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死神 Danse de la faucille  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第六幕 罪 ~Punitions sévères~
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混沌の神と嘯く女

  最初の神とうそぶく彼女は目を丸くして俺の顔を見ている。


  目を丸くして…って、感情なんてあるんかいな?


「 ああ、ありますわよ普通にね。じゃ無ければ存在に意味なんてあります? 」

 

 言葉にしなくてもやはり読まれる…フェリルたちと同じで気持ちは悪い。

 それに言い方が高圧的で気に入らない。で、ちょっと感情的になった。


「 ミジンコとかゾウリムシとかアメーバーとか…連菌類やバクテリアとか… 」


 物凄く嫌な顔をされた。


「 まあまあ…そこまで言えばありませんわよ。

  ついでに石とか水とか果ては重力だって存在ですからね…小学生ですか? 」


 まともにそう言われて恥ずかしくなって目を逸らすしかなかった。

 だけども、

 あんたは人間じゃ無いんだから、結構、根源的な哲学的疑問って思うんだけど。


「 単純にわたくしにも感情があるって事で納得しなさいね 」


 考えているのが分かるのに断言して終了…説明するのも嫌なんだろうな。

 

「 って事は…気分を害すると俺に不具合がある可能性があるから… 」


「 普通に気を使ってくださいって事です 」


「 よく考えて発言しろと… 」


「 そうですわね、言葉に出して何か言うときには注意してください。

  考えていることは分かりますけど、

  人間の意思は整理して、言葉にして相手に伝えないと正確なものではありませんから 」


 う~ん…ま、人間の思考や感情ってのは混沌の海のように定型化していないから

 言葉で整理してってのはよく分かるわ。



「 まあ、名前ぐらいはちゃんと言ってもかまわないでしょう。

  ジュリエルータ・ディアボロスって言いますわ…

  ジュリエルータか、ジュリと簡単に呼んでいただいても結構ですけどもね 」



 そうか、ならジュリでいいな…ディアボロスって悪魔みたいで言いにくいし…


「 ならジュリさん。ここはどこですか? 」


「 どこって、見れば分かるでしょ?海岸でしょ?

  正確にはインドネシアの外れの無人島です…名前は無いですけどね 」


「 へえ、じゃあ現実世界って事ですか?幻じゃなく… 」


  えっと、俺がさっきまで見てた世界じゃあ滅びてんですけど地球はさ。

 って事は時間が違うんかなぁ…SFみたいに。


「 幻作るの意味あります?ちょちょいと並行世界に行くだけで済むのに? 」


「 並行世界って… 」


「 う~ん、超弦理論とかいう初歩的な説明なら人間でも理解できますけど

  聞き取れる速度で説明すると1時間は… 」


「 ああ、いいですいいです 」


 いかに前世が物理学者だとしても今は普通の人間だから理解できないし、

 理解する意味もない…

 SFで理解しよう…確か同じ構成要素で出来た別枠の世界って事で良かったよな?


「 そうだとしたら、いまここにいる俺自体は何なんですか? 」


 魂の状態だったはずなんですけど…


「 おかしなことを聞きますわね…正真正銘の生身の人間ですわよ。

  今迄と少し感じ方が違うでしょうに理解できませんか? 」


 確かに…彼女と会ってからやけに世界が重々しく感じる。

 なんて言ったらいいか…情報だけでない中身の詰まった空間って感じ?



