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舞踊の鎌

  僕の魂の叫びを聞いても、彼女は”まあまあ”って宥めるような顔で、

「 それでは、限定ミュートしますか、死神の私だけは特別でいいですかね。」

 と、感情が読めるなら、人がどれだけ恥辱に苦しんでいるのかよく分かるはずなのに…

 平然と言ってのけたのにはちょっとムッとした。

 なんだか”いじめ”と一緒で気分が悪くなる。


「 はあ、まあそうですわね。いじめって言われればそうかもしれませんね。

  それじゃあ心が読めない様に能力でデフォルトしておきますか。

  う~ん、あなたは初心うぶなんで面白いんですけど仕方ありませんわね。」


 僕の頭の上には、物凄く柔らかくて気持ちのいい暴力的な胸があるため、

 残念そうに体を震わすもんだから、頭の中がぐちゃぐちゃになるような快感が…

 って、息が出来んって!


「 はあ、残念だわ… 」

 そう言っった後に、ごにょごにょ目を瞑りながら何か唱えてるが分かる。

 僕は必死に胸から顔を離して息をしようともがくのだが、

 尋常ではない力と、揺れ動くマシュマロの様な彼女の胸から逃れることが出来ない。

( し…死ぬ )

 と、一瞬、意識が遠のきかけたところで詠唱は終わり、

 ぽん、ぽんと、優しく僕の頭を叩いて胸から放してくれた。


「 ぶはああ! 」

 窒息寸前だった僕は、ようやく新鮮な空気に触れることが出来た。

 その後に、酸欠から来る気持ち悪さに必死に耐え、

 何度か咳き込みながらも、やっと落ち着いた。


 で、そのまま僕を拘束してたバカでかい胸とジャニスさんの顔を見上げる。

 は~苦しかったけど、柔らかくて気持ちのいい思いをしたんで

 文句は言わないでおこうか。


 はっ、聞こえてないよな…ちょっとヤバイだろこれってば。

 そう思いながら、 

 おばさんと、頭の上のジャニスさんを見まわしたが、聞かれているよな感じも無く。


「 うん?もう大丈夫ですわよ。ちゃんと聞こえないようにしましたから。」

 僕を見下ろすジャニスさんは、可愛い微笑を浮かべている。


 じゃあ、もう安心だね。…前ふり長っ! 


 でも、少し冷静になったな、状況を整理してみるか…


 僕は美雪の見舞いに病院に行きました

 ⇒美雪が死にそうです

 ⇒病院に残りました

 ⇒いよいよ美雪が危なそうです

 ⇒演歌のイントロが流れました

 ⇒変なところに来ました

 ⇒再び、演歌のイントロが流れて尻餅ついてジャニスさんが現れました

 ⇒ジャニスさんは、おかしな能力を使います…


 って、なに?これ…


 それよりも、こんな気持ちのいいジャニスさんの体に密着してると

 考えがまとまる訳もないか…


「あの~ジャニスさん…まずは離れましょうか…」


「そ…そうでわね。なんか、抱き枕みたいに気持ちよかったもんで…つい」

( へええ、抱き枕見たいに小さかったンだ…僕…泣くわ… )

 そう言って、僕らは離れた。


 結構、長い間くっ付いていたんで、体中にジャニスさんの残り香がついている。

 2mぐらい離れたんだけど、まだ、見上げなきゃならない…

 ジャニスさんの背の高さよりも、発育不良のチビの自分が少し恨めしかった。


「 んで、ここって、どこ? 」


「 そうだよ~、私もどっか知りたいんだよ。」


「 ああ、それですか。ここは美雪さんとあなた方の最後のお別れのために、

  私が用意した場所です。

  次元干渉をして鏡面界ああ、まあ一時的にどこからも干渉されない世界を作ったんです。」

 

「 つ、作ったですって?この世界を? 」

 とんでもない力だと思った。


「 そうですよ。まあ驚くのは無理ありませんが私たちの能力としては

  大した能力でもありませんよ。

  そうですねぇ、この星から引力の理を抜けて宇宙に出るより大したことはありません。

  時空間の実際の移動に比べれば

  理さえ知っていれば、次元移送も空間固定とかも大したエネルギーにはなりませんから。」


 言っている意味は分かる様で全く分からないが彼女にしてみたら大したことは無いって

 事だけは分かった。

 心が読めたり、何もない処から現れるぐらいだしな。


「 み…美雪さんとお別れって…? 」


「 なに言ってるんですか!最後のお別れって何なんの?

