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死神 Danse de la faucille  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第六幕 罪 ~Punitions sévères~
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”罰”の始まり

 その連絡が入ったのは、全てが終わり、

依頼通りになった健二を転送してから寸刻も経たない頃だった。


「  アルテェイシアムは健二の事にはもう手を出さないって約束したわよ。

  私も骨を折ったし、あんただって彼女の脚を粉砕したんだから、これで決着にしてね。

  ああそれと、彼女の全治には半年ぐらいかかるからお見舞いは出してよね…友達でしょ 」


 ベスはそう告げると、別れの言葉だけ伝えて私への電話を切った。


  そうか…やっぱり死ななかったんだあいつ。

 しかし、足を痛めて全治半年か…空間ごと押しつぶしたのにそれなら軽い方だと思う。

 見舞いは…そうだなぁ、

 お互いに国家の元首だから形式的でも適当なものでも包んで見舞いぐらいするか。


  既にあたい達の手を離れて健二は依頼主に送ったから、今はあの騒ぎも過去の事だし

 実際の所フェリルに物理的にダメージも受けてないし気にはしないが、

 友達ってのは違うな。

 大昔は確かにそういう時期はあったけど、

 人の旦那を奪おうとしたり、殺し合いするような変態女なんか私の友達の訳ないじゃない。

 

  今回は妙な依頼だったなぁ罪の意識を感じさせて送り付けろってのはさ。

 ギーの言う通り、幻想空間で過ごさせてこちらで操作しながら普通の人生を送らせて、

 普通の考え方を叩きこんで何とかしたのが効いたのは良かったけど。


  しかし、最後の仕上げは後味は悪いもんだった。


 ギーディアムの作った閉鎖空間の中で行った最後の方法は、

 残酷な処置だった。

 なにせ、その記憶はあいつには無いのだから可哀想だともいえた。

 それは、彼の行ってきた殺人や重犯罪を追体験させる事だった。


 勿論、犯罪を犯す心理との同調は無くただ行ってきた行動を感じるだけだ。

 実際に殺したり、罵声を浴びせられたり、呪いの言葉を吐きかけられたり

 そんなどうしようもない感覚だけを感じるようにな。

 莫大な情報量だが、すでに起こった事なんで特に苦労は無く再現できた。

 恐らくこれ以上の残酷なことは無いだろうと思う、しかし、

 それは彼の”罪 ”であるし、また彼に対する”罰”でもあるからだ。





  暗い洞穴の中、俺は200人目の男を殺した…

 凶器は俺の両の拳…岩にぶつけて倒れた所を馬乗りになって滅茶苦茶に殴った。

 息が止まり痙攣しても殴っている俺は終始笑い声をあげていた。

 気分?最悪だよ。

 なにせ、先生が作った世界でも親友だった幸次郎の顔をしているし…

 原因?

 くだらない理由だ…女の取り合いで俺が先に自殺するほど無理やり犯しただけだ。

 流石に200人も手にかけてると感覚がマヒしてくるなぁ… 

 でも、まだ序盤も序盤だろうなあ…先生が言うのが正しいのなら10万人も殺してるんだし。

 転生もまだ2回目…農夫だけどまだ前よりはましだ。

 最初の俺はどうしようもない屑で街道沿いで、闇に紛れて金目当てで100人以上殺してる。

 その上、最後は掴まって火炙りだったからな~

 今度はどんな死に方するんだろう俺って…


  犯罪をするのは俺だが、それは俺であって俺でなく当然制止も出来ない。

 ただ、感覚が入って来るだけでまるで映画を見ているに無常に時間が進むって感じか…

 気持ち悪いなあぁ俺って、

 今度は、興奮して犯しまくった女の妹の家に向かって歩き始めている。

 吐き出しそうなほどどす黒い性欲を抱えて…それでも今の俺にこの俺は止めることが出来ない

 なにせこれは、俺という魂が犯した罪の記憶でしかないのだから。

 例えその女があの世界で愛した娘のあやねの魂としても…


  3度目の転生は…更に気分が悪い。

 なにせ、あの世界で俺を苦労して育て上げたお袋を殺したんだからな…

  

  4人目の転生まで来ると、俺の殺した人間は千人を遥かに超え、犯した女は更にその数倍

 金や財産を奪って絶望のうちに人生を終えた奴は星の数ほどいるだろう。

 しかし、いくら転生ごとに記憶がクリーンインストールされているって言っても

 飽きないもんだな俺って…本性はどうやっても変わらないっていう事か?

