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死神 Danse de la faucille  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第八幕  乱気流 ~Le Prince du monde~
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加藤 春奈の場合 ~3年前~

 公園の灯りで伸びている私の影が長い。

 目は消えていった彼の背中を見つめたままで暫くその場を動くことが出来なかった。

 なぜなら、和幸が亡くなった時とはまた違う喪失感に襲われていたからだ。

 それほど彼は、私の中で大きくなっていた。

 でも、彼は遠い世界の人でしかも既婚者で子供もいる。

 暫く考えたけど

 ここは心の奥に仕舞って置くことにしよう…私ももう直ぐ30だしなぁ


 と、一人ヒロインになった気分で別れの余韻を楽しんでいると


 ジャニスが申し訳なさそうな口調で話しかけてきた。


「 あの~いいですか春奈さん。

  シャックスは私のものになって、ジュールスの第三皇子も帰られたし

  業務命令もここらで完了でしょう。


  細かい修正箇所はありますがそれは、こちらで勝手にやらせて頂きますわ。

  ということで、私たちもそろそろ帰還することになるんですが…

  その前に、和幸さんのお話をする約束を果たしましょうか 」


 ジャニスのその顔は、これで仕事も終わりだっていう達成感が浮かんでいた。

 その上で、余裕が出来たので約束を果たす気になったんだろう。


「 そ…そうね 」


  サルワさんとの事はそれとして、

 あの時に和幸の手帳がひとりでに開いて、あの呪文を言わせたのはなぜか?

 ジャニスが呪文を唱えれば云々は聞いてはいたけど、それ以外の言葉が多い。

 それに、

 和幸の手帳にメッセージが彼の文字で書かれた経緯は知りたかった。

 ”愛している”って言葉も書いてあったことだし。


「 まず最初にわたくしと和幸との出会いから話しましょう 」


 ジャニスは私の腰に手をやってベンチに座らせた。

 和幸?呼び捨てなんだ…ちょっと違和感あるなぁ


「  それはお亡くなりになった3年前の事故の日でしたわね。

  その日は…私は非番だったんですけど彼の魂の回収をしたんです。

  それが初めての出会いでしたわね… 

  勿論、今回の様にあなたが起因したわけでも無いグ…偶然ですけどね 」


 意外?ってわけでもない、

 何らかの関係が無ければ、ジャニスの呪文の発動に絡むわけがないのだから

 でも、それが初めての出会いでしたって言うのはまだ続きがあるって事かな?


「  回収て、さっきの飛行機の方たちみたいに運命だったんでしょ?

全員死亡の悲惨な事故だったもの… それに、黒焦げの肉片になった和幸が、

  さっきのみんなみたいに苦痛を味合わずに事前に魂を回収されたって事でしょ?

  もしそうなら、偶然とか別として感謝感激ですよ 」


 私は素直にそう思った。

 飛行機でもジャニスが言っていたが、回収は苦痛も恐怖も味合わないって聞いていたからだ。


「 ええ、それはそうなんですけど…ね…言いにくいんですけど

  じ…じつ…実はですね…そ…その…和幸さんの回収は運命ではなかったんですよ。

  本来の運命だと…その…あの…その… 」


 さっきまでの落ち着いた態度とはまったく違い、

 言いにくそうに身をよじりながら、目だけは私をしっかり見ている。

 あの、ジャニスさん…小柄な女の人が身をよじって上目使いは可愛いですけど、

 その巨体だと、怖い…です。勘弁してください。


 しかしなんで…話しにくいんだろう?


「 ねえ、ジャニス!はっきり言ってよ。」


 少し大きな声で答えを促すと、ジャニスは諦めたように話し始めた。


「 和幸さんのその日の本当の運命とは、

  実は搭乗前にベルギーの空港で強盗に遭ってですね… 」

 ジャニスの言葉に、私は一瞬戸惑いそして問い質す。


「 え?強盗って何?ジャニス何言ってるの? 

