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死神 Danse de la faucille  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第九幕 戦場の死神~Dieu de la mort et purgatoire~
120/124

地獄の始まり

  星の瞬きがほんの少し見えるだけの暗い夜空の下、、

 ゆったりとした波音とそれを蹴散らすディーゼルの音が響く。

 低速2サイクルエンジンの音は腹に来るし、オンボロなのか少し不規則にも聞こえる。 

 私は甲板のベンチに寝そべって低俗な雑誌を読みふけっていた。

 甲板には十分な明かりがあるんで特に読みにくいわけでもない。


 あと半日すれば目的地の沖合に着くのであるが、

 上陸用の舟艇や装備の積み込みなんてのは戦闘員の私の仕事じゃない。

 535部隊の他のメンバーもジョオン曹長(通称は白兎)以外は上官で

 食堂で行われる交歓会とかで男連中と楽しく飲んでる。

 飢えたハイエナ(男性兵士)どもがうろつく場は過去の生活が思い出されてきつ過ぎるので

 海風にでもあたりながら本でも読んで時間を潰しているのだ。


 読んでいる低俗な雑誌が気になるよな奴には言うが、

 裸同然のこの時代には珍しい栄養の行き届いた女性が

 表紙で艶めかしくプールサイドでポーズをとるような雑誌だ。

 まあ、

 歴史物語や恋愛もの、官能小説なんてのが中心かなぁ…

 はした金で女性が買えるこの世の中じゃあ泡沫の夢って感じかもしれないけど、

 これから死にに行くかもしれないのに肩の凝るものなんか読む気にもならんからこれでいい。

 処女の上に青春も無い私には夢物語そのものだが…


「 ここにいたの? 」


 背後で声がした…

 声がするまで足音にも気が付かなかったが、私は平然とその声にゆっくりと答えを返す。

 同僚の声なんかで焦る必要も無いしな。


 「 まあね…パーティーの方は出ないのかい? 」


 「 あんなの若くて穴があれば何でもいいような連中でしょ?興味ないわ。

   それに…これから死ぬかもしれないのに最初で最後があれじゃあ意味ないしね 」


 ジョオンはそう言うと、胸ポケットから銀のシガレットケースを取り出すと

 震える指で蓋を弾いて開け真っ白なタバコを取り出して

 口紅をしていない唇に押し込んだ。


 「 へえ、先輩…経験無いの? 」


 少し先輩ではあるけれど、別に敬語はいらない同じ階級だしね。


 「 有るわけないっての…私のあだ名の通りにね 」


 「 ”白兎”…意味深ですよね。」


( ジョオンは白磁の様な白い肌で透き通るような青い瞳で…

  胸もお尻も貧弱な少女体形(17歳にもなって)なんで

  ルイス・キャロル(何百年も前の小説家)が好きそうなんで引っかけて

  つけたらしいけど、そっちの意味もあるのか )と空を見上げた。


 「 私も無いですけどね 」

 

