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死神 Danse de la faucille  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第二幕 暗闇に浮かぶ赤い目~Loup noir~
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80年後の約束

   私がジャニスさんの話にホッとしている時に、


「 ということで、一応、ハッピーエンドって事になります。」

 そう言うと、

 ジャニスさんは天井に向かって、指で円を描くと

 何もない天井に大きな穴が開いて、

 そこから、黒い棒がゆっくりと下がってきた。

 ゆるゆると降りてきて、2mぐらいの長さになってジャニスさんの手に収まった。

 棒の先には、物凄く大きな三日月の様な大きな刃物が光っている。


 よく漫画かなんかで見る死神の持つ鎌のようだった。


「 さあ、私の方の仕事は終わりましたのでこれで失礼しますわね。

  あとはアルさんの方が後始末をしてくれるでしょう。 」


 なんか、突然にお別れがきたっぽい。

 いけない、私聞いておかないと…


「 なぜ?こんなことをして私を助けるの? 」


 すると、ジャニスさんは真顔になって答えた。


「 アルさんから頼まれたことも勿論ありますけど、

  実は別に、うちの事務所からも

  あなたの運命の保護については懸案事項で聞いていたんで半分は仕事もコミです。」


「 運命の保護? 」


「 ええ、あなたの運命は特別なんですのよ。

  今から80年後…

  私の世界で、そこまで生きたあなたの魂がどうしても必要な時が来るんです。

  でも、あなたが今からしっかり生きてくれないと価値は無いんで頑張ってくださいね。


  で、あなたが天寿を全うする80年後にはちゃんと私が回収に来ますから。」


「 私…80年もまだ生きるんだ。」

 10歳の私にとって、80年というのは物凄く遠い未来のように思えた。


「 ええ、この事はあなたの深層心理に組み込んでおきましょうかね。

  これは私からのボーナスです。

  人は死ぬ運命が長いって意識すると真面目に暮らすますし

  勉強だって何だって頑張りますからねェ… 」


「 勉強? 」

 私はその嫌な単語を聞いて少し気が重くなった。


「 何言ってるんですか?勉強ってのは知らない世界へのカギみたいなもんですよ。

  しなくても構いませんけど、頑張ってすれば世界は何倍も広がる道具です。

  それは人間が持つ魔法みたいなもんですかね。


  まあ、この金言も一緒に深層心理に埋め込んでおきましょう。

  私ったら、凄くサービスがいいもんだわ。


  あ、最後に時限能力で忘却と少しばかりの幸運をかけておきましょうか。」


 ジャニスさんは真剣な顔で、少し長い呪文を唱えている。

 やがて、呪文を唱え終えたジャニスさんは、私に頭を軽く下げて

 大きな鎌を穴にほうり上げ、穴の下にパイプいすを置くと、

 私に軽く手を振った。


「 じゃあ、さよならですわ。80年後に… 」


 私は、そのまま帰ろうとするジャニスさんの、大きなお尻に飛びついた。


「 きゃ! 」


 恐ろしく体が大きいのに、ジャニスさんは凄く可愛い声を上げた。

 私は、物凄く柔らかくて大きなそのお尻に両手を回して抱きついて、

 小さい頃によくお尻に抱きついた、死に別れたお母さんを思い出した。

 なんでか、涙が出て来た。


「 ありがとう、ありがとう 」

 って、お肉に挟まって声が上手く出てなくて鼻水と涙で服を汚してしまった。


 ジャニスさんは、器用に体を捻って私を外して、私を抱き上げてくれる。

 少し苦笑い気味に私に向かって、


「 まあ、涙流して感謝されるほどは…私はしてませんけどね~

  う~ん、そうだ!