 じゃあ…今、こんな風に思っているのは何故なんだ…


 5人目の今度は、古代中国の平原が舞台だった。

 この時代では珍しくもない盗賊の頭だ…

 勿論、ロビン・フットやフランシス・ドレークみたいな英雄や義賊の類の訳が無い。

 

  頭には20でなったが、なったころには既に200人は殺していた。

 若年で這い上がる為、身内でも何でも必要なら殺したから人の命に敬意など無くなっていた。


 で、ここで初めてあの世界での俺の記憶に合致する人間が出て来る…瑞希だ。

 この世界では瑞罕见るいはんじぇって呼ばれていた…出会いは最悪だった。

 フェリルの見せてくれた夢と同じ…


  彼女の里を焼き、身内を殺し財産を奪い、幼馴染を両断した。

 彼女の意思など無視して犯しつくして焼き印を押して俺の奴隷にしたんだ。

 最悪な性的な恥辱と、

 奴隷として引きずり回し挙句精神を壊した瑞希は俺の思う通りの人形になった。


 まあ、顔は良いし体は頗る調子が良いので奴隷の中でも寵愛してやったみたいだ。

 但し寵愛って言っても猫や犬よりちょっとマシって所だがな。

 馬に乗るのが上手かったので興味本位で格闘技を教えると筋が良かったんで

 更に剣術を教え、算も教え、暗器も教えた。

 精神が壊れているのか、ただ言われるままに瑞希はそれらを吸収した。

 腕も相当上がったところで、瑞希を護衛として寝所に置いておいた。

 暴力で反抗心は刈り取っていたし、

 食うや食わずの田舎暮らしと違ってちゃんと食べれる生活を送らせれば

 その生活を失う事などできないので従順になる。

 体には飽きた女は無駄飯食いにしかならないんで売り飛ばすか殺すかだが、

 役に立つ瑞希は殺す訳も無かった。


 暫くして俺の家族は1000人を超える大所帯まで大きくなった。

 当然一人では面倒見れないんで部下に人間を分けさせるって事をした。

 瑞希はそのころには仕込んだ能力が高くなっていたし、

 ちょっかいかけて来る盗賊の仲間を血祭りにするぐらい強かったんで

 100人ほど与えて長にしてみた。

 俺には絶対服従の犬みたいなもんで信用もしていたみたいだからな。


  俺の住んでた国は京香っていうんだが、そこで俺達は好き勝手やり続けた。

 二つ名もついた”京香の悪魔 ”…その通りだった。

 瑞希にも”京香の殺人鬼”とか”死の使い”って呼ばれて恐れられた。

 なにせ特攻隊で先陣切って殺しまくり、

 命乞いする言葉など聞かず機械の様に殺していたから当然だろう。


 俺たちは沢山殺した…部下が殺したのも含めると5000人は下らないだろう。

 街もかなり焼き払ったが、邪魔な兵隊や自警団も根こそぎ殺していき

 最後にはその国の国王も殺し俺が支配者となった。

 汗水たらして奪わなくてもシステムで税金という名の盗賊行為が出来て楽になった。

 タダそうなると、国が豊かにならないと税でかすめ取るのが大変になる。

 

 昔の経済活動なんてのは戦争が手っ取り早いんで、

 無能だったこの国の兵を盗賊流で鍛え上げ、隣国に攻め込んで数万人は殺した。

 肥沃な土地が手に入り、家畜も水も手に入った。

 

