表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神 Danse de la faucille  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第六幕 罪 ~Punitions sévères~
41/124

フェリルとの出会い

"  俺は気が進まないが、商売道具のロープを両手で掴み

 すぐ前を歩く髪の長い女の首にさっとかけた。


 子どもの時から付き合って結婚までして早15年のこの女には悪いが、

 この間の仕事が依頼人のミスで発覚した以上

 この町にはもういられないし…彼女を連れて行くわけにもいかない。

 仕方ないんだと掛かると同時に俺は彼女の背中に自分の背中を合わせて

 暴れる体を強引にロープで引っ張りながら俺の背で引っ張って殺した。


 「 悪いな… 」

 真っ赤に血走った眼とチアノーゼを起こして黒くなった女の顔を見ながら

 屈んで手を合わせる。

 商売で殺した訳でも自分のどす黒い欲望の為に殺した訳でもないんで

 本心から申し訳なく思う。 "


 その光景は突然に目の前に現れた。

  最初は靄のかかった様な不鮮明な画像をぼんやりと見つめているような感覚だったが、

 最後に足元に転がっている女の顔を見て一気に目が醒めた鮮明な画像として認知した。

 驚いた?それはそうだ…

 その顔が俺が今まで幸次郎の店でしつこく体を摺り寄せて来た幸恵だったから。


 おかしい…醒めた頭で思い出す限り、

 さっきまで幸恵と瑞希に挟まれていい気分で酒飲んでたはずだ。

 そこから急に眠くなったので多分、今起きていることは夢だって感じていたんだが、

 鼻を衝く死の匂いと、殺されたはずなのに微笑を浮かべている幸恵の顔は

 紛れもない現実にしか見えなかった。


  背中を大きな斧が叩きつけたような衝撃を感じる。

 まさか…俺が幸恵を?と思ったがこの状況ではそう思うしかない。

 胸が張り裂けそうなほどの勢いで心臓が脈打つが、

 少し落ち着いて彼女の姿を見ると違和感を感じた。

 

 顔は確かに幸恵の顔だが…髪型がかなり古く仕上げが荒い感じがするし

 着ている服も現在の様なはっきりとした色彩でなくかなり抑えめだし、

 デザインは野暮ったい…

 全体の印象は昔のそうだな、大正時代のモダンガールっていうのか?そんな感じだ。


 俺はそれ以外にも違和感を感じて周りを見渡す…

 まず床には最近では見たことも無い冷たい古い石畳となっていて、

 少し先の街路灯がやけに薄暗くぼんやりとその周辺だけを照らしていた。

 直ぐ近くには煉瓦を積み上げたような…小樽なんかで見る様な

 赤レンガ倉庫がひっそりと立ち並んでいた。

 そして、確認できる範囲ではその場所だけであたりはかなり暗く

 遠くには、ぼんやりとしたかなり低めの高さしかない建物がある様で

 だが、それもそれがどのような形になっているのかは

 判然出来ないほど暗く…ところどころ蛍の様な光が見えているだけだった。


  だが、恐らく死んでいる幸恵の体を万が一ということもあるので抱き上げて揺すったが、

 顔からの出血がぴちゃぴちゃと俺の顔に飛んでくるだけで反応が無かった。


 「 何だよ…これ 」

 俺は凄まじい違和感を感じながらも見知った…昔の恋人の死に呆然とその場に座り込んだ。

 そうだ…電話をと自分の服を弄ったがあるはずの携帯は無かった。

 少し冷静に見れると思た瞬間もあったが、

 死後失禁して俺の脚を濡らし、排せつ物の匂いが鼻を衝く中では

 ただ単に絶望しか感じなかった。


  俺が生まれて最初の女性がこいつだった…

 髪を茶色に染めて長いスカートを穿いてだらしなく着込んだブレザーに、

 細い眉に反抗的な目で出入り禁止の屋上で煙草を吸っていた様な女だった。

 それでも、俺とは馬が合って仲が良かった。

 その頃は瑞希とも付き合っていたけど何故かこいつが初体験の相手になった。

 恋愛感情っていうのは瑞希には在ったが、こいつには無く

 ただ単に仲のいい女友達と何気にタイミングが合っての体験でしかないが

 それでも最初の女として

 俺は少しぐらいは特別な感情はあるにはあった。

 死臭と排せつ物の匂いがしても俺は彼女を強く抱きしめながら声をあげて泣いた。


  その時、俺の背中の方から声がした。


 「 これはこれは…あなたが悲し気に涙するって思っていませんでしたわよぉ 」

 甘い猫なで声に俺はびっくりして振り返った。


 そこにはどこかで見たような気がしたが、絶対に会ってはいないことが分かる女が立っていた。

 160センチそこそこで痩せ気味だけどしっかり胸もあって柔らかい線をした女性だった。

 そしてその顔は異様にしか思えなかった。

 クスミが無く血色のいい白い肌に、血のように赤い唇に輝く様な黒い髪はまだいいが

 オパールのように輝く金色の瞳が金色の睫毛と赤いシャドウで彩られていたからだ。


 「 あんた…何言ってんだよ? 」

 俺の問いかけにその女はにやっと笑ってウインクした。

 その瞬間、俺の体中に強烈な甘い匂いを持った風のようなものが纏わりつくのを感じた。


 「 まあったく、史上まれにみる殺人鬼のあなたがたった一人の女の死に涙するって

   本当に変ですわねェ…

   百年以上も前に殺したあなたの恋人に対してねぇ…あなたが殺したのにねえ 」

  女はそう言って

  何もない中空に向かって何事かしゃべりかけると、ゆっくりと空から輝く何かが降りて来た。

  長い金色の柄に物凄い刃渡りの黒光りした背に複雑な縞模様が浮かび上がった金色の刃先

  一瞬死神の鎌のようにも感じたが、

  その神々しいというか、ギラギラして凄く下品というか微妙なそれは

  何かの宗教的行事に使う道具の様に感じた。


 












 

 



 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