていられた。


 さっきは怖くて、必死に胸やお尻に抱きついていたけど、

 落ち着いて正対してしまうと、気恥ずかしくて押し黙ってしまう。


 ジャニスもまるで少女の様に頬を染めて、身をよじりだす。


( この人…恥ずかしがるツボが変なんだよな…さっきは自分から強引に抱き付いたんだけど

  巨体の女性が身をよじるって初めて見たジャニスって、結構可愛いんだな… )


「 し…しかし、お…大きいお屋敷ですわね。 純和風で広い家…庭園だってありますわね 」


 視線を躱す様にジャニスは月明かりに浮かぶ大きな邸宅を見下ろしていた。


「 ああ、糞親父は金だけは余っているし”ヤクザ”には必要な虚勢なんだよ 」


 木村は面白くもないといった表情で答えた。


「 そうですわね、こうやって経済力を見せつけるようにするの大事ですわね。

  平和的融和?って言うのかしら…金持ち喧嘩せずみたいな雰囲気は大切ですよね 」


 金持ち喧嘩せず…てのは、昔からの金持ちだけだけどな。


「 まあ、半分は正解かな。

  汗水たらして喧嘩して、苦労の多いシノギで頭悩ませるより金持った奴に吸いついた方が楽だしな。

  それに、うちはシャブやハジキには手も出さんし会社も合法的で手が後ろに回る事も少ない。

  下手すりゃ普通の会社にいるより安心なぐらいだから 」


「 ふ~ん、それじゃあ実業家じゃないんですか? 」


「 あのさ~、どんなに堅気っぽい事したところでさ、

  看板立てて、代紋背負ってたらヤクザじゃないか。


  まともな社員で構成している会社が殆どだけど本社の最上階には、提灯、神棚、代紋のオンパレードさ。

  それに、今じゃあ無いけど昔は、出入りもあったし…けが人死人も出たんだぞ!


  実業家?笑っちゃいますわ。


  そんなうちが嫌いで、グレて中学から家出しながら好き放題。

  まあ、お袋が泣いて頼むから偏差値30の底辺私立高校に進学して遊び放題だぜ若いころは 」


「 そういうのは子供のいたずらみたいな時期でしょ?」


 ジャニスの目は、馬鹿な弟でも見るように優しいがどこか半分馬鹿にした態度のようだった。


 その言葉に一瞬、ムッとする木村だったが真実なんでフッと息を吐くだけにした。


「  そうだなガキだったてことはその通りだな。

  まあ遊びすぎて最後には飽きちゃって…将来のこととか悩んでいたら、

  お袋がクレジットカードをポンと渡して言ってくれたんだ。


 ”暇なら、海外でも見に行ったらぁ?ああ、なるべく貧しくて危険な所限定だよ。

  世の中がどんな仕組みで回ってるのか良く分かるからさ!”


  ってね。

  すげ~お袋だろ?18のガキに金を持たせて一人旅して来いって言うんだぞ。

  その時さ、俺ってカタコトの英語もしゃべれなかったのにさ。


  まあ、大学なんざ興味なかったし


  あんた出来るの?って顔で俺を見るお袋にも腹が立ったんで、

  放浪したよ1年間…パキスタンから始まって、十数カ国…よく死ななかったと思うよ。


  んで、腐った国を見続けて嫌気がさして家に戻って勉強することにした。

  馬鹿じゃあ世の中どうしようもないというのだけは分かったんでな。


  それに、金だけは有ったんで、家庭教師雇ってさ。

  流石に馬鹿になりすぎていて3年も浪人したけど、何とか国立に入ったんだ 」


「 そんなあなたが、捨て鉢気味に死んでもかまわないって、言ってたんですか? 」


「  一所懸命勉強してもだな、よくは分からなかったんだ。

  別に捨て鉢で言ったわけでもないんだぜ?

