死神、交番を訪ねる
「 着きましたわよ… 」
ジャニスさんの声で目が覚めた…
短い時間だったと思うけどよく寝れた。
私は目を擦りながらアルさんの背中から降りて、アルさんの頭を優しく撫でる。
「 しっかり眠っていましたわねぇ。」
ジャニスさんが私を見て微笑みかけて来る。
私がジャニスさんに近づくと同時にアルさんがトコトコと私たちから離れていく。
それを目で追おうと振り返ろうとすると、
「 アルさんはこれから用事があるんで先に帰るそうです。」
私はジャニスさんの言葉に首をかしげながらも、
来た道を戻っていくアルさんに、乗せてもらったお礼の意味で手を振る。
アルさんは、急に立ち止まると大きく欠伸をしてから、またゆっくりと去って行った。
「 じゃあ、お邪魔しますか… 」
ジャニスさんが私の肩に手を乗せながら、
赤いランプの下にくすんだ金色の警察のマークが光っている古びた交番の扉に手をかける。
開き戸のアルミサッシから交番の中を見ると、
中には大きな木製のカウンターがあって、古い白い電話が置かれている。
私が知っている交番はこんな夜だと、パトロールで留守にしているか、
奥で誰かが仮眠していてカウンターの電話で呼び出す無人の部屋が最初にあるはずだけど、
今日は何故だか、
制服を着た若い警察官と、白髪交じりのおじさんが話していた。
「 ごめんくださいですわ。 」
ジャニスさんは交番の扉をまるでラーメン屋さんにでも入る気軽さで、
ガラガラ開けて入って行った。
突然の訪問に、警察の人が固まっている。
そりゃそうだ、
ハイヒールを履いているので2mぐらいありそうな真っ黒い格好の人が入って来たんだ。
びっくりする方が普通だと思う。
「 な…なんですか?あなたは。」
若い警察官の方は、そう言って急いで立ち上がって身構えたけど
大きいだけで、美人の外人さんのジャニスさんの顔を見て
少しほっとしたのか、大きなため息をついた。
おじさんの方は、チラッとジャニスさんを見たけど
直ぐに私の方を何か難しそうな顔で見つめて声をかけて来た。
「 何ですかこんな夜中に小さな子を連れてきて… 」
おじさんは私の方を頭から足先まで観察して悲しそうな顔をした。
「 えっとですね。
この子そこの踏切でうろうろして変だったし、この格好でしょ。
それに、思いつめた顔をしてたんで自殺でもするんじゃないかって思いまして…
事情があるんじゃないかって、ここに連れてきたんですけども。 」
ジャニスさんの声は緊張も何もなく、普段もこんな感じなんだろうなと思うぐらい冷静に聞こえた。
しかし…私の両親知ってるのにまるで知らない子を保護したみたいないい方だった。
私がそれを言おうとしたけど、
何故か、全くそれをしてはいけないかのように体が言うことを聞かなかった。
「 そ…そうですか、それは大変でしたね、ご苦労様です。
おじょうちゃんは後でちゃんと聞くとしてですね、
まずは、あなたのお名前と住所を申し訳ありませんが聞かせてもらえませんか?
