のたうつ死神
バキパキと音を立てながら燃え上がるオレンジがかった炎。
夜の闇の中では強い焚火は、その光と熱で体も心も落ち着く。
思い出す限り救いが無く、ろくでもない人殺しの過去って感じだが、
そんな悪鬼のような俺でも、夢があるにはある。
馬鹿らしいし、子供じみた夢だが確かにある。
今は性欲を満たすだけの女狩や、
金で超絶絶技のプロの姉ちゃんを買うかしているが。
そんな短絡的な獣のようなものじゃなく、
ちゃんと出会って、相手の意思を尊重しお互いが分かりあえる様な、
心が躍る恋愛をしてみたい。どんなものか皆目見当はつかないけどな…
毎日の殺伐とした弱肉強食の殺し合いをやめて、
平和で落ち着いたゆっくりと流れる時間を味わってみたい。
そうだなぁ…俺は海ってものを見たことが無いから、
真っ白な綺麗なビーチのあるホテルのバルコニーで
日がな一日…のんびりと海でも見ながら、
青いソーダにリンゴやオレンジが綺麗に並べられたカクテルを、
真っ白いストローで吸い上げるってのはどうだ?
真っ青な空の向こうに水平線が光り輝いて、
俺は良くは知らんが海鳥って奴が空をグライダーの様に横切ってだな…
そして、砂浜には綺麗な女性が寝転がり、
煌めく水面には、
飛沫を上げて走っていくヨットかサーフィンを楽しむ若者が
青春を輝かせている。ってな風景ってのはどうだ?
経験がないんで、暇つぶしで見た出来の悪い三文映画の様な
ご都合主義の権化のような物語を思い浮かべる。
馬鹿みたいだとも思うが、そんな生活が送ってみたい。
まあ、叶わないから夢なんだが思うだけならいいと思う。
大体、この先、そんなことが起きる訳がない。
奇跡って奴があったとしても、そんな世界が来るまで俺が生きていられるだろうか?
まず難しいだろう。
で、生きたとして自分にそんな生活を送る資格はあるのだろうか?
ああ、あるとは思うぜ…なにしろこの国じゃあ俺程度の奴は五万といるから。
とめどない思いが湧き上がるが、考えてもしょうがない。
それより、今は、とにかく不自由な体でこの森の中で、
敵をやり過ごし、猛獣を撃退し、何より食べていかなければならない。
それを思うと暗澹たる気持ちになった。
しぶとく吸っていた煙草がフィルターまで燃えて来て熱い…
もう一本吸いたい気分だが、この先の事を考えると、我慢するしかない。
仕方なく吸殻を焚火の中に放り投げようとすると、
白い紙が焚火のそばに落ちているのを見つけた。
地べたを這い回って薪を集めた時には確かに無かったように思うが、
不思議に思いながらも拾い上げる。
その上で、逆光にならないように少し体を捻ってその紙を確認した。
紙は、白い紙で紙質は柔らかく上等な物でそれが約10センチ四方。
そこに何か書いてある。
なんだかわけのわからない文字の列って感じに一瞬見えたが、
直ぐにこの国の言葉に変わったような気がする。
多分、焚火の揺れる光でそう錯覚したと思うが…
え~と、なになに…
”絶望と血塗られた過去を忘れて新たなる未来を望むなら唱えなさい…? ”
なんだか宗教的だなぁ…気持ち悪い。
で、これ…なんて意味だろう…音読は出来るけどさ。
「 アータデン、シャーコォー、ヘンガーナ? 」
思わず読み上げてしまった。
聞いたこともない言葉だったが、なんかの呪文だろか?