  ただ、このころになると莫大な記憶で後ろで見ていた俺は頭が変になりかけてはいた。

 しかし、まだ合計で3万人しか殺していない…これが後7万人か…先生が言うのが正しければ。


 しかし、国が豊かになり俺だけでなく部下が財を手に入れ力をつけることになる。

 盗賊なら有無を言わさず粛清できるが、領主ともなれば情報が取れなくなった。

 そして、国王になって数年で謀反に会ってあえなく死ぬことになった。


「 悪いな…最後はお前の手で俺を殺してくれ 」


 最後に俺を殺したのは瑞希だった…大切なものを奪い心も壊したというのに

 俺の傍には瑞希しか残っていなかったからだ。


 瑞希はなんの感情も無く機械の様な顔をして俺の胸に剣を立てた。

 俺は、その時5度目の人生で初めて心から笑った。

 人形の様に付き従ってくれた瑞希に最後には恨みを晴らされて殺されることを…


 ただ、息を引き取ってもその人生の続きが少しだけ見えた。


  大粒の涙を流して狂うように泣き叫ぶ瑞希の姿を見ることになるとは思わなかった。

 そして、彼女も最後には自分の喉笛を切って自害したところを見た。


 そうか…そんな風な事もあったんだな俺って…

  どうしようもない人生の繰り返しの中で、俺は見落としていたんだ愛されていることに

 憎しみと絶望から始まったので異様に捻じ曲げられた愛のカタチだが…


 だから、先生の作った世界で瑞希と幼馴染で結ばれる時もあったんだなと思った。

 幻想体は何も細工はしていなくて自由に動いての世界だって言ってたしな…

 俺は、幸せだった先生の世界の事を思い出して気も狂わんばかりに泣いた。


 更に転生を続けても、特に俺の人生は変わらなかった。

 血と絶望を浴びせられ、それをあざけ笑い快感と共に殺していく糞みたいな人生だった。

 あの世界で知り合った友達や知り合いなんかの魂とも出会い殺した。

 そこまで来ると、先生が作った世界っていうのは俺の殺してきた魂の幻想体で出来ていたのかと

 やっと理解できた。


  10人目の転生の時には、既に捨て鉢になっていたので逆に割と冷静になっていた。

 今度は中世のヨーロッパ…

 黒死病ペストが大流行して人口が激減した時代で、町には死が充満していた。

 死臭と絶望が渦巻く世界で、俺にはお似合いの世界だった。


 放っておいても勝手に死んでいく人々が多いのに、

 俺は、この世界でも人殺しは止めなかったし、非道の限りを尽くした。


  小さな公国の片田舎の領主に生まれ変わった俺は血も涙もない圧制者だった。

 父からこの当時の外道政治のノウハウを叩きこまれ、最後にはその教えに従って

 父を毒殺し、母を幽閉し、兄弟は暗殺し、姉妹は近隣の領地に金の代わりに嫁に出した。

 この時代は珍しくもない事で、父も似たようなことをして領主の座を奪ったんだしな。


 で、俺の政策はシンプルなものだった。

 税は食っていける限界まで民草から搾り取り、

 魔女狩りに乗じて、邪魔な富裕層や有力者の娘を捕らえては俺の慰みもにし残酷な方法で拷問をした。

 丸裸にし、獄卒に日がな一日玩具にさせて、爪をはいだり歯を抜いたりといたぶり続け

 俺はそれを見たりたまには参加して喜んでいた。

 それは、盗賊や殺人鬼で人を殺していた時とはまるで違う悪魔の仕業にしか見えなかった。

 魔女狩りの最後は悲惨な結末しかない。

 石を抱かせて服を縛り、そのまま川に蹴り飛ばすというものだ。

 浮かんできたら魔女として殺し、実家の財産は没収…家族郎党首を跳ねる。

 沈んだら人間と言うことで、拷問の費用を実家に請求し財産を取り上げる。


  聞いてはいたが悲惨を通り越して、人間と言うものの業を思い知った。

 だが、これは俺だけでなくこの時代ではありふれた圧制だった。


  ただ、ペストは伝染病って事は知っているらしく

 死体を焼き、その家を燃やし灰を集め、木酢で解いて街に撒いて街を復活させた。

 魔女狩りで奪った金で家を建て直し、教会も建て病院らしきものも併設させた。

 別に正義感など無く、

 ただ単に領地が疲弊しては、うまいものも食えないし民草が死んでしまえば領地の意味が無いからだ。

 ただ、この時代の大衆は殆どが文盲で知識もないんで

 他の領地がペストで苦しんでいる中、自分たちの土地からペストが無くなったことに感動し、

 普段からゴミくずみたいに大衆を蔑んでいる金持ちや有力者ばかりを

 俺が没落させているので勘違いしたんだろう。


  あれだけ重税なのに名君って事で祭り上げられた。

 この時代、重税なんて当たり前だし、食えなくなるまで搾り取るのも珍しくなかった

 そう思えば、カサカサの黒パンとスープ程度は飲めるから

