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死神 Danse de la faucille  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第五幕 悪鬼 ~demandes modestes~
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悪鬼 ~diable~

  内戦という同じ国民の殺し合いは、いつの世も長く続くらしい。

 俺が、物心つく前からこの戦いも何度かの休戦を挟み続いている。

俺が思うに休戦ってやつも、次の戦争に向けての準備みたいなものだった様な気がする。

  だが、内戦の結果は酷い物だ。

 膨大な数の死者と、多数の負傷者を量産し続け、精神を破壊された灰人を生み出し続ける。

 都市部は瓦礫の山となり、農地は荒廃し、軍事産業を除く産業は衰退していった。

 よって国力は衰退し、当然国民の生活も困窮している。


  俺だって物ごころついたときから、

 いつも腹を空かして着た切り雀のぼろ布を纏っていたし、

 学校には行けないし、

 父親は俺が生まれる前に戦死していたので、

 生活は母親がどっかで工面してくる金で細々と食い繋いでいた。


  子供心に、お袋が何をして工面してくるのかは分かってはいた。

 隣近所のバラックの奴らもおんなじだったからな。

 女たちはそれこそ血の涙を流しながら家族を養っていたんだ。

 でも、俺はその時だってお袋の事を悪く思ってなかったし、

 今でもお袋や近所の姉ちゃんたちを軽蔑なんかしていない。

 この腐った国で女で一つで、俺みたいな子供を育てるのは物凄い苦労だったと思う。

 仕方のない選択だったんだ。

 それにお袋は俺にはいつでも笑顔で接してくれたんだ、

 どんなに苦しくても、

 どんなに辛くても俺が起きている間は幸せそうな笑顔を見せてくれていた。

 だから、俺はお袋の幸せを今でも切に願っている。


  この国で、男がまともな暮らしが出来るのは軍隊だけなので、

 早いうちから軍隊学校入りした。

  俺の住んでた村の近くに軍事施設があり、その中にあったので幸いだった。 

 それに教育中も給料が出るのが魅力だった。

 お袋に毎月金を送れるからお袋はあんな思いは二度としなくても済むからだ。

  勿論、俺の村でも軍隊あがりはいたので厳しい事情は知っていた。

 とにかく長生きは出来ないらしいがそんなことはどうでもいいし、

 俺の村には”死神”って言われる軍隊で定年まで勤め上げた老人もいるから

 若い俺はそこに入ればいいんだって思っていた


  学校では教育だけは本格的で、凄く念入りだった。

 軍人て言っても馬鹿じゃあ、直ぐ死ぬだけで役に立たないし、

 戦闘行動はかなりの知識がいるんだ、

 射撃ひとつとっても、地磁気や風向きに風力、引力が関わるし、

 その上相手の行動認識に動作予想の為、心理学の初歩さえ勉強する。

 修理も手入れもそれなりの知識が必要だし、簡単な迫撃砲でも難解な弾道計算が必要だ。

 その上電気の基礎、装備・兵器の詳細な知識と取り扱い諸々…

  碌な教育を受けて来なかった俺や同期たちは、

 学校で文字の書き取りと高等数学・物理を並行して教えられ、

 その上、必要な知識習得は気が遠くなるほど多い。

 でも、分からないって泣き言を言う事は出来なかった。 

 教育係の死の危険さえ感じるげんこつの嵐が降ってくるからだ。


