ウイルス
俺は、向かい側に立つ女を見て驚きを隠しえない。
何もかもがジュリと同じだ、はち切れそうな胸とお尻に、
風になびく輝く金髪も、そして見上げるような巨体も…一卵性の双子のように見える。
「 当たり前でしょ、私がコピーしたオリジナルだもの 」
しかし、同じ姿かたちはしているけど受ける印象は少し違う…
ジュリに比べればその眼には邪心は無く、ジュリの蕩けるような色気と違い、
はち切れるような若さと優しさを感じる…いやあ、俺も感覚が爺だわ。
「 悪かったわね、邪心も無く能天気に暮らしてきたわけじゃないんでしょうがないでしょ!
大体、あの子のあの感じは似せようと思ったって似せれるわけないじゃないの!
何百年処女やってるのよ馬鹿じゃないの? 」
は?処女ってあれが?
「 しかし、誤算だったわ…グリムリーパーぐらいなら何とかなると思ったのに… 」
ジュリは、さっき”舞踊の鎌”って言った死神の使うような大きな鎌を見ながら、
一筋の汗がこめかみを走らせる。
「 グリムリーパーに、コプートスの上位能力者にズルヌス…よくもまあこんな人数
それに、神をも滅するコプートスの”舞踊の鎌”もあんなに沢山…
しかし、なんだってこんなに別の次元の者たちが一堂に集まるのかしら?
私が念入りに結界を作って閉鎖した世界に割り込む力があるのも驚きだけどねえ… 」
呆れた様な口調だが、目は周りを慎重に伺っている…対策を練っているようだった。
「 人数が多いのはフェリルの馬鹿が執政者として、
あたい以外とは上手く付き合ってたからだよ。
ああ、それからこの結界な、あたいには無効なんだよ。
あたいしか持たない家宝のドレスと、特殊能力のおかげってとこでね。
今でも、閉まらないから…入って来る人数にキリが無いわよ。 」
とその言葉も終わらないうちに、
ゆるゆると空間が歪んだと見えたと同時に、新たな者が現れる。
「 結構久しぶりに着たんで胸がきついんだけど… 」
ヒラリーは赤い羽根の襟飾りの中に手を突っ込んで、胸の位置を直す。
かなりきついのか顔が引きつる。
「 あの魂の回収依頼から全てがまやかしで、
何もかも幻だってのはあんたの姉さまから聞いているんだよ。
まったく手の込んだことしてくれたもんだよなぁ、
幻想と結界であたいや、フェリルを騙し切れるって思ったんだろう?
だけど最後に、種明かししながら更に騙すって言うのは
流石に手が込み過ぎていたし、
直ぐに確認しに行ったんで分かったんだけどな 」
「 姉さまに確認? 」
「 この手紙は貴方のものですか?ってな…返事は即だったな 」
「 それで私にたどり着いたのか…あの偏屈者が誤算だったわ。
あの人の名前さえ見せて、
奇跡の一部でも添付すれば何もかも諦めるって思ったんですけどねぇ 」
ジュリは、そう言うと観念したかのようにまた椅子に座った。
「 で、どうするんですか?この後 」
開き直った言葉を吐きながら、上空に向かってため息を大きくついた。
「 まあ、滅してもいいってのはあんたのお姉さんに聞いているけどよ
現実には何も起きていないし、
幻影であたい達が右往左往して、そこの魂が何万年も事象を経験した事ぐらいだしな…
滅するのも骨も折れるしな。
実質的なこっちの被害はフェリルの脚ぐらいだから、
皆で相談して決めているんだよ…説教して放置ってとこで勘弁してやることにしたんだ 」
「 は!神を説教ってどの口が言うのかしら?
私が本気出したら…勝てないまでもここの半分くらいは道ずれに出来ますけど? 」
不敵に嘯いたが、
「 戦争なんかしないよあんたは…
うちらだって長い事生きて来たからって死にたい奴なんかいない
ましてや、数十億年も生きているあんたが死を選ぶわけないだろう?
それに、こんな強引な方法で世界の改変を行うより
普通に時間を掛ければ出来るんだろ?数万年単位はかかるだろうけど
不死のあんたに取っちゃあ大した時間じゃない筈だ 」
冷静に冷めた目で腰に手を当てながら
気にも留めないような態度でそう返した…すでに、この話は終わりだとでもいうように。
「 まあ、そうですけど…優しいんだね、はあ、説教か…
何万年分もこの地に
現実に近い情報量を構築して、この世界を描き変えるって意気込んでいたのに
最後はただの説教ですか… 」
きっととんでもない徒労感だとは思うが、ヒラリーは大した感傷もなく
冷静に言葉を続けた。
「 それに、百の口を持つベスの説教聞いたらあんたも諦めるって思ったし… 」
ジュリは、ヒラリーの横ですごい剣幕をしているベスを見て
「 分かったよ…やるんなら早くやってくれ。
全部聞いたら、元の姿になって暫く引きこもるとするからさ。
数千年も引きこもれば恨みも少しは薄れるでしょうしね 」
ジュリが、僕の背中をゆっくり押してヒラリーの元へと押し出した。
「 悪かったわね…しかし、どんな悪い記憶や現実があっても
何もないよりは数万倍マシなんだけどね…後はヒラリーに委ねなさいな。
凄まじい…あんたからすればそんな量の世界を見せて来たけど
それは全部、私が作り出した幻影だから…今後は気にしないでね 」
「 気にするな? 」
何万年も俺が現実として受け止めて来たものが全て幻だって?