 抑揚も無く本に目を落としながら答える。

 別に秘密にすることも無いし。


 「 なんで? 」


 「 なんでって…興味ないんですよ男なんか。

   それにアレなんて煙草10箱程度で取引されてる程度のものだし 」


 そうそう…やったところで男が感じるのはその程度の価値だと思う。

 男からしたら生理現象みたいなもんだし。

 子供作りたいならさっさと退役して貧乏生活を謳歌して暮らせばいいんだしな。


 「 そかあ…うちの部隊なんて色情狂か変態ぐらいしかいないと思ってたんだけど。

   私以外にもいるんだね。

   ”鬼火”なんか凄く目つききついし…経験あるかって思ってたわ 」


 色情狂って言うが、女まみれの狭い世界で体を鍛えまくっていつ死ぬかわからんから

 生物として別に不思議でもないし、

 若い女性ばかりでその道に嵌る変態がいても、そんなのも別に不思議じゃない。

 私は嫌悪するけど理解は出来る。


 「 目つきは…しょうがないですよ。気が付いたらなってたから 」


 「 そっか…まあ、私も人の事は言えないなぁ貧相な体型だし 」


 まあ、確かに胸も尻も貧相だけど、野生のネコ科動物並みに引き締まってはいるんだよな。

 でも、なんか不毛な話なんで話題を変えてみる。


 「 先輩はさ…死んだら悲しむ人なんかいます? 」


 その声にビックとジョオンが反応したけど、別に意味は無いんだよね私としてはさ。

 私が死んで悲しむのって教練科で世話になったおっちゃんと、ナイフくれた恩人だけだし…


 「 ばあちゃんと…妹かな。悲しむというより困るって感じだわ。 

   小さい時から軍に入って給料貰ってるし、最近じゃあ家まで建てたらしいから。

   後は…

   その家に間借りしてる従兄弟いとこかなぁ。」


 「 そりゃあ…また 」


 「 まあでも肉親だし…少しは悲しむんじゃない? 」


 ジョオンは遠い目で空を見上げた。


 「 そうは言っても死ぬつもりも無いし、

   万が一、手足が亡くなっても”赤髪”の准尉みたいにしぶとく生きてやるわよ。」


 私は、日替わりでお茶の葉を変えて焼き菓子食べて一日過ごしてる准尉の事を思い出す。

 かなりの美形だし頭もいいんだろうけど、彼女のその先に未来があるのかは別だ。

 恐らくは結婚も出来ないだろうし、子供も産めないし…ずっと一人で定年まであそこにいるんだろう。

 それが幸せか?って思うけど、

 明日にはジャングルで挽肉になって獣に食われる恐れのある私たちに比べれば百倍はマシだろう。

 更に食わせる家族があれば…生きている意味にもなるし。


 「 んじゃあ、死なないで帰りましょうよ 」


 「 努力はしてみるつもりよ… 」


 努力…認識できない向こう側から音よりも早く飛んでくる銃弾が飛び交うのにねぇ…

 ま、勇み切って先行して蜂の巣にならないようには出来るだろうけど。


 「 先輩さぁ…こっちが死なないって事は… 」


 戦う相手を何人殺すか分かりませんけどって言うつもりだったが直ぐに思いとどまった。

 彼らだって死にたくないだろうし困る家族だっているだろう…それはしょうがないことだ。

 お互いに殺しあうことでお金貰って暮らしているんだから。

 まだ誰も殺したことは無いがね。


 「  ここで気が滅入っても仕方ないんで気分変えません?

    暇もあるんだしあそこでチェスでもしません? 」


 私は、気分を変えたくて少し離れたテーブルを指さした。

 そこには使い込まれたチェスボードが娯楽用に置いてあったからだ。


 「 チェスね…いいわよ。でも、何か賭けたほうが面白いかもね 今晩のお酒とか 」


 「 後は…作戦終了して帰ってから駅前で奢ってくれるとか… どうです? 」


 こういう言い方は生き抜いた未来を暗示していて少し元気が出る。


 「 いいわね… 」


 私とジョオンは、お互いに微笑みながらゆっくりと立ち上がった。

 

 どうせ今夜は興奮して寝付けないし、酒は飲まんし、男は大体嫌いだし…

 同世代の女性と馬鹿言いながらチェスを楽しむのも息抜きになっていいわ。


 それから、ジョオンは結構な手前で私は何度も負けはしたが、

潮風に髪を揺らしながら、

 暗い海原の中でチェスに興じるのは凄く気分がよかった。

 駅前で安酒ぐらい

 (ジョオンは高い酒飲むだろうけど)奢るのなんか気にもならなかったほどに。


 それからベッドが恋しくなるまでジョオンと馬鹿な話をしてお茶を飲んだ。

 甲板には準備に乗組員が来るまでガランとして貸し切りのようだった。

 一応約束の通り、かなり負けたから食堂からワインをくすねてジョオンに渡した。




 


