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死神 Danse de la faucille  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第七幕 温泉宿~Mer d’étoiles~
54/124

楓 みつき

  かなり前のあの日あの時…あの道を降りていたらと…

 少し前までひっきりなしに見ていた夢がある。

 ほんの一瞬の出来事ではあったけど、その道を下りて行ったら

 そこに何があるのかは分からないけど、

 きっと今とは違う人生が在ったかもしれないと今でも思う…




 私の名前は楓 みつき(今年、39だわトホホ)


  長い長い独身生活を送った私にとって、

 今この時を送ることが出来て結構幸せだと思う。


 なんとか見合いで結婚することが出来た。


” 簡単にはいかなかったよぉ~30過ぎで婚活って地獄だもん

   申し込んでも会えないわ、会ってもご飯食べたらサヨナラされるわ、

   勘違いした50後半のバーコードジジイには馬鹿にされるわ…

   同い年なのにヒモノ見る目で馬鹿にする男たち…魂がすり減るよマジで!


   そりゃそうだ!子供産むのが前提ならさ

   授業参観に40過ぎのババア(嫌な表現だけど事実)はきついし

   大学出て30くらいで結婚するとして…花嫁花婿の母として前期高齢者だもん

   計算すれば20代に行くわよ男なら私だってさ!

  

   でもしょうがないじゃん!モテたことも彼氏らしい彼氏いなかったし

   生きるのに必死で仕事してたもん!んで気がついたら32じゃん!

   不公平だっての!男はそこから年収あって選ぶ側だもん!


   まあ、でも諦めずに何年も経って…理想も要望もゴミ箱入れて下から目線で

   地道に頑張ってやっとやっと結婚できたんだ )


 で、その旦那は…カッコ良くはない!八つも年上!

 けど一生懸命働いて仕事は安定してるし稼ぎがいいし、貯金もある。

 容姿については44まで独身だったんで推して知るべし…

 170は無いし…腹はまあ出てるし…あの、手入れぐらいしましょうねって顔だ。

 でも、眼は優しくて、恋人には対象外って感じの典型的ないい人みたいなんで

 お見合いした。


 正直、写真より数倍酷くて第一印象でヒエエエッて感じだったけど、

 話してみると博識だし、常識があって、何より気配りも出来るし基本優しい…

 容姿なんか歳とればみんな劣化するし、それより真面目に仕事してるでしょ?

 丸高だった私は、まあこれでいいか…って妥協した。


 何度もデートを重ねてやっとベッドイン…

 正直、やり逃げされるかって思ったけど、大の男が土下座だもん驚いたわよ。

 更に旦那の童貞歴44年って告白を聞いたときはスゲー引いたけど、

 36まで処女だった(初体験がこの旦那なのよね)私が非難できる立場じゃないし、

 事が終わってシーツ赤くして嘘も言えないから

 ”貴方が初めてです…”って何故か36にもなって大号泣でベッドにひれ伏した。


 44で童貞で奇跡的確率で処女に当たった彼の喜び様は尋常じゃなく、

 直ぐに婚約、3週間後に結婚って言う有無を言わさない強行軍。

 結婚式なんか豪華絢爛…一族郎党はゆうに及ばず、

 知ってる限りの知人や取引先、果ては近所の人まで呼びつけての大騒ぎ。

 44と35の新郎新婦に生暖かい視線を浴びせながら、薄ら笑いすら浮かべられたけど

 旦那は涙を流しながら私に結婚してくれたことを感謝しながら指輪をつけてくれた…

 

 まあ、見た目とかどんくさい所はその誠実さですべて帳消しになったけどね。

 見た目は、私が気を付けて面倒見たら…まあただの不細工程度には改善されたしね。


 んで、直ぐに中古だけど結構な豪邸の一軒家買ってくれてのんびり専業主婦。

 中古でも何でも早く一緒に生活したかったんだねェ…いやあ快適快適!

 電化製品も何もかも、旦那が必死に買いそろえてくれた。

 

 結婚するまで勤めていた会社のあるビルのくすんだカビの浮かんだコンクリの屋上で、

 ”人生仕事に生きるんじゃあああ!”