子どもの保護といっても一応ですね調書を取らないといけませんので、
先ほどの様子だと大丈夫だとは思いますが、日本語の方は? 」
「 ええ、問題ありません事よ。」
若い警官は、自分の話に躊躇なく答えたので少し安心したようにため息をつくと、
交番の端っこにある事務机へジャニスを案内する。
警察官も180近くあるが、ジャニスは見上げるほど大きいので
おっかなびっくりという感じではあったが、
ジャニスの暴力的に大きな胸が丁度警察官の目の前を横切ったので、
ちょっと顔が赤くなっている。
警官は、パイプ椅子を部屋の奥から持って来て机の前に広げて置くが、
大きすぎるジャニスのお尻と、椅子の座面を交互に見て首を傾げた。
「 あら、失礼ですわよ。いくら何でも… 」
と、ジャニスは笑いながらパイプ椅子に座った。
…背もたれのパイプにお尻が挟まったのか少し肉が横にはみ出てしまった。
警察官はこれは見ちゃだめだなと思って、明後日の方向を向きながら体面の椅子の座り、
ジャニスは顔を真っ赤にして少し下を向いてしまった。
おじさんが、向こうの椅子に座っている二人を見て、
直ぐに私の方を振り返った。顔が少し笑っているみたいだった。
そして、私を応接用のソファーへと案内してくれた。
「 まあ、座りな。
寒かったろう。あったかいお茶でも入れるからさ。」
私はその言葉に甘えて、案内された黒い安っぽいビニールかなんかのソファーに座った。
ここ一週間、公園や空き地で寝泊まりしてきたんで
おんぼろそうなソファーでもすごく柔らかくて気持ち良かった。
えっと…すげーな座って見下ろされるって怖いんだ。
外人さんなのは間違いないよなぁ…金髪碧眼で健康そうな白い肌だもんなぁ。
警官は、職業柄相手の観察から入るのでかなりまじまじと見ながらそう思った。
「 え~、まずはお名前とご住所を…あ、その前に国籍を 」
「 ふ~ん、取り調べみたいですねェ、まあ警察だからしょうがないですけど…
生まれた国はイタリアです。
う~ん、めんどくさいから免許書でいいかしら。」
ジャニスは大きすぎる胸の谷間から
いろんなデコレーションがついたパスケースを取り出し、警官に手渡した。
警官は、両手でそれを貰うと、
人肌のぬくもりと、自然な甘い匂いを感じたが職務が優先と思って確認しだす。
外国語炸裂の国際免許だと思って身構えたが…普通の日本の自動車免許だった。
「 えっと、この免許だと帰化してるんですか…
本名が…ジャニス・ミカ・ビートフェルト 年齢はじゅ…19歳???? 」
警官は思わずジャニスの顔を見る…
( 嘘…19って何なんだよ。こんなもの凄い体して、色気だって )
「 あら、19歳は19歳よ。それとも何歳だと思うんですか? 」
「 あ…いえ、あまりにも大人びてしっかりしているんで20は少し超えたぐらいかと… 」
「 ま、そのぐらいなら許して差し上げますわ。」
( ひえええ、27.8ぐらいかなって思ったのは言わない方がいいな。)
警官は汗をふきふき免許書を確認する。
「 えっと、住所は岐阜県飛騨市ですかぁ…そりゃまた遠いところですねえ。
本籍は同上ですか
( んじゃ、普通に飛騨で申請なんか…あんな田舎で?ま、人それだよな。 )
で、自動二輪に普通免許…ですか。へ~バイク乗るんですかぁ?
ハーレーダビッドソンとか、アマゾネスなんかですか?
( イタリア系なら…ビモータ、アプリリラ、モトグッチ、ドゥカ…ってとこだけど
そんなでかい尻じゃあ似合わねえ…からなぁ。) 」
警官は自分でも気が付かづにジャニスのお尻に目を落としてしまう。
「 う~ん、外車はちょっと…癖あるし。
普通にホンダですわよ。ゴールドウイング…1800だったかしら? 」
「 へええ、渋いですねぇ。しかし、諸費用込みで300万超えそう。 」
( まあ、あんな空母みたいなバイクじゃなきゃあ、そのお尻が収まらんか…
でも流石にそのガタイだわ。
400キロオーバーの重量級を取り廻せるんだからなぁ。)
「 まあ、大きいから仕方ないですわ。
免許は取りましたけど、車はあまり好きじゃないから持ってませんわね…狭くて。」
警官は、ふと軽自動車の狭い運転席で長い手足にデカい胸やお尻が邪魔になって
悪戦苦闘するジャニスの姿を思い浮かんでちょっと頬が緩んだ。
そして、ホンダ ゴールドウイングを操るジャニスの方がカッコいいと思った。
「 はあ、日本人ってのは安心しましたよ。
外人さんだといろいろ手続きや書類も増えるんで助かりましたわ。」
最初の緊張した態度は、すっかり収まって警官はジャニスの調書を取り始める。
暫く注意を払っていた白髪交じりの男も、
照れくさそうに顔を赤らめて話す警官に少し苦笑いしながら
目の前の少女にお茶を出してあげた。