そんな事を思っていたら、バキッと暗闇の奥から音がした。
一瞬息をのんで身構えたが、直ぐに耳を両手で塞ぐことになった。
ダダダダン ウウーウ ダダダン ウウウー ダダダダーーーン オオオオー
いきなり、大音量で聞いたことの無いメロディが周辺に響き渡った。
どこか異邦の国の音楽の様だったが、なんか暗くて粘っこくて呪われそうな音楽だ。
敵なのか?って思ったけど、
敵ならこんな音楽なんか鳴らさずバン!で終わらせる方が合理的なのでそれは無いと思った。
しかし、その数秒後に5mほど先で信じられない事が起こるのを見た。
丁度、地面から2メートルぐらい上の何もない空間に
急に炎の色で赤く見えるが、よく見ると銀のピンヒールがゆっくりと降りてきた。
当然、それを履いた白い足が続けて降りてきたのだ。
俺は、何度もその足が降りてくる場所を目を凝らして確認したが、
ハイヒールと生足以外は何も見えなかった。
「 悪い冗談だよなぁ。」
それが何かは分からないが、負傷して動けないがナイフだけは構えてみる。
信じられない光景だが、現実に足が降りてきているから、
準備はしよう。幽霊って馬鹿気た選択は無い…俺は現実主義だからな。
俺はじっと、その足を見ているが、
するすると降りてくる白い足は結構、綺麗でしなやかな脚だと思う。
この間の場末の姉ちゃんたちと違ってシミひとつない。
そのうちもう一本同じように降りてきた。
まるで、穴の中で上から誰かが降りてくるのを眺めている気分だった。
だが、途中で止まる。
お尻のあたりなので、つっかえたのか?と思った。
「 ううんん、またつかえましたわ。
ちゃんとこの間より大きくしたのに…何でまたお尻が…
嫌だわ、また大きくなったのかしら。しょうがないですわねぇ。 」
すごく可愛い女の声が聞こえてきた。
「 うんんとぉお!! 」
その声とともに、いきなり膝のあたりまで上の方に消えていく。
「 なっらああああ!! 」
そして、気合いをこめた言葉とともに
今度はすごい勢いで、黒っぽい服を着た女が地面に落ちてきた。
草木があるとはいえ固い地面だから音はしなかったけど、
ドシ~ンと音が聞こえそうなほどの勢いで落ちてきた。
したたかにお尻を打った女は、
闇夜に焚火の光を鮮やかに照らし返す金髪を振り乱しながら、、
苦悶の表情を浮かべて、落ち葉が敷き詰められた地面の上で
大きなお尻を押さえて、のたうち回っている。
痛いのを必死で我慢しているのか、口元が強く閉じられている。
「 ははは、まるでコメディだなぁ。」
信じられない出来事ではあるけれど、
勢い余って墜落した上に、
円を描きながら地面をのたうっている姿は笑い以外なにも出てこない。
それに少しエロチックでもあったんでにやけながら見物しておいた。
女は、ひとしきりのたうった後、
ゆるゆると葉っぱを払いのけながら立ち上がった…
まだ、痛いのだろう、片手がお尻を押さえていた。
その上、涙を浮かべている顔が焚火の光で情けなく浮かんでくる。
「 ほ…本当に痛いんですわよ!笑わないでくださいまし! 」
音楽からこっち、信じられない形で出てきた女だが、
あまりのドジさ加減に恐怖など全く感じなかった。
なので、俺としてはその言葉に首をすくめて両手を軽く上げるしかない。
「 ああ、悪い。ふ…ププ…ついな… 」
まだ、少し笑いが漏れてしまうけどしょうがない。
「 まったくもう! 」
多分、俺じゃなくて自分に腹を立てているんだろう。
プンプンと頬を膨らましながらこちらに長い足で大股に向かって来た。
面白い格好だ…真っ黒なワンピースで、フード付き。
短いスカート部の丈は、足の付け根から10センチもないだろう。
細く形のいい長い足と、なぜか地面に埋まっていかない銀のピンヒール。
胸元は大胆に開いているが、大きすぎるバストで谷間しか見えない。
このところ女日照りの俺には、恐ろしいほどの目の毒だ…
もっとも、2週間ぐらいしか我慢してないけど。
女はプラチナに近いブロンドのロングで、首も細くて顔も小さい。
目は大きくて緑の濃い青い目で、睫毛も長いし…すごい美人と思っていたが、
足元近くまで来たときに、少し訂正をしなければならなかった。
デカいのだ!しかも規格外にでかい!
俺だって、185はあるが、それ以上あるだろう。
それに、10センチはあるかというピンヒールだ…2m近い。
顔が小さいっていうのも訂正だ。
バランスからいうと小さいだけで、目の前だと馬鹿みたいに大きい。
しかし、
俺は、扇情的な足の上にある、大きなお尻と暴力的な胸を
交互に見て、思わず涎が出そうになる…
この国の貧相な女たちと違ってすげーボリュームと色気だ、
出来れば何時間でも玩具にしたい所だが、弱った怪我人には相手に出来ない。
それに信じる事が出来ない状況が続いて、
女が目の前にいること自体が全く信じることはできないからだ。
だが、ナイフは必要ないと思って直ぐに足元に転がした。
巨大な女といっても、筋肉の付き方で分かる。
いくら俺が片足でも、
まともに格闘したらものの数秒で首が折れそうだからだ。
「 で、あんた一体…誰だい? 」
「 ジャニスですわ。」
すげえ返事だなぁ…おい!普通さ、初対面で急に名前で答える?