  って言える状況でもないですけど 」


 僕は、ジャニスさんが言う、異空間という点だけは納得した。

 歩いてきたんで分かるけど、対象物が無いので広さが分からない。


 見渡す限り青い空…歩くのには硬いけど、触ると煙のような雲…

 異空間なのは間違いない。

 ジャニスさんが、どうやって用意したかは分からんけどね。


「 あなたは何者なんです?あ、名前聞き直すわけじゃないんですからね。

  これが夢じゃないとしたら、

  ジャニスさんは何なんですか?真っ黒い服で呪文唱えるから女魔法使い? 」  」


 まあ、我ながら馬鹿な結論だね…非常識だけどさ…他にないじゃん?

 こんな奇跡目の前にしたら、ただの人間じゃ無い事だけは確かだしね。

 RPGか小説か漫画の世界の様に感じるし、ここらが妥当だと思う。


「 う うーん、惜しいですわね。」

 そういうと、にっこり笑って、僕を手招きしてきた。

 惜しいのかよ!

 とは思ったが、頭が混濁したかのように考える事が出来なくなってそれに従う。


「 えっとですね、ここで四つん這いになっていただけますか? 

  はい、私が降りてきたところですわよ。」


 僕は移動しながら手招きする彼女につられて、

 あの、大きな尻もちをついたあたりまで自然と足が動いていき、そこで停まった。


「 うん、そこそこ。」

 彼女はツンツンと尻もちをついた場所を指差した。 

 横からはサッパリ分からなかったが、そこから見上げると真っ黒い穴?が見えた。

 ただ、真っ黒いポカリとした穴で、若干端の方がその穴に吸い込まれているように見えた。


「 あの~なんで… 」 

 意味が分からず彼女の方を向いたが、彼女は笑いながら軽く両手を折る仕草をして


「 いいからいいから、ここに四つん這いになってね。」

 不思議に思いながらも、その場に四つん這いになった。

 すると、カラン、カランと硬質な音を立ててあの空母みたいなピンヒールを脱ぎだした。

 しっかし、でかい足だ…形は良いし指だって可愛い感じだけど僕より大きい。


「 決して、上を見上げてはいけませんわよ。分かりますか?」

 ジャニスさんは、四つん這いになった僕の顔を覗き込んで、いたずらっぽく笑った。


「 はあ? 」

 まさかとは思いますが、ひょっとして…まさかとは思いますが…乗るんですか?

 と心の中で思い切る前に激痛が走る。

 ミキキキ、グリグリ、グラグラ!

 ぐわー、背中が痛い、めっちゃくちゃ痛い!ジャニスさん!重い重い!


「 痛い、ジャニスさんちょっと、乗るなら乗るといってくださいよ! 」

 思わず上を向こうとしたが、軽く足先で頭を押さえられた。


「 あ、これ!上を見ないでください!ちょっとの間なんですから…

  我慢してくださいませんこと。」

 そう言いながら、つま先立ちになったのか圧点が小さくなって更に痛みが増す。

 ガサガサ、ゴソゴソと何か弄る音がしてきたので、

 何か、上の穴に手を突っ込んでいるのは何となく分かる。


 だが、もし上を見て、あの素敵なパンティが見えたとしも、

 怒ってヒッププレスでもされたら…のし烏賊にでもなったら敵わないので必死に我慢する。

 いや、でも…体力的に持たない…


「 ジャニスさーん、た…体重どんだけ? 」


「 言うと思います? 」

 訳ないか…、 でも、ぼ…僕の背骨が折れるまでには降りて欲しいけどさ…


「 あーあった、あった。」

 呑気そうな声が僕の上から聞こえる。は、早くして!

 足がめり込んできて、痛い痛い!

 頼まれても見上げる事なんか出来ない!腕も腰も…も…もう限界ぃいい!