  更に、苛めのような過酷な肉体訓練と理不尽な言葉攻め、

 刃の落としたナイフでの格闘訓練、

 雪中行軍に、密林でのサバイバル、航空機からの降下訓練。

 実弾演習に武器を担いでの遠泳と、終りが見えないほどメニューが多かった。

 弾を抜いた銃で、同僚の顔の前で引き金を引く訓練もやり、

 尋問演習に、拷問実技と精神に直接来る訓練もやりこなせなければならない。

 おおよそ、人殺しとしてあらゆる訓練を受ける。

  しかし、辛いからといって根を上げたりすれば遠慮なく軍から放り出される。

 そうなれば、

 清潔なベットで寝る事も下らん馬鹿を同世代の友達と話すという珠玉の時間も無くなる、

 なによりも、味はともかく十分な量の食事と軍服に私服も支給されることも無くなる。

  みんな、俺と似たり寄ったりのゴミ溜め出身だから血の涙を流しながら耐えた。

 飢える心配もなく、少しでも笑えることが出来る余裕があるので、

 みんな必死だった。

 それに、俺はお袋の生活を守らないといけない。

 石にかじりついてでも、兵隊になるしかなかったんだ。

  そこで5年もの間、頑張ったおかげで卒業のころには立派な殺人機械になっていた。

 もっとも、過酷な訓練中に何人かは死んだが、

 俺達は彼らの分まで生きてやるって誓っていたので涙は出なかった。 

 ただ、卒業式に呼んだお袋が似合わない礼服を着て、

 顔を覆って滝のような涙を流すのを見た時は、正直に嬉しかった。

 卒業式の後、校長室に呼ばれて一人一人呼ばれて

 簡単な祝辞て任官先を告げられて、壮大な任命式を挙げてくれ

 鬼のようだった教官や、殺し合いの様な訓練で一緒だった学生たちと

 みんな身内を連れて最後の祝杯とパーティーを行った。

 その日は、過酷だった訓練の日々を忘れ、

 母親とみんなと人生最高の幸せを感じた日だった。


 が、赴任した実際の戦場では、過酷な訓練施設も天国と思えるほど、

 ただの腐った地獄だった。

  

  それでも俺や同じ学校出は下士官から始めたからまだいいが、

 一般募集の兵士は悲惨で直ぐに死んでいく消耗品。

 出世しても精々下士官で終わりっていう完全縦割り、格差社会だった。

 まあ、地獄の様な訓練を経た俺達からすれば、

 我慢して子供の時から学校行けばよかったろうがって気持ちにしかならんけどもな。

 

  当たり前だが軍事任務である以上、相手を殺さないと生きていけない。

 殺すのは同じ国民だから、近所の住人を殺戮しているように感じた。

 戦場では敵も味方も死んだらそれっきり放置が基本で回収などしない。

 怪我をしても歩ける程度なら必死に連れて行くが、

 動かせる事が出来ない状態になってしまったら…残忍な敵の手に落ちる前に楽にしてやる。

 昨日まで、酒場で一緒に馬鹿やってた戦友が

 自分の額を指でつついて目を瞑って笑うのも見飽きた。

 最初は泣いていたが、

 今では、「 んじゃ、あとでな… 」と

 一言だけ言って、無表情に引き金を引くようになっていった。


 蛇足だが兵隊っていうのは、

 生きて喰って飲んで寝ること以外には、女ぐらいしか楽しみが無い。

 俺達学校あがりは訓練期間は必死で暇はなかったし、

 流石に、女は別施設で訓練だから会うことも無かったから、

 どうせできるわけがないので女は作ったことがないから大して関心も無かった。

 しかし、

 一度、殺し合いのような過酷な任務を体験すると、

 生への渇望なのか、性に対する欲求不満が凄まじい!