  とりあえず、やる事も無いし、それが運命ならしょうがないって思っただけなんだよ 」


 ジャニスの言葉はそんな木村を鼻で笑うような態度に出た。


「 やりたい事ねぇ…そんなの追い求めたら人生詰んじゃいますよ。

  なにせ、短いでしょ?人の時間って。

  そうですわね…50代でピークを迎えるぐらいまで遅くしても逆算して、

  30代前半で見つけても遅いぐらいですわよ。


  ましてや、一流とか名前を残すとかのレベルだと…今が限界ですわね。

  私から見たらそうですわね…

  特にこれといった資格も才能も知識もないあなたには…お父様の後を継いでみたらどうです?


  最初から業界に必要な血筋ですし、危険な場所も慣れているし怖くもないし

  教育係もたくさんいるだろうし…面倒ないですわよ 」


 月明かりの中で、白い歯が輝いた。


「 はあ? 真面目な仕事をしてはいるけど、うちは暴力団だぞ? 」


 なにを馬鹿なって思う…そんなの最悪な選択じゃないか。


「 あら、それはそうかもしれませんけどね。常識的に考えても無難でしょ

  それにそう願ってるのは私じゃなくて、あなたのお母様ですわよ 」


 ジャニスの言葉に俺は動揺した。


「 お袋? 2年前に死んでるぞ…なんでそんなこと言えるんだよ 」


「 ええ、知っていますわ。

  なにせ 私がお母様の魂を回収したんですもの誰よりも知ってますけど 」


「 は? 」


「 だからぁ…前に業務指示で回収したんですよあなたのお母様の魂 」


 ああ、そうか…

 ジャニスの仕事が魂の回収ってのはさっき見たばかりだ…これって偶然なんかなあ


「 お母様は貴方の事が相当、心残りみたいでしたわね。


  回収する時にお母様からある条件が出ていまして、

  貴方が、困っている時…特に人生の岐路に立っている時に相談に乗らせてほしいという条件ですわ。


  私どもとしても、是が非でもある目的の為にお母様の魂が欲しかったし、

  本人の承諾が無いと、業務に使用できないためその条件をのみました 」


「 はあ? 死んだ人間と話し合うなんてあり得ないだろ? 」


「 ええ、まあ…現実世界では無理ですわね。

  でも、こちらが用意した時空間でなら、運命曲線も関係なく会えますのよ 」


「 それじゃあ、何度でも会えるってことじゃあ 」


「 一回だけですわよ…約束したのは。

  結構な能力が必要だし、うちの事務所のインフラも使わなければ無理ですからね。


  慈悲の神でも無く、純粋に業務として行ってる私たちが

  メリットもなくする訳ないじゃないですか…お金にもならないんだし 」


「 お金? 」


「 そうですわよお金…あなたたちとは観念が違いますが機能としてお金であってます

  ここでお会いいただいて今後の人生を決めていただくと嬉しいですわね。


  なにせ、長い事会わなくなるんだし、それによってあなたを助けた意味も出ますしね 

  あ、間違った選択してもいいですわよあなたの人生だからね 」


「 助けた意味がある?ってどういう… 」


「 それは喋っては絶対にいけない事なので言えませんわね… 」


「 間違った選択って? 」


「 それも言えません。が、間違ったところであなた自身には問題はありませんね。

  別の可能性の紐を引いて他の人を探すだけですから…

  面倒なんで困ることは困りますけどね 」

 

「 まあいいや、どうあっても俺を助ける理由を教えないなら諦めるわ。

  知った所で記憶を消されるしな…

  しかし…死んだお袋を呼び出すってどうやって呼び出すんだい? 」


「 しょうがないですわね…キスをして差し上げるわ木村君 」


「 はああ?何でいきなり… 」


「 いいからいいから…貴方はちょっと失念していますわね。

  さっき、私が回収したのは何ですか? 」


「 あ… 」


 木村に唇に柔らかくやや大きな唇の感触を味わいながら、

 何故か物凄い快感に包まれながら、意識が遠くなっていった。


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