「 きゃっ 」

 って、声がした。

 僕が一生懸命に堪えたのに…堪えたのにぃぃ…足を滑らせたみたいだ。


「 あっ 」という間に、背中にお尻が落ちてきた。

「 ごぼええ… 」

 一瞬で目の前が真っ暗になった。

 息は出来ないし、肺の空気も全部出ちゃったらしい凄く胸が痛い。

 痛みで手足をばたつかせようとしても、

 巨体のジャニスさんが、僕の背中に乗ってるんで動けない。


 でも、(お尻はでっかくて気持ちいいなぁ)って馬鹿な事だけは頭の片隅に浮かんだ。

 浮かんだだけで、一瞬でその思いは飛んでいく。

 地獄の痛みだ! 一刻も早くどいて欲しい、お願いします。


「 す…すいませんわ…足が滑っちゃってぇ…てへっ」

 可愛くしても、高速道路の猫せんべいみたいになってる僕からは見えないし、

 そんな場合じゃないでしょ!どいて!どいてください!


「 ごぼ、ごぼ、げせー、げせー 」

 としか言葉は出ないけど、魂の言葉が通じてお尻のでかい巨体女がどいてくれた。

 もう、なんなの!


 それから彼女はバツの悪そうな顔をしながら、ひとしきり前屈して…深呼吸して…

 髪を撫でつけて、挙句に手鏡まで出して顔を覗き込んで…

 すっかり時間を費やしてから、おもむろに咳払いした。

 多分、僕になんと声をかけていいのか考えていたんだろう。


 その間、無言…僕も無言だったが、何もしなかった。

 揉みあいで、すっかりくっしゃくっしゃの僕の服と髪の毛に僕の体。

 右手に持ち替えたメガネは、弦が捻じれながら曲がり切っていて惨めな亡骸。

 形状記憶合金なのに、復元弾性をはるかに超える力だったんだ。


 疲れた…猛烈に疲れた…、身なりを整えるなど出来る筈もない。

 ぼおおおとした、視界だがジャニスさんの顔が赤そうなのは分かった…疲れた。


「 目…目が悪いんでしたわね…メガネが無いと不便でしょう? 」

 なんか声に焦りがあるし、何度かぼんやりすごい勢いで頭を下げているのは分かった。


「 はあ…当然ですが…まあ、生きているんでとりあえずは。」

 不貞腐れながら僕は良く見えない目でジャニスさんを見る。


「 えっと、では、直しましょうか? 」


「 あのー、これフレームから逝ってるし、レンズも割れてるんですけどもねぇ。」

 右手のメガネの残骸をジャニスさんに見せる。


「 いえいえ…、ちょっとちょっと 」と手招きをしてきた。


 さっきの事もあるんで、嫌な予感しかしないけどさ…

 ぼおっとしてるから分からんけど、背中に棒があるよなぁ…アレがあの穴にあったのか?

 僕はその場で渋っていると彼女の方から近づいて来る。


「 こっちこっち 」と僕の手を取って凄い力で引っ張られた。


「 ブファ 」

 また、大きな胸が近づいて来て視界を塞ぐと、息が急に苦しくなって来た。

 いい加減にしてほしいが、彼女の胸の軟らかさで気が遠くなってくる。


「 ごめんなさいねえ、直ぐ済みますから安心してください。」

 いい匂いがして…柔らかくて、温かくって、き…気持ちいい…

 しかし、さっきの魔法といいなんで密着しないかんの?

 暫く変な呪文が聞こえて、また人を馬鹿にしたかのように頭を数回叩かれた。

 すると、僕の目が奥の方から暖かく成り始めるのを感じた。


「 もういいですわ…どうです? 」

 僕を解放して、彼女が足を折って視線を合わせながら尋ねて来る。


「 あれっ…目が見える…てか、なんで見えるんだよ。

  メガネが無くてもしっかりくっきりさぁ。まるで奇跡の様じゃないか。」

 僕は、生まれて初めて裸眼で周りの景色を把握できた。

 いや、把握っていうかこれはメガネをかけた時より良く見えるし、

 何よりメガネの様な制約がない見渡す限りくっきりと見えたからだ。


「 えっと、さっきの質問に帰りますねぇ…魔法使いですかって質問の話。」

 でも、さっきの呪文じゃないの?