  まして若いので気も狂わんばかりに飢えてしまう、

 本能には勝てる訳ないので、仕方なく現地調達だ。

 ちなみに、俺の初体験は実戦配備のその年の掃討戦だった。

 相手も戦場近くの一般人で同じぐらいのガキだった。

 勿論、無理やりだったけど、大概他の連中も似たようなものだった。

 泣き叫んだり、必死の抵抗をしたがそんなの関係ねえ…って思ったかな。

 だって、殺されるよりましだろ?戦争だぞ。


 同じ学校出の同僚にも女はいたが、

 死なずに残っている女たちは俺たちと同じ殺人兵器だから、

 そんな食指は存在しない。

 気に喰わなければ、ベッドでも戦場でも平気で

 首を切り裂くから、たまったもんじゃないし…愛など鼻で笑う怪物だ。

 もっとも、学校で教官から死ぬほど女の弱点を教え込まれているから当然だが…


  ただ、彼女…ていうか女の形の殺人兵器も

 性欲はあるんで、俺たちと同じ銃で脅して処理するらしい。

 女だと舐めて反撃でもしようものなら、

 素人の男など、素手で数秒で首を折られる事になる。

 でも、彼女たちを軽蔑する事など出来ない同じ穴のむじなだ。

 俺たちは欲望には貪欲だ、明日でいいやと伸ばすわけにはいかないからだ。

 いつ死ぬか分からないからだ。

 それに、純愛?なんてのは知らねえ…

 ちょいと、小銃でこづけば何度も股開くからな普通の女は。

 ま、しくしく泣くぐらいはするけど、後で金でも渡せば逆に感謝されさえする。

 自給自足以外の産業は戦乱によってほぼ破壊されているから、

 現金収入は貴重だからだ。

 ただ、俺は皆より余分に金は渡していた。

 女は俺にとってはただの玩具だが、母親って存在なら尊敬している。

 ひょっとして俺のお袋の様に、苦労している奴がいるかもしれないからな。


 現地調達は緊急手段だが、酒場兼売春宿ってのはどこにでもある。

 そこで、はした金で結構いい女が買える。

 俺だって、暇があればこちらが主戦場だ。

 後腐れないし、衛生管理もいいので病気の心配ないし、仕事だから技術もいい。

 なにより売買契約だから罪悪感も0だからな。

 ただ、そこまで持たないんだよ、若いんでな。


  こんな言い方をすると弱い女は悲惨だと思うかもしれないが、

 敵も味方も男の方がよっぽど悲惨だ。

 牛馬のように働いて、やっと食えるだけ…兵隊や特権階級にはゴミの様に扱われ

 女も寄り付かんし養えない、腹いっぱいにもなれない。

 その上、夜盗からも敵からも真っ先に殺される哀れな存在でしかない。

 それが嫌なら、俺たちのように兵士になるしかない。

 いつ死ぬか分からないけど腹いっぱい食えるし、敵の町で好き勝手やれる。

 引退しても”死神”って言われる戦闘能力はその後の生活に役に立つ。


  さて、こんな腐った国だが、

 徒党を組んで革命だの反乱などは絶対にできない事になっている。

 旧ソ連の様に親子でも、親友でもなんでも下手な事でもしたら、

 礼金たっぷりだから平気で密告し、

 上手くすれば自由と生活が保障される夢の様なポストまで用意されている。

 人間て言うのは馬鹿だからそんな誘惑に勝てる訳が無い…

 そんなシステムが網の目の様に広がっているからだ。


  んで、まかり間違って捕まったら話にならない。 

 女は、慰み者にされて飽きたら売春宿に叩き売って死ぬまでこき使われる。

 男はもっと悲惨だ、

 有無を言わさず、なんの弁明も出来ずにその場で撃ち殺されるからな。

 執行の猶予も、牢獄での拘束も無い、敗者復活なんてのも無しの問答無用でな。

 半端な支配は脆いが、徹底していれば問題ない。

 牛や馬は反乱などしないからな。

  人類の歴史でも反乱や革命って言う奴は、

 最大の弾圧時より少し自由度が上がった時にしか起こりえないものだからだ。


 ただ、向こうはもっと酷い訳のわからん神様信じている宗教がらみだから、

 神様のお告げとやらで、上の人間の命令には盲従だし、

 既に、異教徒や信仰の無い物は駆逐…したそうだ。

 もっとも、本当はただ恐怖に支配されているだけだろうがな…

 中世の魔女狩りとか、自爆テロとか、異教徒への暴力とか

 宗教ってやつは最悪の暴力を信仰というペンキで塗り固めたようなものだ。

 だから、

 どっちが勝ってもかわりゃしない…中身は一緒だから。


  それと俺はまだ22歳の若者だが、軍では中堅の歳だ。