 って一人で血の叫びをあげていた時代が嘘のように

 穏やかな人生になったし時間がゆっくり流れるようになった。 


 それから、旦那が張り切って直ぐに可愛い娘も出来ちゃって

 結構子育ては忙しいし…最近寝不足気味だわ。

 かといってセックスレスなんて卑劣な事はしない。

 専業主婦として働かない分だけ、旦那が求めれば毎日だって相手してるもの。

 愛情って言うより使命感?仕事?って部分は確かにあるけど

 夫婦円満、家族安泰、私と旦那の欲求不満の解消にはなるもの…ね。


 旦那は2つの娘の下に兄妹作るって張り切るけど、

 出来たら…私は40貴方は48じゃない…

 70過ぎても頑張って働いてねって脅すけど、大丈夫死ぬ気で稼いで貯金するからだって…

 目を瞑りさえすれば最高の旦那かもって思う。


 と、超鈍行に乗った人生が

 急にリニアモーターカーに乗り換えた様な人生を送っております。


 とここまでは壮大なノロケを言いましたが、

 ただ、それでも心も隅に納得しない自分がいる。


 旦那の事は…好きは好きだけどはっきり言って何かこれ違うって感じがする。

 娘も凄く可愛いけどやっぱり何かこれ違うって感じがする。


 そんな時、私が決まって思い出す光景がある。

 10年前、勤めた会社が倒産して自暴自棄気味になって高速道路を走っていた時の事を…

 何の変哲もない山々に、ただ紅葉がかなり立派でちょっと立ち寄るかな…って気持ちで

 インターを降りようと一瞬思った事が在った。

 だけど、まあいいかって…それを止めてその場所を通り過ぎた。

 そんな風な事はよくある事だけど、

 直ぐに後ろ髪惹かれる思いが大きかったし、何故かそれから何度も夢に出てくる。

 何年も何年も結構頻繁に夢に出てはきたが、

 不思議な事に、今の旦那との初体験と共にピタッと見なくなった。


 何だったんだろうなぁ…


  その時、ガサガサと庭の方から音がしたので何事かと思って庭に降りた。


 「 初めまして…ジャニスと申します 」


 高い塀に囲まれた庭で、そこに入るには頑丈な鍵のついた扉を開けないと

 人が入ってこれるわけが無いのだけど、そこには一人の女性が立っていた。


  その女性は、凄く大きな外国の人だった…

 銀色の凄く踵が高い10センチぐらいあるピンヒールを履いていて

 見た感じだけど2メートルぐらいある超巨体…私は160も無いので怪獣の様に見える。

 凄く怖い…


 で、昼間なのに真黒なミニのワンピース

 お尻が物凄く張っていてパンツが見えそうで、胸なんか零れ落ちそうに大きい。

 体が大きいのでバランスが取れているが尋常じゃない大きさのように思える。


 で、その上にある顔も、北欧系の外国人の様な顔つきだった。

 光り輝くプラチナブロンドで、

 鼻筋は通っていて、高く。

 深みのある碧眼に、輝く様な白い歯が並び肉感的な赤い唇の口元…


  「 誰よ…あなた 」


 震える口で私がそう言うと


  「 えっと、ジャニスって言いましたでしょ?もう忘れたんですか? 」


 う…頭が痛くなる返しだわ。


  「 じゃなくて… 」


  「 ああ、私がここに来た理由ですかぁ?

    貴方が前々から気にしていたあの時が何だったか教えに来たんですよ…

    というか、こんな風に外れた時間軸を修正に来たっていうのが正解ですけどね 」


  あの時?時間軸の修正?何言ってんだよこの人…頭おかしいんでないかい?


  「 別に頭はおかしく無いですけどね… 」


  私は、何も言っていないのにそう答える不気味な女性が怖くなって

  家の中に引き返そうと力の入らない足を回すけど、

  庭に面したサッシや扉はビクともせずに全く開くことが出来なくなっている。

  あまりの事に怖くなって腰が抜けてその場にしゃがみ込んでしまった。

  それから、何故か急に足の先から血が抜ける様な感覚が私の体を支配していく…



  「 おかしいのわね…あなた。本当ならこの世界にはいない人なのよ。

    なんせ死んでいるんだから本当ならば…


    そして、あの時あの坂を下りていくのが本当の運命だったのよ

    その先にこそあなたが行く世界だったし、

    貴方が長い間処女を守って来た理由でもあるのよ… 」


  何を言ってるんだ…さらに意識が遠くなっていく気がする。


  「 大丈夫、目覚めたらあの時にちゃんと戻るから 」



  私は、さらに薄れ良く意識の中で、

  8つ違いの誠実で見た目は不細工な夫の顔と

  二人には全く似ていない天使のような笑顔を浮かべる自分の娘の顔が浮かんだが

  それもすぐに暗闇の中へと消えていった。












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