 でも、魔法使いっていうかこれじゃあ神様みたいじゃんか、

 こん亜空間まで簡単い作れちゃうし。


「 えーと、これ分かります? 」

 背中からさっき棒のようの見えた物を出した、

 真っ黒な棒…黒い鉄の棒だ…冷たく鈍い光が反射してる。

 長さは2Mはある。

 更にジャニスさんが、それを傾けると、

 長大な刃が見えてきた。

 こちら側に正対させるまでに捻らせると、

 90センチ近い等幅も大きいところは20センチぐらい。

 えっと…どっかで見たような気がする。


「 し…死神?の鎌…でも、骨男じゃないし死神じゃないわね。 」おばさんが呟いた。

 そうだ、そうだ、死神の鎌だ。

 でも、死神なら骨男ってイメージだからおばさんの言ってることもよく分かる。


「 惜しいですわ…正式には舞踊の鎌って言いますのよ。」


「 ぶ…舞踊の鎌?なんか…楽器みたいです…」

 世間一般っていうか、普通あんな長大な柄の大鎌…死神の鎌っていうしか無いんと違う?

 まあ、なんかの漫画じゃあ、エレザールの鎌って全く空想の産物もあるけどさ。

 踊ってどうするの?


「 えっとですね…、平たく言うと魂を舞い踊らせて刈り取るって意味なんですが。」


「 お…踊らせて?って何か意味があるんですか? 」


「 ああ、だから現代人は駄目なんですわね、昔の人ならここは聞かないんですけど。

  まあ、いいでしょうか。

  元々は、死神の鎌っていうのは小麦などのイネ科の植物を収穫の為切り取る

  小さな鎌を命を戴くって意味でそう言ったり、

  作物を駄目にする雑草などを不浄な生き物と見立てて刈り取る大きな鎌が元です。

  その際に、当然切られる方はその動きで揺すられて踊るように見えるから

 ”舞踊の鎌”っていうんですよ。

  ま、400年前には普通に言われていましたけど。

  

  死神ってのは別に日本でもアフリカでもどこでも伝承はありますけど

  鎌を持っていない事が多いでしょ?鎌と死神は別にリンクしているもんではありませんわよ。

  ただ、この鎌は私たちの道具でありシンボルみたいなもんですわね。

  種族が違うと別の器物や、生き物を使うってこともありますから、

  世界全体でイメージが分散しているってとこです。

  私たちは元々この世界では欧州の方での仕事が多かったから

  文化や文明が広がった経緯から鎌の方が多くイメージ化したんでしょうね。


  それと、中島さんが言ってた骨男ってのは、タロットカードの絵柄や、

  中世の文学や伝承の類からでしょうねぇ…たまたまですよそれって。

  黒死病がヨーロッパで流行ったときは、死神はネズミの形で認識されてたし。

  アジアではそれは烏や黒猫などでも認識されることはありますから。


  じゃあ私はだれかって事になりますが…まあ、死神っていう言葉が一番近いですわよ。

  別に神様でもないし違いますけどね。」


 この手の話は、嫌になるほど話したのかまたか…って顔だったし、

 淀みなく答えた所を見ると定型文に近い説明なんだろうなと思った。


「 でも、死神って目に見えないんじゃなかった?死ぬ人以外にはって聞いてますけど。」

 

 すると、更にまたかって顔で彼女は説明をしてくれた。


「 見えませんわよ…こちら側が意識的に姿を現さない限りに於いてではですけど。

  でも、死ぬ人以外に見えないってのは噓ですね。

  現に、こうしてあなたたちは私を認識しているわけですから。


  それから、私が死神ってどうやって証明するかってのは”出来ません”ってしか言えません。

  それは、あなたたちが私は人間ですよって全く何も知らない宇宙人にでも

  話して納得してもらうのと同じですから。


  ただ単に、”死神”って認識してください。」


 僕は素朴な疑問があって更に彼女に質問する。

「 ちょっと疑問になってるんで聞きたいんですけど、いいですか? 」


 彼女は優しく微笑んでくれた。


「 えっと、さっきから奇跡の連続なんですけど、これが能力とするなら

  なんで、物理的に次元を抜けて穴に嵌ったり、僕の上に乗ったり歩いたりしたんですか?