 ここまで生き残っている奴が少ない。

 きっと馬鹿な上の連中は、この国の男たちを絶滅させるつもりなんだろう

 とすら思える。

 お前らが死ねよ!60にも70にもなってるんだからさぁ。

 長い間、前線で戦っているのに死ななかったのは、

 俺に言わせれば、そんなに大したことはない。

 単純に、相手を殺し尽くすか、やばければ撤退するだけだ。


 前者は文句なしだが、後者はタイミングが難しい。

 ともかく、軍隊では指揮官がいて戦闘継続を命令する限り撤退は出来ない。

 逆らえば反逆罪、逃げれば逃亡罪、文句言えば不敬罪ってことで

 大手を振って射殺されるか、槍で串刺しになる。

 ただ、あくまでも指揮官が生きている間はな…ってことだ。

 勿論、今日みたいに背後から撃たれて

 指揮官が死んだら大手を振ってトンずらするけど。

 ちなみに俺の最大のスキルは狙撃だ…みなまで言わせるなよ。


  戦闘区域では、戦闘員だろうが非戦闘員だろうが殺してきた。

 命乞いをする女子供、老人も容赦はありはしない。

 内戦なんだから、同じ民族だし敵味方がよく分からん、

 非人道主義と言われても、

 腹に爆弾し込んで自爆する奴らだ、躊躇してたらこっちがやばい。

 もっとも、その爆弾も無理やり背負わされてるらしいが…

 同情して、銃を降ろしミンチになって吹っ飛んだ連中もよく見て来た。

 だから、作戦前で昂ぶっているときの性欲処理で俺たちが可愛い姉ちゃんたちを、

 女性型殺人機械が、可愛らしい兄ちゃんたちを獲物にするときは

 俺達の安全のため、町はずれで突然襲う様にしている。

 そうすれば自爆の心配はないし、叢に押し込んで楽しむだけ楽しめる。

  だが、俺たちだって鬼じゃない。 

 可哀そうだから、弄んだ後でそっと後方で解放してやる事にしてやる。

 ちょっと嫌な思いをしても( 最初は、死ぬほど嫌そうだが )

 それで命が助かり、金までもらえるから涙を流して逆に感謝される。

 その後に住んでた場所に帰るという馬鹿な選択だけはしないように

 親切に小銃片手に説得する。

 内容を聞くと、すごすごと手荷物もってどっかに旅立っていく。

 俺たちに襲われた女や男たちは本当に運がいい方だ。

 戦闘のさなかに居れば最悪だ。

 対象の地点の戦闘員は皆殺しで先ほど言ったように非戦闘員もお構いなしだ。


  でもまあ、最初にこちらの降伏勧告の呼びかけに応じて

 男でも女でも、完全に裸になって、けつの穴まで広げる奴らは拘束する。

 武器を隠してない証明は必要だからだ。

 それから、首輪に手錠、鎖で連結する事が必要だ。

 人間はそうされると何もできなくなって諦めて従順になる。

  殺しつくしたら意味が無い。非戦闘員を全部殺して良ければ、

 毒ガスやバンカーバスターやクラッカーのような効率のいい方法が幾らでもある。

  民間人に対しては可能な限り、無抵抗で根性の無い人間を確保する。

 男も女もさんざんもて遊び尽くして後からやって来る残忍な教育部隊に引き渡すせばいい。

 そうなれば俺達の任務も終りとなって、次の作戦に向かうことになる。


  な~に、何人かは死ぬがちゃんと洗脳できるし生き残れる。

 爪を剥がしたり、重油に沈めたり、ウナギ風呂に入れたり、

 ひたすら休みなくビンタし続けたりと

 古今東西、昔っから人間を責める手段は確立されているから、

 最終的に自分達側の人間にできる…

 そいつらを使って町を復興させて自陣を広げていく。

 昔の封建制度と同じで何人かの残忍な監視役の兵隊が治めて、

 徹底的に教育しつくして命令を聞く奴隷の地にするのだ。

  この国で生きるには、人間であることを捨てるしかないのだ。

 下手な正義感も、高尚な理念も

 ナイフ一丁でたやすく切り捨てられる事はまぎれも無い事実だからだ。


  それに俺も自分が人間だなんて自覚することはない。

 後悔とか、罪悪感などこれっぽちも無い。

 じゃなきゃ、山の様な死体を生み出したり、無辜の人々をいたぶり尽くせる訳が無いじゃないか。


 ただ、生きていたい。

 もし、明日死ななければならないとしても後悔の無い様に

 好き勝手やって置きたいという身勝手な意識だけでここまで来たのだ。


 人から、悪鬼のように思われてもだ。

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