「 ですわ。貴方はさっきまで魂の存在でしたけども私が変換しておきましたのよ 」


 混沌の神を自称する存在だ…何でもできるんだろうと諦めた。


「 因みに私も今は生身の肉体ですわよ…触ってみます? 」


 座っていたジュリは大きすぎる胸を揺らしながらすっと立ち上がった。

 柔らかそうなお尻を左右に揺らしながら俺の方にゆっくりと歩いて目の前で立ち止まった。


 物凄い迫力だと思った…俺だって180近いけど彼女の大きさは半端なかった。

 大きな手が俺の手を掴むと、

 馬鹿みたいに大きな胸に押し付ける…物凄く柔らかくて温かい胸だった。

 その上で彼女は俺の顔のすぐ手前まで大きな顔を近づける。


「 ね、幻じゃないでしょ? 」


 い…下半身が反応しそうになるのを必死に堪えた。

 確かに生身の人間だ。

 果実の様な甘い匂いを伴って熱い吐息をかけられたら…生身としか思えない。


「 まあ… 」


 頑張ったつもりでも、反応している下半身を彼女は見て可笑しそうに笑った。


「 何千人も経験しているのに、こんな簡単に反応するのね…凄いわね私のこの体。

  う~ん、久しぶりに肉の楽しみってのをしてみたい気になりましたわ… 」


「 はあ? 神様なんでしょ? 」


「 それはそれ、これはこれ…今は人間でもあるから不思議じゃないですわよ。

  でも、惜しいかな今日はそういうのをすることが出来ませんわね…時間もないし 」


 でも、ジュリは俺の頭を片手で抱え込むとパラソルの下まで引きずっていく。

 胸と二の腕と柔らかいお腹と時々触る腰のあたりが気になる…

 更に吐息とは比べ物にならない甘い匂いに俺の全身が痺れていく。


「 まあ、座りなさいな…恥ずかしかったら 」


 ジュリが何もなかったその手に瞬時に大きめのバスタオルが現われる。

 前かがみで涙目の俺には天の助け神の助けだ…ありがたく使わせてもらおう…

 さっと座って足を組み、すかさず股間を隠す様にタオルを被せる。


「 惜しいわね… 」


 名残惜しそうに俺の股間をジュリが見つめる…そんなにいいものだっけ?sexって?

  

「 で、ここに俺が何でいるのかな? 」


 ちょうど、美味しそうなビールがグラスでテーブルにあったので一気飲みする。

 いやあ、生身って本当だな…凄く気持ちいい。


「 私が呼んだからですわ…当たり前でしょ 」


 いや、そんなの分かってるから…理由を聞きたいっていう意味なんですけど


「 ああ、意味ですね。

  その前にですね、あなたが最後に見た景色の続きはどうなったか気になりません? 」


「 そりゃあ、まあ… 」

 気にはなるが碌でもない事だろうなぁ…


「  貴方の発明で人類は一時の絶滅は回避し人口もやや持ち直しもしますが、

  あくまで一時的に過ぎず…200年後で絶滅します 」


「 そうか…愚かだものな人間ってのは… 」


  あまり、感慨はなかった。

  大体、今の俺にとってそれが過去であるとしても一度終了し消し去った意識の上に乗った記憶

  つまりはかなり高精細な映像と音声で作られた世界を見せられていただけだし、

  何にせよ俺にとっては終わった歴史なんだから。


「 そうですか?雲が晴れずに人類が絶望の中で、徐々にゆっくりと滅びたのに? 」


「 なんだよそれ…俺のせいだとでも言いたいのかい?

  雲は最初から半減期で100年って計算だったし、晴れ上がるのに300年以上ってのも分かってた事だろ? 」


 アホか…俺の見せられた記憶が最後だとしたらあれ以降の出来事は俺の性じゃあないだろ?

 それにあの状況も、人類の絶滅の可能性は50パーセントはあったんだから

 承知の上だったはずじゃないの?

 大体、あの方法以外に終末戦争で人類の生き残る可能性はゼロ…というか即詰んでたんだけど…


「 貴方の性とか言っていませんわよん…一応、200年は生き延びるんですもの。

時間は十分に会った訳だし、努力が足らなかったともいえるしね。

  それに、生物のサイクルからもいつかは種族って絶滅しますから…運命だとしても仕方ありません。


  ただね、貴方が過ごしてきた過去の結末が戦争自体に関係しているって言ってるだけですのよ 」


 おかしなことを言う…あの戦争のどこに俺が原因の話があるんだよ。

 それにだな…


「 あんたさ、混沌からの神って言うぐらいなら、やたら俺の事ばかり言うけど

  気に入らない結末や気に入らない経緯があったとしても途中で軌道修正する力はあるだろうし、

  最悪、決定した事象についても時間を遡ってリセットしたり、

  力技で結末事態を書き換えれるんじゃないんか? 」


 ジュリは俺の話を聞いてその場で高らかに笑った。

 