  ぱっと消えたり現れたりするのは簡単じゃないんですか? 」


「 ま、簡単ではありますけど、

  逆に、聞きますわよ…走る必要ないのに走ります?

 歩いて数分で辿り着けるところに、わざわざ車で出かけますか?

  それと同じです。


  必要な時に必要な事を必要な能力で行う。ただそれだけです。

  あ…穴に嵌ったのは、誤算でしたけど、穴を開けて降りてくるだけなら

  現れたり、消えたりする術式より五十分の一も能力を消費しませんし、

  飛行や浮上の術式より、

  この足で上り下りすれば能力すら必要としませんしいい踏み台もありましたし。

  それだけの事ですよ… 」


 僕は踏み台か!ってこちらを見てニヤついてる彼女を無視して更に問いかける。


「 い…異空間をつくるって…凄い力がいるんじゃ… 

  言葉も介さずに考えが分かったり、僕の目を治したり。」


「 ああ、それね…でも、それでも大した能力は使いませんよ。

  私の世界からこっちに来る力よりもっと少ない能力で出来ますから。

  それに、高等魔法系は、舞踊の鎌が代行してやってくれますからね。

  能力は、鎌と会話する分だけですわよ。」


「 もう一つ、質問…どうして僕の目を見えるようにしたの?

  メガネもわざと壊したみたいにも、思えるんですが…」

 すると、ジャニスは寂しそうな笑いを浮かべた。


「 最後に、あなたにその眼で見て欲しいんです。

  でも、わざと壊した訳じゃあないですよ。

  あなたにはいずれにしても、回復の能力は使う予定でしたからね。

 

  最後の瞬間を、美雪さんとの最後の別れを鮮明で美しいままにね。

  残念ですが、記憶には残すことは出来ませんが彼女の望ですし。」


 どんなに鈍い僕でも、ジャニスさんの言葉は分かった。


「 み…美雪がし…死ぬのは…分かる。時間の問題だ…でも、信じたくない。」

 僕は改めて彼女が死神という事実に呆然とした。

 そうか、さっきの言葉は本当の事なんだと思い直した。


「 美雪さんを呼びましょう…ね、諦めてください、もう時間がありません。

  中島さんも、それでいいでしょ…ずいぶん苦しみましたから…

  もう行かせてあげてもいいでしょう? 」


「 え、ええ、えええホントに…

  あなたが死神でも感謝します…もう苦しまなくてもいいんでしょ 」


「 苦しまないって本当ですか?ジャニスさん…」


「 彼女が苦しまなくても済むのは確かですわ。それは確かですね。」

 僕も、おばさんも体の力が抜けたんだろう、大きくため息をついた。


「 そうですか、痛いか苦しいかは声もあげれなかったんで分からなかったけど

  目…目が言ってたよ…痛いよ、苦しいよ、やめてよ、恥ずかしいってね。」


 それ以上は言葉が…鼻にも目にも口にもしょっぱいものがこみあげて話せない。


「 そうね…最近は、死にたい、殺して、そ…そう言ってるよ…様で。」


 おばさんは、胸の大きなポケットからハンカチを取り出して目に当てる。

 声を上げずに泣いた…吹いても吹いても涙が止まらないように…

 僕もこみあげてくる涙を止める事が出来ずに決壊した…


 どのくらい泣いただろう…僕の短い生涯の中では一番泣いたとは思った。


「 お別れは…しますでしょ?」


「 当然じゃないですか…その為に目も直してくれたんでしょ…」


「 私も見たい、それに…お別れが言えるって…初めてですから

  あの子と話すの…私…どうだったのか…間違っていなかった?とか…」

 僕は、知っている。

 おばさんが、いかに献身的に美雪を看てくれていたかを間違ってなんかいないと思います。


「それでは、舞踊の鎌に力を借りて…彼女をここに呼び出しましょう。」

 彼女は美しい声で詠唱を唱えると鎌を大きく振った。



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