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死神 Danse de la faucille  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第八幕  乱気流 ~Le Prince du monde~
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刺客

   「 もう直ぐか… 」


 俺は、今日何本目かの煙草に火をつけた。

 紫煙を燻らせ、イガッラっぽい味を肺一杯に吸い込んで心を落ち着かせる。

煙草って奴は匂いが結構きつい

 特に俺の様な鼻がいいのには余計きついが、脳まで痺れるような匂いだからそれはいい。


 今日の仕事は大したことでは無いが、

 生きているものを殺して、その魂を回収するとはいうのはいかに俺でも気が重い。

 ましてや、俺たちと同じように

 感情も知能もあるし見てくれも結構可愛い女となれば更に気が引ける。


 「 来たぜ 」


 隣の相棒が、肩を叩いて知らせてくれたので、

 少しヤニでくすんだ喫煙ルームの窓越しに外を見る。


 「 間違いないようだなぁ 」


 俺は、羊皮紙に転写された標的の写真とその先の女とを見比べる。

 そんなに記憶力の無い馬鹿ではないが、

 これは仕事だし、指令を出したのはうちも領主さまだ失敗など許されない。

 俺はしっかりと確認したうえで喫煙ルームを出る。


 俺は相棒と二人で彼女の後を自然な形で尾行を開始する。

 しばらく歩いていると

 サポートの人員もゆっくりと合流し7人になった。


 この先に足止め用に4人が配置されている…

 しかし、30くらいのただの人間の女にどうしてここまで人数をかけるのか?

 多少疑問には思うが、

 上の考えていることを末端の俺たちが知る由もない。


 まあ、嫌な仕事ではあるが

 今回の報酬は破格だ…官位を2つも上げてくれるって約束だからなぁ

 一生同じ官位が当たり前の俺たちの世界では考えれることも出来ない報酬。

 なので、これが終わったらこの仕事からも足が洗えそうだ。

 子供には教育を

 草臥れた嫁にはちゃんとした住まいとささやかな領地…

 夢の様な生活を送ることが出来る…


 まあ、失敗すれば故郷には帰れないし

 家族も奴隷として売り払われるから必死にならないといけない。


 ”こちらの準備はOKだ ”


 携帯に連絡が入った…足止め部隊が準備が終わったようだ…


「 後は任せておけ、しっかり結界張っておくからよ。

  ま、一瞬で終わると思うけど、油断はするなよ 」


「 油断? 」


 軽く弾いただけで首でも飛んでいきそうな女に油断?ありえないな


「 大丈夫だよ…俺たちの未来が掛かってるんだ失敗なんかするかよ 」


 俺は、軽く手を上がて標的の後ろ20メートルの所から飛び込むことにする

 周りの奴らは

 俺の仲間が暗示をかけているんで分かったところで騒ぐわけではないが

 むしろ、

 標的の命を一瞬にして刈り取ってやることがせめてもの情けだ。


  化け物って他の奴らに言われる俺たちだが女をいたぶって殺す趣味は無い

 今日は仕事で仕方なく殺すだけ…

 頸椎を捻って砕けば人間の女なんてあっけなく死ぬしな



 周りの奴らも実際の殺しの手伝いはしない

 彼らは、定められたところで定められた任務を全うすればいいからだ。

 下手に介入して

 仕事が駄目になっても、任務をきっちりこなせばお咎めは俺よりははるかに軽いからだ。

 まあ、その分俺が責任持つわけだが、

 人の仕事の不始末で、望んでもかなわない夢をあきらめる事なんかできないし

 俺には、自信があるから…



 と、言うわけで少し体をかがめて大きく足を踏み込んで

 一気に標的に向かって飛び出した。

 標的までの距離を考えれば、ほんのコンマ何秒の世界だ

 俺の手が標的の首まで数センチというところまで来たとき急に床に叩き付けられた。



 ナギャ?