「 あなたは、神ってものを誤解していますわよ。

  私は神であっても奇跡ってのも限定的な力の行使ぐらいしかできません。


  例えばそうですね、時間を逆転したりなんてのは勿論できませんし、

  私の物理的干渉も精々太陽系に限定していますのよ。

  そうですわねぇ…10万天文単位が限界です 」


 10万天文単位って…地球と太陽の平均距離間が1天文単位だから…その十万倍か…

 オールとの雲までぐらいかな?

 膨大な空間ではあるけれど…神の領域って言うには狭いような。


「 天空に下がる星たちも神の領域って昔、聞いたことがありますけど? 」


 宗教まで落とし込むと神の領域というのは存在する世界そのものなんだけど…


「 勝手に思い込んでるだけですわね。

  宗教ってものは、数多ある神の存在を無視して人間が支配しやすいものに変えたか、

  集団ヒステリーみたいなものですわ。


  まあ、八百万の神って日本には信仰がありますけど、現実はそれに近いですのよ。

  実際、神話なんかでも狭い自分たちの世界が中心になっているでしょ? 」


「 宗教全否定ですか… 」


「 だから、勝手な思い込みって何度も言ってるでしょ?

  端的に言ってですね、あなたがいた世界みたいに人類が全滅したら

  キリスト教の審判の日なんかが来ると思いますか?


  人類そのものの定義もはっきりしない中で、無数の魂が復活して

  それらをどうやって捌くんですか?


  それにおおよその宗教って言うのは、最後は神が許し神が救い、でなければ神の世界に転生する  

  ってのが殆どで、無責任極まりない妄言でしょ? 」


 ちょっとジュリさんは顔を赤くして俺に何かをぶつけるようにそう話した。


「 まあ、現実的に私が守備している範囲を教えましょう。

  物理的範囲がさっき言った10万天文単位だとして、先述した並行世界も管理はしています。

  まあ、膨大ですわね…意思を持った存在が自分自身の膨大な情報を処理しながら

  管理していくには神としてもここらが限界ですわよ。

  

  殆どの並行世界が今の世界で同じように時間が流れていますわ。

  ただ、生物絶滅が2つに人類絶滅がそれを含めて4つありますわね。

  で、それら全部あなたが潰した世界ですわ 」


「 だから、知らんて! それになんで俺が潰したことになるんだよ!

  あんたさ、神様なんだから何とかすればいいじゃんかよ 」


 アホか、並行世界って言ったって存在自体は別な個人だろう?


「 ええ、だからこうしてここであなたと話しています 」


「 あ? 」


 なんか、話の進まない禅問答のようになって腹が立ってきた。

 くそ…


 俺は、何処までも済んだ青空を見ながら

 潮の匂いを肺いっぱいに吸い込んで大きく深呼吸して気を落ち着かせる。


 仕方ないな…ここは俺が折れて、ジュリの言う事をすべて受け入れるしかない。

 俺の考えている内容など

 限定範囲とはいえ凄まじい知識の塊の神とやらに対等に話などしても意味ないし、

 どうせ、騙されていたとしても分かりはしないのだから納得しよう。



「 分かったよ… んで、どうしたいんだよ 」


「 死んでいただきます 」


「 はあ?何度も死んでるだろ?それに、ここで俺が死んだって並行世界じゃあ… 」


 馬鹿な話過ぎて閉口してしまう。


「 人間の言う死ぬというのは、生身の肉体から霊体や転生なんかを意味するでしょうけど

  それはただ単に変化なんですのよねぇ… 」


「 お前、矛盾してるだろ?生物の絶滅した並行世界ってのはどうなるんだよ?