  そんな事聞いたこともないけど? 」


 初耳だった…そんな事件があって搭乗なんかよく出来たものだと思った。


 ジャニスは目をしばしばさせて、申し訳なさそうに私を見てくる。

 まさか…このドジ娘、その時も何かやらかしたんじゃないのか?


「 えっとですね、うん、いや、うん… あれは、その、うううう 」


 ジャニスはまるで悪戯をして叱られる幼児のような態度だった。

 数百年も過ぎて人生経験…じゃない死神経験をして出る態度とはとても思えない。


「 おい、ジャニス何詰まってんだよ? 」

 ジンギさんが不思議そうに問いかけると、


「 いや!あなたには関係ないでしょ!あっち行っててよ! 」

 鼓膜が破れるか?と思うほどの大きな声でジャニスが叫ぶ。


「 はああ? 」


 ジンギさんは一瞬、目がきつくなったがジャニスの迫力に押されて、

 その場からとぼとぼと離れて、公園にあるブランコに座って寂しそうに漕ぎ出した。


「 ああ、来るんじゃなかった… 」


 ジンギさんはボソッとそんな言葉を何度もつぶやきながら、

 揺れるブランコに身を任せ始めた。


「 あんの~ジャニスさん…いくら何でもジンギさんが可哀想でしょ…

  もっと優しく言ってあげられないの? 」


 イケメン長身のジンギさんが、ただの疲れたおっさんみたいになったのを見て

 少し抗議する。


「 うう、お優しいですね…私が真実を言ってもそんな優しければありがたいんですけど。

  ああ、でも、言わないと始まらないか… 」


 気が立った虎の様に叫んだジャニスが、再び捨てられたような猫の様な顔で

 私の方を見てきた。

 それほど私が怒ることなのかしら?ちょっと怖い気はするけど…


「 当たり前じゃん 」


 ここで、思いっきり深呼吸して、物凄く我慢して最高のつくり笑顔でジャニスの方を向く。

 とりあえず、御仏みほとけになったつもりで言葉を続ける。


「 いいのよジャニス、何を言っても怒らないわ。

  なにせもう3年も前の事だもん…何があったとしても、

  あなたがどんな不始末を起こしたとしてもそれは終わった事だから… 」


 気にしてるから3年間も引きこもっていたんだけど…


「 ええ、分かりました。ちゃんと話します… 」


 そうは宣言したものの、ジャニスは3分間私を見つめたままで、

 真っ青な顔色と蟀谷(こめかみ9に汗を流しながら固まってしまった。

 何か言うとジャニスは永久に話をしないと思ったので、

 我慢して、聖母の様な優しいつくり笑顔でジャニスに微笑み続けた。


「 実はですね、さっきの強盗の話ですが確かに襲われたんですけど… 」


「 うん、それで? 」


「 搭乗手続き前…和幸さんが駐車場から空港へと向かっている時に、

  急に強盗に襲われまして、

  その時…特段に用事もなくブラブラと旅行を楽しんでいた私が、

  たまたま、その場面に出くわしてですね… 」


 ちょっと待て!

 あんた、普通にこの世界に遊びに来てるのかよ!

 いや、それよりも…嫌な予感がしてくるんだけど…


「 何も知らない私がですね…和幸さんを助けちゃったんですよ。

  なんせ、強盗っていっても170そこそこの小男2人組だし、

  ちっこい5センチぐらいの刃渡りのナイフぐらいしか持ってないものですから、

  気楽に、平手打ち2発で気絶させたんですが… 」


 へええ、170そこそこで小男ねえ…女性じゃ逃げるわよ普通。

 それに刃渡り5センチでも、首でも切られたら即死するわよ?