 思わず変身が解けて、元の姿に戻ってしまった。

 気が付くと俺の背中に、足の長い女性が無表情な顔のまま立っていた。

 白い能面のようなそれでいて美しく整った顔…

 そこから漂う力の波動は俺のような階層の者とははるかに違う部類の者だった。



 「 あっけないわなぁ…シャックス様もヤキが回ったわね…こんなぼんくら使うんですもの 」


 にやにやと俺を見下ろすその顔に腹は立ったが…まったく情けないことに指一本動かせない

 単純に俺の背に乗っているだけでなく

 思考の力をもって俺の神経ごと抑えているようだった。



 「 糞…もう少しだったのに 」


 俺は、体の中からじわじわと登ってくる血潮に絶望しながら

 目の前で固まったように歩き姿のまま止まっている標的に手を伸ばそうとする…


  多分、俺の背に乗っているのは上位の者だろうし

 体中をめぐる痺れの正体は全身を蝕む力からの痛みを回避するマヒだろうと思う。

 恐らくもう、助からない…

 でも、最後の力を振り絞ってでも標的を殺さなければ…そうだ、俺じゃなくても


  きりきりと音を立てながら周りを見渡したが、

 俺の仲間の波動は感じられなかった。

 数人の別の波動を感じた…俺の背中に乗ってるやつと同じような波動…

 そうか、失敗したんだ…きっとみんな死んでるなぁ。

 

 「 ああ、君は最後まで生かすことにしておくよ。

   普通なら、僕の力で即死の所なんだけど…何かの力が働いて生き残ってるんだもの 

   

   奥さんと子供かぁ…すげえなぁ家族の絆ってのは… 」


 目の前が血のように赤くなってくる。

 舌がひりひりと痺れて思うようにならない…それでも俺は必死に手を伸ばした

 ほんの一突きでもいい

 俺の命を捨てでも…家族を…ジーナぁ  ベルトネンドぉ…


  ぐぐぐと体の中から渦を巻く力が湧き出るのを感じる。

 そのままの体制で俺は無理やり体を引きずりだす


 背中からすごい勢いで何かが振り下ろされるのを感じたが

 ぼろ雑巾になってでも…


 「 はあ、しつこいねぇ…諦めたらどうだい? 」


 俺はいい…死んだ奴らも天命だしょうがない

 

  俺の変身が更に解けていくのを感じる

 青い狼みたいな頭部になり、口の中に獣の匂いが充満し、目は血走っていく

 背中に緊張の力が抜けゆるゆると体毛が伸び始めていく


 でも、あの糞領主は…きっと、家族を殺すだろう…俺やこいつらの…

 死んだ奴らはしょうがないが

 俺はいま生きているんだ…最後まであがこうが何しようが…必ず…


 「 はあ、馬鹿だねえ 」


 その声が響くと…周りの風景が渦を巻くように消えていき

 標的の女も風に消えていった…

 俺が、思っていた空港への連絡通路はそこに無く…ただの広い野原があるだけだった。



 「 な… 」


 俺は…種族の中でも下層に位置するが…こんな大空間を覆い隠す幻影を見抜けないほど間抜けじゃない

 と…今まで思っていた。

 

 「 それはな、レベルの差だよ。

   まあ、20も下のレベルにしてはよく粘るよお宅もねぇ 」


 20?貴族じゃんかそれ…それはそれは…絶望をさらに上乗せしてくれる…諦めるしかないか


 「 よぉ…あんたさ、さっきから家族がどうとか言ってるが…シャックス様が

   失敗しようがどうしようが一族郎党すべて殺しつくすつもりなんだぞ?

   分かってるか? 」


 はあ?それじゃあ俺…なんで

 遠くなりかける意識がその恐ろしい言葉に少し気が張ってくる…


 「 まあ、可哀そうを通り越して哀れとしか言いようもないなぁ… 

   どうだい?このまま生かしていられるほどわが主も優しくはないが…

   その命と引き換えに家族…そうだなぁここで死んでたやつの家族も一緒に面倒見るってことで

   協力してくれるか?

  

   まあ、そのためこちらのお願いが終わるまでそれなりの痛みと苦しみを… 」


 「 やってくれ…どうせ死ぬ命だ 」

 家族が助かるなら安いものだ…どうせ死ぬのは決定の大けがなのだから。


 「 そうか…じゃあ 」


 首筋に冷たい刃が走ると、凄まじい痛みが走る…その痛みはやがて落ち着くがヒリヒリと痛い。

 俺はその瞬間、周りの景色が何回転もして

 ぽトンぽトンと自分の背中で転がるのを感じた…










  

  






 









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