 他の土地に比べれば暮らし向きは良かったと感じたんだろうな。


  馬鹿な奴らだと思った…金なら金を持っている奴からいくらでもむしり取るし

 女だって教養があって、いい暮らしして肌艶が良く身ぎれいでいる良家の女の方が

 嬲り者にするのは俺の欲望を満足させられるだけなんだが…

  糞の匂いのする街で地べたを這いずりまわる貧乏人には用はないし、

 栄養不足で歯も抜けて、ばさばさの髪で

 ネズミの様に小汚い庶民の女なんか興味ないだけなんだがな。

 しかし、褒めたたえられて悪い気はしないので

 ちょっとした自警団みたいなの作って治安まで良くしてやると

 近隣の領地から商人が入り、市を開き領地は豊かになり税収も踏んだくれた。

 ただ、巻き上げた金の使い道が良かっただけなんだが… 


  名君という評判が俺に最高の淑女を連れてきてくれた。

 お隣の国のヒエルダイの第三王女(10歳)との縁談である。

 しかも、国内では敵が多く命が危ないので、懇意にしているうちの大公に頼んで、

 隣の国でも承認を通じて評判になっている俺に勅命で姫を貰えって命令されたのだ。

 領地はほぼ倍になり、

 同じようにペストを鎮め、鬼の様な税の取り立てを重税程度に抑えてやっただけで

 直ぐに俺への忠誠を誓ってくれた。


 ま、邪魔な金持ちや有力者は、当然の様に魔女狩りの餌食にはしたけどな。

 それで敵も一掃できたし、町に入って来る商人が代わりに豊かになったし 

 袖の下も馬鹿ほど入ったんで万々歳!

 そのころには国でも有力な領地になって行き、

 ”俺の見立てに狂いはない”って感心した大公に気に入られ序列も上がって行った。


  それから数年でヒエルダイの御姫様が輿入れする時は、

 うちの領地はさらに広がり、俺は名君の名をほしいままにし領民は神のように慕っていた。

 ただ、その時に初めて見たお姫様は、啓子にしか見えなかった。

 髪も金髪で、目も青く顎の形ももっと綺麗だったけど、それは啓子だった。

 勿論、愛し合ったが特に二人の間に波風は無く

 それから死ぬまで寄り添って…大往生で死んでいく事になった。


 何だよそれ…って思うかもしれないが、実はこの時に殺した人数は一番多い。

 魔女狩りは定期的に行って合法的に粛清した人数は相当あるし、

 俺自身が楽しみながら拷問して殺したのも数千では効かないだろう。

 でも、それを非難するものなど居ない。


 更に、後年大公の命で異教徒の国へ攻め込んだ時にはこの比じゃあない。

 八つ裂きにして、殺しつくし火を放って奪いつくした。

 2万もの命を奪い、金になる女は奴隷で売りまくり

 これはっていう女は俺の側室か、重臣の側室として子供を産ませた。

 でも、それでもそれがこの時代では特に珍しくもない事でないし、

 そのおかげで国は豊かになったし

 俺は公国の英雄として後世まで語り継がれる存在となった。

 悪魔だろうが何だろうが、それを必要としている者たちにとっては関係ない。

 多分、俺が転生して一番人を殺した時代だろうが

 啓子ことケイと一緒に国の至宝として生きた変な時代だった。

 ケイとの仲?凄く良かったよ…子供もたくさん作ったし。

 

  更に何度も転生したが、大して記憶に残るような出来事は無かった。

 社会が組織や法で管理されるようになると、大規模な事など個人では出来ない。


  基本的には反社会的な存在で、マフィア、泥棒、快楽殺人鬼って手合いの繰り返し

 絶望の言葉や、断末魔の悲鳴、呪いの言葉…

 そんなどうしようもないものを浴びせ続けられる人生の繰り替えしだった。

 小さな子供から、殺さなくても死ぬだろう?ってお年寄りまで見境なく殺し、

 少し胸が大きいとか、顔が好みだと言って

 暗がりに女を引きずり込んで犯しては殺し…ただただ気持ち悪い人生だった。

 一様に、最後は兵隊や警察に捕らえられ処刑されていったり、人数がこじんまりしていたのが

 せめてもの救いだった。


  いい加減、見続けるのが苦痛で何度も絶望して発狂しかけたが

 どんなことをしても、既に魂だけの存在なので死ぬことも出来ず

 手を血で濡らし、命乞いする女を残酷にいたぶって犯して殺し、

 生きていく術を根こそぎ奪って行く俺に血を吐きながら許しを請って死んでいく人々…

 こんなのは拷問だ!いや地獄でしかない…


  心も涙も枯れ果てていく俺に対して、

 転生している俺自体は常に死を振りまいて、人の不幸を喜んでいた。

 


  それでも、かなり経ってからの転生は日本の少し昔まで来ることが出来た。

 

 




  





 



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