  あなたは、大きくなったら辺鄙だけど美しい南の島で運命の人と出あう事になります。

  そこで、絶対にその人を離さなければ、あなたは幸せになれる事になります。


  最後の大サービスでこれもあなたの深層心理に焼き付けておきましょう。」


 ジャニスさんはそう言いながら私の頭を撫でてくれた。


「 だからね、私に感謝してくれるなら80年後の再会の時にしてもらったほうがいいかな。

  いっぱい、いっぱい幸せになってからちゃんとね。 」


 そう言うと、体を離して私の頭を撫でながら床に下してくれた。


「 んじゃ、これで本当のさよならですわ。や、せーの! 」


 ジャニスさんは用意した椅子に乗ると、過ぎ勢いで蹴り込んで

 必死の形相で天井に向かって飛び上がった。


 そして鎌が降りた穴の淵に手をかけると、

 ニギニギッツって声を出しながら鉄棒の懸垂の形で穴に引きあがっていく。

 細い腕に力こぶが浮かび上がって、

 プルプルと体を震わせながらゆっくりと上がって行った。


 物凄い体だから70キロは超えているだろうと思うけど、

 時間だって止めれるこの人が人力で上がって行ったのには頭を捻るしかない。


「 それじゃあね… 」

 穴の中からジャニスさんが汗びっしょりで微笑みながら手を振って来たので、

 私は精一杯腕を振った。

 しかし、ほんの数秒でジャニスさんは消え、やがてその大きな穴もぼんやりと消えて行った。





「 おじょうちゃん、腹減ってないか? 」


 交番の前で、お腹がすいて動けなくなっていた私は、

 交番の中のおじさんに手を引かれて座らせてくれると、そうに尋ねてくれた。

 家出して1週間…ご飯食べてないのが3日間。

 私のお腹は限界だったし、手も足も痺れるほど冷たかったので、

 温かい交番の中に入れて、椅子に座らせてもらっただけで幸運だけど

 我慢できずに私は、体の底から声を出す。


「 お腹空いた…何でもいいから食べさせて。」


 お腹が空き過ぎて小さい声しか出なかったけど、直ぐにおじさんは対応してくれた。


「 う~ん、店屋物ぐらいおじさんが奢ってやるか…近くで早いと勝田か…

  お嬢ちゃん、中華ってどうかな。」


 夢のような言葉を聞いて私のお腹が凄い音を立てた。

 おじさんが少し寂しそうな顔を一瞬したが、直ぐにお品書きみたいなのを渡してくれた。


 私は顔を真っ赤にしながら、大好物を食べたいと思った。

「 うん、ラーメン食べたい… 」と小声で答えた。


 おじさんは近くで何か書いていた若い警察官のお兄ちゃんにそう言うと、

 警察官のお兄ちゃんは、慌ててどっかに携帯でラーメンの出前を頼んでくれた。


「 ところで、だいぶ服がボロボロだけどどうしたんだ? 顔色も良くないし。」

 白髪頭のおじさん…どうしてだか初めて会うのに頼っても大丈夫なような気がした。


 私は、何故か警察のおじさんに事情を話すことが出来た。


 お母さんとお父さんとの死別、親戚中での擦り付け合いの上に叔母さんに拾われたこと。

 虐待や虐めを受けた学校の事…あまり大事に育ててくれない叔母さんの事…

 そして1週間に及ぶ家出と3日間の絶食、

 さっき踏切で飛び込もうとしたことも全て洗いざらい話した。

 いつもは絶対言えない事だけど、どうしても言わないといけない気がしたんだ。


 結構長い時間話したが、おじさんは一度も話の腰を折らないで黙って聞いたうえで

「 そうか… 」と短く言って外の寒そうな風景を見ていると、


「 毎度…ラーメン大盛り3つお持ちしました。 」

 と岡持ちを持ったおじさんが戸を開けて入って来た。

 

「 おい、大盛りって頼んだっけ? 」

 おじさんの言葉に勝田って書いた岡持ちの中からラーメンを取り出しながら、

 お店の人笑いながら話した。


「 いやね、永田さんの注文で一つは大盛りって聞いたんで、

  ちょっと事情聴いたら家出して腹の空いた子供が一人いるって聞いたもんで。


  うちにもそのぐらいの娘居るんで他人事じゃないし、

  見も知らない女の子に高村さんが自腹で注文だから、

  安心して皆さんも大盛りにしました。

  まあ、普通にお代はいただきますけど…大盛りの追加分はうちの奢りにしますわ。」


 私は、いい匂いとあったかそうなラーメンを見て涎が出て来た。

 たぶん口の端から少し出てたし、目を見開いている私を見てお店の人は

 最初に私の前にそのラーメンを置いてくれた。


「 うちのは昔ながらだけど、味は保証付きだ。熱いから気を付けてな。」


「 うん、いただきます。」


 三日ぶりの食事…ラーメン。

 卵、海苔、しなちくで醤油スープか…大盛りって食べたことないけど。

 暖かいそのスープを一口飲んで、用意してくれた水を一口飲んだ。

「 お…おいしい。」思わず声が出た。

 お母さんが死んでから、給食だけがこの世で一番美味しい物だと

 思っていた。でも、違った。


 優しい顔で、おじさんと警察官のお兄さんに見つめられて私は、幸せを感じた。


「 そうかそうか。」

 出前を持ってきてくれたお店の人はこちらには顔を振らずにも、

 警察のふたりのおじさんの前にラーメンを置いて行った。


 私は必死に、涙を流してラーメンを食べた。

 三日ぶりの食事は、胃の中が暴れるほど苦しいけど、

 流し込むような勢いで私は必死に…でも、半分も食べないうちにお腹がいっぱいになった。


「 もっと食べたいんだろう? 」

 箸を強く握ってどんぶりから目を離さない私にラーメン屋のおじさんがそう問いかけてくれた。

 私は涙をぽろぽろ流しながらそれに答える。


「 食べたいんだけど…もうこれ以上はいらん…すごくお腹空いてるのに。 」

 おじさんは、急に泣きそうな顔で私の頭を抱きしめた。


「 そっか、食べれんか…お前ろくに喰わせてもらってないな…

  胃が多分小さくなっとる。

  ゆっくり食べな…少しずつ食べていけばきっと食べきれるから。」

 お店の人は涙を滲ませながら、優しく私にほほ笑んでくれた。


「 いくか、健二。 」

 警察のおじさんは、お兄さんとゆっくりと一緒に立ちあがった。


 お兄さんは先ほどの携帯を取り出して電話をかけ始める。


「 ああ、もしもし○○児童相談所でしょうか…ええ、永田です。

  この間の節はお世話掛けましたありがとうございます。


  ええ、今日はちょっとご相談がありまして… 」


 お兄さんは誰も見ていないのに頭を下げながら電話をしながら

 長いコートを羽織っている高村さんに目で合図した。

 お兄さんは電話を掛けながらも同じようにコートに袖を通し始めている。


「 ゲンちゃん…悪いけどその子を見ててやってくれないか? 」


「 ああ、さっき、かかあに電話して店の方はもう閉めたわ。

  どうせ、あんたの事だから直ぐに永田さんと

  叔母さんってのに会いに行くって思ってたからさぁ。

  ちゃんと見てやってるで、高村の旦那、そっちも…ちゃんとしてくれよな。 」


「 ああ、わかっとる。」

 警察のおじさんは高村って言うらしい。

 凄く、怖い顔でお兄さんと出て行った。


「 まあ、ゆっくり待ってりゃいいさ。あの旦那の事だ

  悪いようにはしないよ… 

  でも、なんであんなところに椅子が置いてあるんだ? 」


 おじさんの言葉に、変な所に置いてあるパイプ椅子を見た。


 そこにはなぜか、ハイヒールで踏んだような跡があった。

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