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死神 Danse de la faucille  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第二幕 暗闇に浮かぶ赤い目~Loup noir~
12/124

死神は19歳?

「 へえ、ジャニスさんって大学生なんですか…しかも、国立か。」


 若い警官は、胸が大きな女は頭が悪いって考えはなかったが、

 少なくとも、目の前の超絶美人に勉学なんて大して意味はないかと思っていた。


「 あら、国立っていたって地方大学のあまり大した学科でもないですわよ。

  それに、高校の時とあまり変わり映えしないんです。

  何でか知りませんが、同じ高校の同級生の比率が高くて… 」


「 いや、そう…そうですかぁ?はは。」


 一応、大学は卒業しても三流私大卒の警官は笑うしかなかった。

 

 警官が純粋に考えたのは、地方大学のキャンパスで、

 真面目な学生には毒そのものの大きなお尻や胸を揺すって歩いている方が興味あった。

 きっと高校でもこの子にやられた子はいっぱいいたろうなぁ…

 ああ、こんな女が通っているって分かったら、

 俺だって死ぬほど勉強してたけどな…と。


 それからも、若い警官とジャニスのやり取りは30分ほど続いたが、

 暫くするとジャニスはしきりに交番内の時計を気にしだし、

 やがて、不意にジャニスは警官に笑いかけた。


「 すいません。ちょっと用事がありまして、もうそろそろお暇していいかしら? 」

 

「 ジャニスさん…すいません。まだ、調書の途中なんですけど。

  それに、あの子の処置も…考えないと。

  先ほど児相には連絡しましたけど、彼らにも事情説明もありますし

  残っていただくわけにはいけませんか? 」


「 御免なさい、もうちょっと楽しくお話ししていたいところなんですけど

  大事な次の仕事の準備がありまして… 」


「 ああ、大学生のあなたなら仕事はバイトかなんかでしょ?

  それに、今は公務ですからこちらが優先してくださいよ。

  もし事情説明が必要なら、

  何ならこちらでお勤め先に事情をお話しして、ご理解を戴いても構いませんが? 」


 普通にバイトなら…警察からの話で沈黙するし、

 更には未成年の保護が原因なので、勤め先が何か言うわけがないと警官は思った。


 ジャニスは、警官のその言葉に笑みを浮かべた。

「 いやあ、あなたたちでは連絡は取れませんのよ。

  しかも、どちらかというと私の仕事の方が公務って感じなんでしてね。」


「 え? 」


 ジャニスは、若い警官と少女と話している男を見下ろしながら、

 小さく呪文を唱えた。


 