  夜も開け、目的地に着くと特別艦は洋上に停泊して錨を下ろした。

 接岸できる場所も無いわけではないけれど、戦闘中で停泊していては的になるだけだし

 非常事態ともなれば他の海岸まで移動することもあるから当然の処置だ。

  そこから上陸用の舟艇3隻で(船底は厚いが壁板は錆が浮くほどの襤褸船)上陸し

 朝の早いうちから初めて3時間ほどかかり、中継点の基地を作った。


 11時には遅い朝飯ではあったが、まだ襤褸船から食事が届いて

 人間らしい食事が出来た。

 これ以降はジャングルに進み悪名の高い軍用食になるのでしっかりと味わって食べ、

 各自、武器の確認と装備品の最終チェックを受けて、

 正午には少佐の最終指示を受けながらメモを取り意見交換を行う。

 

  すべての準備が終わり総勢100名のうち10数名が無線の連絡や情報処理の為に残り、

 後は母船から届いた小舟を手筈通り河川の入り口まで運んで作戦開始となった。

 流石に手漕ぎではないけど、

 サイレンサー付きで125ccの小さなエンジンであるので音は静かだが足は遅かった。

 馬力の大きなエンジンで一気に行くのもいいが、

 大きな音を立てて敵に見つかるリスクを背負うほどの意味は無い。

 このペースでも作戦地点まではそう遠くないからだ。



 そんなこんなで3時間ほどして、強い日差しも和らぎだすころの事だった。


 私の小舟には先頭で双眼鏡を覗く男の軍曹に

 神経質そうに小銃を構える若い一等兵に、

 足を投げ出して談笑しながらタバコを吸う古参のじじいの伍長

 操舵係は漁師もしていたという二等兵のおっさん

 それに曹長の私…

 普段であれば下士官の私で充分の指揮権があるけど初陣ってことで先輩が付いた。


 港で少佐に舌打ちしていたアマンダ少尉だ。

 御多分に漏れず”アナコンダ”って異名があるけど、

 どうしてそういう異名なのかは分かんないが頼りになる上官だと思う。


 5度の作戦をこなし部下もほぼ全員大したケガも無く生きて連れて帰ってるし、

 前の戦闘では功績優秀ってことで小さな勲章まで貰っている。

 その事は男の兵士たちも知っているのでかなり従順に命令を聞いてくれた。

 初陣の私ならこうはいかなかったろう。

 それに170近い身長に大きな胸に日に焼けてはいるが精悍な30代初めの魅力的な外見と

 口が悪いけどフランクな態度で好感を持たれているのも大きい事ではある。


 むさ苦しいおっさんが偉そうに指揮をしたら背中を味方が撃ち抜くかもしれない戦場では

 舐められるのはもってのほかだが、好かれることも必要だ。


  小舟は適当に間隔を開けて(集中していたらいざッというとき一網打尽だから)8隻ほどで     45名、後の40人ほどは5名ずつの小隊を組んで小隊を分け陸路を歩く。

 

 