おれは、すっとぼけた答えを放ったジャニスとやらの顔を見つめ直す…ううん。
胸も馬鹿でかいし…口は緩いし、緊張感が無い顔つきだなぁ。
あ…頭はそんなに良さそうには…というより、ちょっと足りない?
ボコ!っと俺の横腹に、ピンヒールのつま先が刺さる。
「 グエ… 」
思わず、声を漏らすが別に痛いわけではない…反射みたいなもんだ。
「 足りなくはありませんことよ!それに何ですか!
さっきから気持ち悪い目で裸とか変な事ばかり…思い浮かべて。
は…恥ずかしくないんですか? 」
へええ、頭の中でも読めるのかよ?
でも、エロい事はいつだって考えてるぞ男なんでな。
「 ああ、恥ずかしくはないな。自然の摂理だろ? 」
イイ女見て、やりたくならない男なんかこの世にいるわけがない。
その時にジャニスとやらの格好からちょっと頭に何かがよぎった。
するとジャニスは直ぐに少し顔を赤らめて笑った。
「 いやぁ、そんな女王様だなんて…褒めすぎだわ… 」
「 思ってもないって!ないって! 」
実際思っていなかったが、
一瞬、鞭持ったら無敵の女王様だなあと
ピッチピッチの黒いワンピと主張が強そうな顔を見て思っただけだ!女王様違いだ。
「 あんた、誰…って名前聞いてるんじゃないからな。
そんな、何もないところから地面に尻もちついて落ちてくるんだから
当然、人間じゃないだろうし… 」
俺は冷静だった。
普通でない目の前の出来事が説明できない以上、何を言っても納得するか、
まったく信じないかのうちどちらかしかない
「 ええとですね…、魂の管理人というか、なんというか。
難しいですねええ…まあ、普通の人間ではないですよ。
そうだ!
異世界の人?とか異次元の人とか… 」
つまりは、あんたのボキャブラティでは説明できんて事だな。
「 死神かい?真っ黒な服だし…魂の管理とか言うからなぁ。
ここで刈り取りの大鎌でも持ってりゃそれで決まりだろうけど… 」
俺もジャニスの事は言えた義理ではない、
貧相な知識ではこれぐらいしか思いつかないのだ。
「 ああもう!その言い方が嫌だから濁したのにですわ。
物凄く近い存在ですけど…違いますわよ!
それに、
どこの世界に、尻もちついて悶絶する死神がいますか? 」
俺は、真顔で見下ろしているジャニスを指さした。
勿論、からかっての意味なんだが、何やら諦めたように
大きくため息をつくジャニス。
「 まあ、そこで突っ立ていなくてもさ、そこに座ったらどうだ?
流石に、見上げてるのにも首が痛いからさ。」
本当は、こんな凄まじい体の女に見下ろされて
しかも、言っていないが
その、白銀色のパンツが丸見えなんで俺の方が目の置き場に
困るからだったが、
俺の目は、凄く美味しそうな足の奥に釘付けになっていた。
「 きゃ!なんていやらしいの! 」
と、どこから出してるんだと思うほどかわいらしい声がしたかと思うと、
唸りを上げてジャニスの右手が走って俺の頬を叩いた。
一瞬記憶が飛んでいくような強烈なビンタだ。
鍛えぬいた俺の首でもなければ、筋を違えて脳震盪を起こすだろう。
こいつ…どうやら俺の思っていることが本当に分かるらしい…死神だもんな。
「 まったく、もう… 」
ジャニスは不満たらたらの様子で、スカートを押さえて俺の前に座った。
座って向かい合うとジャニスの目の位置は、殆ど俺と変わらなかった。
この体勢で、女性と目の位置が合うのは初体験だったが
見下ろされているよりはずっといい。
しかし、そんな短いスカート…イヤラシイの塊じゃないのか?
それにそのパンツ…可愛くてその近辺の肉付きも最高だったけど。
「 あの~、これ制服みたいなもんで。
パンツ見せびらかすために短いわけではありませんわよ! 」
顔を赤らめて、頬を膨らませているジャニスを見ていると
思わず、笑みがこぼれそうになった。
こいつ…巨体に似合わず可愛いじゃないか。
ちょっとからかうだけですぐ赤くなりやがる。
こんな、平和なリアクションなんて
ジャニスのような大人の女性には珍しい。
俺が知る、この国の女なんて生きるのに必死で、
必要に迫られれば、全身真っ裸どころか、
けつの穴全開でも恥じらいなんかないからだ。
そうそう、衣食足りてなんとかっていうからしょうがないけどな。