 まあ、でもジャニスは人間じゃないし、それは納得できるとして…


「 和幸さんは、凄く感謝してくれて食事を奢ってくれて… 」


 ふんふん、まあそれも普通よね。


「 電話番号聞いてメルアド聞いて、お別れに手にキスしてくれて… 」


 ほほう?和幸…あんた…まあ死んでんだから我慢するか。


「 それで別れたんですけどね 」

 

 ふ~ん…えっと…それが何?


「  えっとですね、本当の事言いますと…

  本来は…強盗に遭って搭乗できないという運命だったんですよ…ご…御免なさい… 」

 

 消え入るそうな声だったけど、私の方はスイッチが入ってしまった。


「 ちょっと待って、あなたが強盗を退治しなければ和幸は死ななかったてこと? 」


 やっと話が見えてきた、それで話辛かったのかぁ。

 しかし、それ自体でジャニスを責める事など出来ない。

 目の前でそんな事件があれば助ける能力があるなら助けるだろうし、

 そのこと自体は寧ろ褒められたことだろう。

 勿論ジャニスに悪意があったわけでも無いだろうしね…


「 ええ、ええ…そうなんですよ。

  ほ、本当に申し訳ありません…私が助けなければ死ななくて済んだんです 」


「  ただ、普通なら調整力が働いて、止めることが出来ないのになぜか出来てしまって。

  その上、予定にもない休暇中なのに緊急で業務指示書が手元に転送されて…

  その時には既に別の経路に入っていたんでしょうね 」


 うん、よく分からない話し方だけど…ここまでは分かった、


「 でも、助けなかった場合はどうなったの? 」


「 え~、あまりいい話ではありませんが、もみ合った際に頸椎に損傷をもらって

  植物状態になる運命でした。

  その後、何年か経って意識を取り戻しますが…下半身不随で一生、車椅子ってことに。」


 私は、和幸のついていない運命に呆れていた。


「 それじゃあ、助かってもって言うのは違いますから、

  生きていれば、あなたと会うことも望めば結婚することも出来ましたから 」


 ジャニスの言葉はよく分かった。

 私だって、和幸がどんな状態であったとしても生きていさえすればよかったと思う。

 でも…下半身不随かぁ…現実に降りかかるとどうかなぁ…自信が無いわ。


「 … 」


 私は無言でジャニスを見つめる。

 墜落死の原因がそうだとしても、善意から強盗を退治したジャニスは攻めれない。

 それに正直な話、今は悲劇のヒロインだから耐えれても

 下半身不随の夫を半人前の私が支えるなんてのも想像もできない。


 前者は何をしても相手は死んでいるので未来はあるし思い出に封印できるが

 後者は…介護に下手しなくても私が中心で稼がなければならないし…一生なら未来も見通せない。

 単なる損得勘定ならジャニスに感謝してもいい案件だしなぁ~


「 で、他にも影響があったんでしょ?

  じゃなきゃ、貴方が和幸の魂の回収をするわけないし 」


 その言葉を私が話した瞬間、ジャニスは急に苦々しい表情を浮かべた。


「 ええ、実はその時になってもまだ、和幸さんの死の回避は出来たんです。

  搭乗ゲートにまだ入ってもいない和幸さんを拉致することも出来たし、

  航空機に細工して、運命の時間軸をずらしてやりさえすれば、

  なにせ、偶発的なバードストライクだったんで

  墜落の原因を取り除くことだってできたんです 」


「 なら… 」


 と口元まで言葉が込み上げてきたが、それが出来ない事情があったに違いないと思い、

 我慢してその言葉を飲み込んだ。


「 ええ、あの時間に和幸さんが乗らなかった場合の事ですよね?

  その場合は…

  ほんのちょっとした時間のズレが発生してですね飛行機は落ちなくなるんです。

  さらに、私が細工した場合でも飛行機は落ちないんです 」


 私は怪訝そうにジャニスの顔を見る。

 それのどこが悪いんだろう?やればよかったじゃん…そうすれば、

 和幸も助かるし、あの時の他の乗客たちも死なずに済むじゃないのよ…



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