 勿論、船で登っていく方が楽だし、武装もちゃんとできるけど見つかればいい的で

 陸路を進む奴らは正直ほっとしたことだと思う。


 「 魚でも焼きますか 」


 タバコを吸っていた男が小さな魚をブリキのバケツに入れて少尉の前に置いた。


 「 ほお、いつ採ったんだ? 」


 「 な~に、適当に安全ピンに丈夫な糸付けて船べりで流していただけですよ。

   餌はこれでさぁ 」


 そう言うと支給品の固いハムの欠片を指でつまんで見せた。


 「 へええ、上手いもんだねぇ 」


 少尉は魚の頭をつつきながら笑顔を見せた。


 「 まあ、軍食も節約しなけりゃならないし…現地調達できる時にしておいた方がいいかと。

  これから長い道のりですし 」


 「 そりゃそうだ… 」


 長い道のり? 少佐の話だと明日の朝には着くぐらいなんだけど…

 それに船の上で魚を焼く?何言ってんの?敵地でしょここ…


 「 あの…火を使うのはどうかと思いますが 」


 私は恐る恐るアマンダ少尉に忠言する。

 これでも人殺しの訓練を長い間してきたし大して怖いものは無い方だが、少尉に関しては

 ミランダ少佐と同じように苦手意識がある。

 ベンチプレス120キロの化け物みたいな怪力もさることながら

 今まであったことのない種類の気配がするからだ。


 「 大丈夫だって、どっちにしろエンジンかけて航行してるから煙も音も出るだろ。

   ここで魚を焼いたところで大して変わらねえよ。

   それにだな…別に船の上で焼くわけじゃないさ。 」


 少尉がそこまで言いかけたときにエンジンの音が急に止まった。


 「 少尉殿…時間です 」


 操舵を担当していた男が静かに少尉に近づいてそう告げると少尉が大きく無言で頷いた。

 私が不思議に思っているとゆっくりと静かに舟が流れて暫くして岸に着いた。


 「 ここで一度休憩することになってるんだよ…少佐の命令でな。

   先発の舟の奴らも、後続の奴らも今この時は着岸して休んでるんだ。

   陸路を歩いてる奴らを除いてな 」


 「 は? 」


 ますます私は頭を捻った。

 