 少女の視点


 ジャニスさんは、頭の上に円を描くと何か呪文を唱えた。

「 アータサン、シャーキン、カエーシーナ 」

 あんたさん借金返しいな?おかしな呪文。


 でも、次の瞬間に時間が止まったように警官のお兄ちゃんも

 私の目の前でジャニスさんを見上げているおじさんもピクリとも動かなくなっていた。

 私は心臓が止まるような感じでジャニスさんを見上げる。


 ジャニスさんだけが私にゆっくりと近づいて来るが、

 他の人たちは動かないし、それ以上に何の音も…ジャニスさんの近づく音以外

 何もしてこなかったんで凄く怖くなった。


「 驚かしちゃった?緊急事態で時間が無くなっちゃったものだから、ごめんなさいね。

  えっと、さっきも言いましたけど今の名前は絵里奈ちゃんでしたわね。」

 ジャニスさんは、ソファーで呆然と見ている私に声をかけて来た。


「 うん。」

 私はそう返事するぐらいにはまだ冷静だった。


「 でも、ジャニスさんって何なんですか?人間じゃあないですよね。 」

 私は止まっている人たちに指を向け説明を求めた。


「 いや、ある意味では人間ですよ。

  しかも、日本人で普段はバイトしながら大学にも行っている普通の19歳ですね。

  ただ、それは私の一部ででしてね…

  本体は死をつかさどる職業のって難しいか絵里奈ちゃんには、死神でいいですわ。

  大して変わりありませんもの。」


「 し…死神? 」

 私は、想像している死神とまったく違うジャニスさんに驚くしかない。


「 ええ、それで構いません。で、それに見合う能力を持っています。

  今、時間を止めていてあなたと私の時間だけ動いているようにしていますのよ。」


「 死神っていうなら…誰かの魂を持って行っちゃうの? 」

 じゃあ、私?でも、それならさっき踏切で飛び込むのを止める意味はないよね。


「 いやあ、今日はアルさんのお手伝いってとこですか。」


「 アルさんって…犬じゃないですか。」


「 ああ、まあこの世界には実在しない生き物ですからしょうがないですけど、

  犬じゃありませんわよ、

  黒いツンドラオオカミっていうのが凄く近いっていう程度ですか…それより大きいですけど。  


  あの人、何故かこの世界では本来の御姿になれないんであんな感じですけど

  本当は背も高くて立派な体を持ったハンサムですのよ。

  ちゃんと言葉も話しますし、頭もいいし、優しいのですのよ。」


「 アルさんが? 」


「 ええ、本来の名前はアルコキアス・ランド・トルメシアスでしたっけ。

  私の古い知り合いで

 ”お迎え”の第八位でトルメシアって国の王様ですのよ。 」


「 トルメシア? 」


「 そこは死後の世界の一つででしてね。

  そこで今、アルさんの仕事の手伝いをしだした人ってのがあなたのお父さん。

  その事もあって、彼にはあなたの自殺は止めなくてはならなかったんですわよ。


  でもアルさんてばこの世界では黒狼のままなんで私に相談してきましてねぇ。

  私も随分あの人には借りがありまして、ここまで手伝ったわけです。」


「 でも、私…あそこで死ななくてもこの先どうなるか… 」

 私は、部屋で待っているだろう怖いおばさんの顔を思い浮かべて憂鬱になった。


「 ああ、それなら…問題ありません。

  自殺するという選択肢はさっきにあの時間にしか存在しませんし。 」


 ジャニスさんが、笑いながらそう言ったが、


「 いや、このまま交番にいても帰るところは叔母さんの家だけだし…辛いのは。」

 大体、叔母さんの家が辛くて死にたくなったのに、問題は何も解決していなかった。


 すると、ジャニスさんはソファーの反対側で固まっているおじさんの肩を叩いて、


「 それは大丈夫よ。

  その件はアルさんも気にしてたんで上に掛け合って問題は解決しました。


  私がいなくなったらこのおじさんが何とかするように多少運命はいじりました。

  まあ、あなたが本来の運命を全うする方が大きな案件なんで

  すんなりと通りました。 」


「 今あったばかりの警察のおじさんが? 」


「 ええ、このおじさん…高村さんっていうんですけどが私がいなくなったら、

  あなたのお世話をしてくれる運命にしてあります。


  家族は奥さんだけで子供はいないんで…養子って事に落ち着きますわ。


  高村さんは仕事一筋で融通はあまり利かないかもしれませんけど、大変親切でしてね。

  心配しないでも幸せに暮らせますって。」


 時間を止めている人間ではないジャニスさんの言う事だ、嘘は言ってないと思う。


「 でも、私には叔母さんが… 」


「 うん、それも心配しないでいいですわ。

  高村さんが、叔母さんのうちに怒鳴りこんで虐待だ、

  育児放棄だとかいろいろ難癖付けてね。

  一時保護って形で児童相談所にあなたを引き取らせて、その後に知り合いの弁護士さんに頼んで

  叔母さんの親権の放棄、あなたとの養子縁組までしてくれます。

  そういう細かいところは私とアルさんでもう筋道付けてますから安心していいですわよ。」


 話はよく分からないけど、心配しなくてもいい事なんだ。

 そうか、私…この地獄のような生活から解放されるんだ…

 

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