  そこで全部終点になるんじゃないのか? 」


「 いえ、並行世界に飛ばされて単純にその世界の生命の量が変わるだけですわね。

  まあ、別次元のコプートスやジュールス、グリムリーパー、ズルヌス諸々の世界に

  転生したり移住したりはしますけど…

  私が統括している世界の生命の量そのものが変化することはないのですよ。


  あ、初めに言っておきますけどミジンコやゾウリムシってのも生命には違いありませんから

  人間がそれに転生する事もあるってのを付け加えましょう 」


 しつこいなってか、よく覚えてるわ…



「 んじゃあ、あんたの言う死んでいただきますってのは…どう違うんだよ 」


「 簡単な事ですわ…存在しなかったという世界に書き換えるって事ですわね

  そうすれば…その世界での破滅は回避できるでしょうから 」


 俺の存在自体が迷惑にしか感じられない…これじゃあ悪魔の方が可愛い位だが、並

 行世界がどれほどあるか分からないが理論的に考えても相当な数の俺がいる事に…


「 ええ、貴方で20人目ですわね 」


 おいおい…本当かよ。


「 でも、一つ聞きたい事がある…こんなまどろっこしい事しなくてもだな

  俺の意思などまだ形成していない…例えば胎児とかそんな段階で

  有無を言わさず消滅させればいいんじゃないのか? 」


 ジュリは呆れたように大きく口を開けた。


「 それが出来るのなら既にしてますって…出来ないからこんなめんどくさいことしてるんです。

  世界を崩壊させるまで生きさせないと、その世界の存在自体が無くなりますから

  

  全部終わった後に始末してですね…時間を少し進めて世界をやり直すんですよ

  なに、魂なんてのは並行世界で幾らでも補充できますしね 」


 良く分からんが…まあ時間を逆転してやり直すより10万年ほど進めてやり直せば関係ないか

 相対性理論でも時間を進めるのは可能なんだからな



「 でも、まだ疑問がある。何故ヒラリーたちを巻き込んだんだ? 」


 俺の質問にジュリノ顔が少し曇った。

 何かおかしい…




 その時、黒い霧の様な雲が急に俺の前に現れた。


 それはやがて人の形になって、直ぐに俺の知った人物になる。



「 どうして 」


 ジュリが真っ青な顔でその人物を見る。


 この間とは違う真っ赤なロングドレスに白い鳥の羽根の首飾り、

 そして同じ真っ赤なピンヒールを履いて180センチの長身がジュリとの間に立ってくれた。



「 あんたらさ、幾ら神だって言っても姉妹げんかにうちらを巻き込むなよ 」


 背中越しで顔は見えないが、明らかにヒラリーだった。


 ジュリの額に汗が…おいおい神様なんだろう?


「 そうそう、それに友達同士を争わせて面白かったんですか?

  おかげでフェリルは酷い傷を負ったし、私は怒っているんですよ 」


 ジュリの背中の方から見た事も無い女の人が怖い顔をして立っていた。

 160センチそこそこの小さい体だが、はっきり言って物凄く怖い感じがする…

 怒りに震えて唇がワナワナしているのが分かる。


「 べ…ベス 」


  ジュリの顔が少しこわばったが


「 しょうがないわね…みんなまとめて始末すれば 」


 それでも自信があるのかひくひくと唇を震わせていたが、次の瞬間に目を丸くしてその場に固まった。


 俺の後ろに沢山の気配が感じたので振り返ると、

 奇妙な服を着た人たちが大勢立っていた…その中にジュリと瓜二つの人物が見える。


「 友達を見事に嵌めてくれましたわね、覚悟はいいですか? 」


 真っ黒なミニスカートのワンピースを着たジュリと瓜二つの女性がそう言うと

 なにも無い空間からとんでもなく大きな鎌がゆっくりと降りて来た。


「 ぶ…舞踊の鎌 」


 ジュリの顔が急に引きつったのが分かった。

 

  












  

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