 「 まあ、ゆっくり休むんだよ…そうだな半日はここでいい 」


 少尉は私の他の兵士とともに装備品を降ろしだす。


 「 なにをやっている?”鬼火”もさっさとしな。

   下士官だろうが何だろうが、装備は命なんだし手伝うのは当たり前だぞ 」


 「 事前の説明だと、明日の昼間に目的地集合になってますけど 」


 意を決して質問を投げかけたが、後でな…の一言で会話が終わってしまった。


 その間にも少尉の横を船に乗っていた兵士が通り過ぎて船を降りだしたので、

 私は仕方なく彼らの後をついて行き少し行った草の少ない場所へと出る。


  それから半時もかけて川辺の大き目の石を集めて簡易的なかまどを作り

 河から冷たい水を掬ってきてビールまでバケツで冷やし始めた。

 その後、漁師をしていた男が慣れた手つきで魚を捌き火を起こして魚を焼きだすし、

 赤い焚火の色が私たちを包み込み、やがて日が沈み暗くなっていく。


 とりとめのない会話が続き、

 一応キンキンではないが喉には優しい温度のビールを頂き…一同が安堵した。

 そこには緊張感も無く、今日の疲れを癒すような雰囲気ですらあった。


  どうにも事情が呑み込めないが、私は周りの人員を見渡した。

 おかしい…何かおかしい。

 もう一度…しっかりと観察すると少し異様なことに気が付いた。

 一人として新兵がいない事に…


 「 そろそろかな… 」


 少尉が懐中時計を胸の谷間から引きずり出して時間を確認してそう呟いた。


 「 そろそろ? 」


 少しビールで火照った頬を少尉に向けると少尉はニヤリと笑った。


 そしてすぐに川上の両岸で大きくて明るい光の瞬きが起きたかと思うと

 ドカンドカンと

 直ぐに腹の中に響いてくる音が地面を通してやってきた。


 「 アレが答えだよ、曹長 」


 少尉はそう言うと私の方に首を振る。

 私は何が起きているのか分からなくてその場で立ち上がり、音のする方向を見る。


 「 やはり地雷原があったか… 」


 「 これは真面に行けば待ち伏せって言う訳でしたね…少佐のいう通り 」


 「 陸路の方はこれからどう逃げるかだよな 」


 男どもの言葉に私が混乱していると少尉が渇いた口調で私に訳を話した。


 「 陸路で行った連中な…半分は捨て駒だったんだよ。

   地雷原を確認するためのな。それと… 」


 空に光の弾が打ちあがり、続けて物凄い数の銃声が起きた…ほんの20秒ぐらいの間。

 そして直ぐに音がやんだ。


 「 どのくらいの数の敵が待ち伏せているのか知りたかったしな

   銃声の感じからすると…50人は下らないだろうなぁ 」


 「 結構きつい数配置してるんですね。施設の規模からすればもっと先でもいいのに 」


 「 うちのメンバーも何人かいるから全滅は無いだろうよ 」


 私は頭が痛くなった。


 「 ひょっとして…死ぬのが分かっていて陸路を進ませたんですか? 」


 「 まさか…こっちだって機雷の敷設だって考えられたわけだし 」


 「 機雷?でもさっき、半分は捨て駒だって言ってたじゃないですか 」


 港や海岸で機雷ってのは効果あるけど、流れのある河川じゃあ消失のリスクも

 誤って自分たちが誤爆させる可能性もあるし、

 なにより地雷なんかに比べれば遥かに高価だし今のご時世敷設はしない。

 そんなの教練科で確り習ったわ。

 でも、全否定じゃあ上官の機嫌は損ねるからここは合わせておくことにする。


 「 船なら元々離れてるし、どこかで機雷や待ち伏せがあれば陸地へ避難する。

   まあ、1っ隻は沈没するだろうから…どっちがどうとかって事は無いぞ 」


 「 でも、それでは悪戯に戦力を落とすことになるんじゃあ… 」


 「 そりゃそうだ…

   しかし招集された連中が2名で先導して歩き古参兵や上官が後ろを歩くって感じだ。

   勿論、誘爆や破片は飛んでくるし危険だけど直撃は免れるし、

   なにより戦闘能力の高い兵士の生き残る確率も高くなるから

   別に戦力の低下は大したことない。足手まといの新兵がいなくなれば自由度も増える 」


 そういえば…

 陸路で行った兵士たちは招集組の新兵がそこそこいたように思う。


 「 因みにここにいる連中も知ってはいた作戦だし、了解もしたぞ 

   大層な成績だしキツイ過去もあるだろうけど、まだ戦闘処女のお前には早いから

   少し黙っておいただけだよ 」


 私は目を丸くして他の兵士たちを見るが、

 にやにや笑いながら特に罪の意識も無いように思えた。


 「 曹長殿…地雷に待ち伏せなんて普通に戦場ではあるししょうがないですよ。

   それに魚雷艇でも巡回されたら私らも魚のえさで川に流れる運命だったし…

   半分は運が無いと思いますよ。

  

   本官だって招集組の生き残りではあるけれど納得はしてますよ 」


 死ぬのを納得?するか?


 「 ひょっとして私たちの事を卑怯者か何かと思っているだろうが、

   はっきり言わないだけで、こんなの当たり前だと思うぞ。


   古今東西、ある程度の損耗を計算に入れて戦争するぐらい 」


 少尉の眼は凄くうすら寒く思えた。

 お酒で目が赤くなったのかアマンダ少尉の眼が赤くなって、ニッと歯をむき出しにして私に告げた。


 「 それに、大して残酷だとも思わんよ戦争なんだから… 」


 その時、温和そうに見えた伍長がビールを煽りながら


 「 見せしめに横一列に並べて…一人一人嬲り殺しにするのもあるし

   女子供だって必要なら八つ裂きにでもするし 」


 「 命乞いをしてるのに面白がって火をかけたり、切り刻んだり… 」


 まだ小銃を構えてあたりを伺っている兵士もそう呟いた。


 「 それに、残酷って言えばミランダ少佐な…あの人はこの世の地獄を経験しているんだ。

   いっそ、戦場で一発で死んだほうがマシなほどの地獄をな 」


 少尉の言葉に少しはっとする。

 いつも自分のベッドにもぐりこんでは爪は立てるわ、噛みつかれるわ、肋骨が折れそうなときもある。

 決まって火傷のある方の眼の端から涙が出ていた。

 


 その夜…私は皆が寝静まってから船の傍まで小水をしに出掛けた。

 用を足し、川の水で手を洗っていると少し離れた所に上流から流れてくるものを確認した。


 よく見ると死体だった…18.9の招集組と思われる兵士のようだった。

 頭に穴が開いて脳漿が真新しい軍服にへばりついて、

 静かな音を立てて流れる川の流れに任せて千切れかけた手足が揺らめいていた。

 

 そんな様子を見てその場で私は思いっきり吐いた。

 呼吸が苦しくなって、全身に悪寒が走り反吐の上を転げまわって暗い夜空を見上げた。


 「 死ぬもんか… 」


 とめどなく流れる涙の味はしょっぱかった。

 


 


 

 

 

 















 

 





 



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