気にするに決まってるだろが!
というか、徹頭徹尾に何言ってるのかちっとも分んないんだけど…
「 ねえ、ヒラリー…この子の記憶の方はお願いできないかしら?
私が消してもいいけど…それじゃあ、あまりにも可哀想だから 」
「 へえ、可哀想なんて感情があるんだ…
確かにこのまま真っ新ってのは酷過ぎるよなぁ…でも、結構な仕事量なんだけど 」
「 それは、この間構成した空間がまだ残ってるし、幻想体もまだまだ残ってるから…
それを使ったらいいんじゃない?
あんたは仕事が込んでるから管理が大変だけど、
うちなら仕事の合間に何とかできるし…まあ、猫でも飼ったと思って面倒見るし 」
なんとなく、俺が猫扱いされているのが分かるけど言ってる内容の理解がしがたい。
「 そうか… 」
ジュリは更にもう一度周りを見るが、取り囲んでいる人数がさらに増えていくのを確認して
すっかり諦めたようだ。
3週間後…
あの後、ギーディアムから詳しい事情とそれに至る経緯などを詳しく聞かされた。
詳細に物語として時間をかけて話してくれたので丸2日もかかるほどだった。
それは、殆ど俺が事実として認識するためだったので、要約して話す事にする。
大昔、悠久の時を彷徨う仲の良い姉妹の神様がいて…ある時、一つの恒星に辿り着きました。
( これだけで5時間以上かかるお話でした )
仲の良い姉妹は、力を合わせ混沌としていたガスや塵を能力を使って金星と地球を作り
それぞれがその星に住まう事になりました。
水星や、火星、外太陽系の星達は彼女達の余波を受け自然に造られ
( 宇宙物理学完全無視の話だが、それが真実だからそう認識するしかない )
地球と火星は姉妹の神の力で生き物が溢れる水と緑の世界となり
お互いの星を行き来しながら暫くは(数億年)幸せに暮らしていました。
しかし、姉妹とも姉妹とは別のそれに近い存在が欲しくなり、
眷属とも呼ぶべき存在を各自に造り出して行ったのです。
ただし、初めての眷属に力を与え過ぎ環境を破壊しながら莫大な繁殖力を持って
その星を自由に使いだしました。
神も、全てが自分で作り出せるので信仰と従順であればと見逃したのもいけないが
やがて、お互いの星に目をつけ始めました。
人類レベルであれば惑星間での戦争など人類が滅亡するその日までありえないのだが、
数段上の眷属たちは僅かな時間で技術を作り出し戦いの日々に入りました。
で、各眷属は最終的に姉妹だという事を知った上でこの戦いの加勢を頼みます。
しかし、二人の出した結論は眷属の消滅
全てがリセットしたのですが、妹の方はもう眷属も何もいらないという事で
金星の維持管理を放棄、その後ほどなくして死の星となりました。
優しい姉は、金星がおかしくなる前に全ての生物を地球に引き上げて
今の生物体形の源となりました。
さて、妹の眷属も作らず全ての管理を放棄した原因であるが、
彼女は眷属の一人に高次元な存在なのに恋をしてしまっていた事です。
更に合意の上で全ての眷属を消したので
彼女は自分自身の存在の意義をなくしたからだった。
やがて月日は流れ、妹が亡くなってしまった眷属の呪縛から解き放たれたのが
つい、数十年前
金星は死の星に
しかし、姉は地球で新たな眷属を作り幸せに暮らしていましたとさ。
そこまで聞かされて、ギーディアムが言った言葉
「 でな、新たな眷属が姉の旦那になって子供も作っていましたと…
目覚めた妹が思うことは、だいたい決まってるよなぁ 」
嫉妬と、眷属は作らない約束を裏切った…引きこもりの妹の言うセリフじゃあないんだが
事への憤慨。
数億年も灼熱の死の星で呆然としていた妹の怒りと悲しみは想像できないだろう。
「 でも、地球の管理及び全ての事柄は姉の管轄にあって妹自身には何もできない。
指をくわえて、
眷属と姉の幸せな生活をただ見ているだけ…それがさらに数千万年。
妹に取っちゃあ地獄だよなあ 」
「 それと、今回の出来事と何が関係するのかなぁ? 」
「 それね、彼女はあの自分が作り出した魂を使ってウイルスを作ろうとしてたの。
精神的に真黒な悪魔のような魂をね。
いくつか魂を…同時並行で情報を落とし込んで、それを統合する
で、今のあんたがその最終形…もうすぐで世界を改変する波動を持つウイルスに
なるところだったわ。
発動条件を満たすのは非常に難しいですけど、発動できれば
この地の神ともいえる姉でも止めることは出来ないほどの力でこの世は滅びます 」
「 ウイルスですか… 」
嫌な言葉だ…その場合なら俺は消滅するのが筋だろうな…
「 へええ、分かっているじゃない 」
ギーディアムはそこまで言うと、
ソファーに腰かけてる俺を、巨大な姿となって見下ろした。
「 消滅させるなら…回りくどくやらなくても一気にやればいいじゃないか 」
「 自分が死ぬときに理由位欲しいでしょ… 」
次の瞬間、俺の意識は潮が引く様に消えていった。




