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死神 Danse de la faucille  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第八幕  乱気流 ~Le Prince du monde~
105/124

加藤 春奈の場合 ~第三皇子との別れ~

   サルワさんとジンギさんが私たちから離れて行ったのを確認して、

 ジャニスは、私を手招きしながら自分は公園のベンチに腰掛けた。

 大きく広がっていた閉鎖した空間も、

 違和感を感じないほどの速度で周りの空間に溶け込んで元の大きさの公園へと変わり

 すぐ近くの門の前を自動車が通り過ぎて眩しい光がジャニスの顔を照らしたり、

 先ほどまではまったく感じなかった近隣の家の生活音も、

 静かな月夜の風に乗って聞こえてくる。

 私は多少落ち着いて

 ジャニスが能力で用意した方の豪華なベンチに腰掛けてジャニスと向かい合う。


「 なんか、さっきまでと雰囲気が違うわね。 」

 生活感が滲んでくる、郊外の住宅街の雰囲気をじりじりと感じる。


「 ああ、それねぇ、私の閉鎖空間も一緒に消したんで元に戻っただけですよ。

  閉鎖空間の維持というのも能力を消費しますからね。」

 

「 そうなの?まあ、いいわ、なんかさっきより風も気持ちいし…空気も美味しいしね。」


「 まあ、閉鎖空間ですから…基本空気はその中で循環浄化していますけど、

  地球そのものの循環浄化とは比べられるわけないですからね~ 」

 

 へえ、閉鎖って本当に空間ごと閉鎖なんだ…なんかアニメかなんかの様に

 別次元にコピーを作ってじゃないんだ…ってそっちの方が無理無理か…

 

「 ふ~、まさかこんな展開になるとは思っていませんでした。」


 ジャニスは、大きなお尻を深く背もたれにまで持っていき、前かがみになって

 大きくため息をついた…疲れたみたいね。

 

「 安藤さん…いや、サルワさんの事知ってたんですか? 」

 

「 ジュールスっていうのは知っていましたよ。

  上司からの業務命令書と詳細な内容明細書でね。


  それに、初めて会った時も感じましたわ…凄い魔力。

  本当は、背中を抱きしめられて穴から出たときもドキドキしてましたのよ。

  ちょっと怖かったですし 」


 怖い?そんな風には見えなかったけど…


「 まあ、怖いって言うより…その、男の人に抱きしめられるのも久しぶりなんで

  恥ずかしいって言うのが先に立ちましたけどね 」


 私は今一度、ジャニスを見る。

 凄い美人だし、体も物凄いし、頭も弱そうだし、モテるはずなのにって思う。

 処女って言うのはネタじゃないのか?って思うぐらいに。


「  春奈さん…勢いとか年齢で初めてを上げるのって私は嫌ですよ 」


 少し暗い声でジャニスに言われて…少し心が痛かった。

 死んだ和幸には悪いけど、私の初めては大して好きでもない男との若気の至りだったし。

 そう考えれば…ジャニスは真面な女の子だと思う。

 でもさ、ジャニス…約束したのに私の心を読んでるのね。


「 そうね…でも、寿命も女でいられる時期も凄く短いんですよ人間は。

  どっかで妥協して生きて行かないと…って、私なに言ってんのかしら 」


 今までの話から、ジャニス達はとんでもなく長命か不死だ。

 彼らから見たら、私たちなど陽炎のようなものだから。


「 それは…まあ、御免なさい…精々30数年の女性の方にはしょうがありませんわね。

  でも、何百年あっても…まるでない人もいますから。

  私の知り合いのお姉さまなんか…聖女って言われるまで処女ですし 」


 少し、顔が青くなったような気がするけど…

 あなたが思ってるほど、大した事ないわよセックスって

 死んだ和幸との心の繋がりのほうが…よほど気持ちよかったって思うわよ。


 あんなの…犬や猫でもする行為なんだし。

 最初の経験なんて彼氏の部屋で…僅か5分で後始末のほうが大変だったしね。


「 サルワってお名前も知りませんでしたし… 」


 って、いきなり頬を染めながら私の顔を見てきた。

 そっか、少し頭の隅に残っていた生々しい風景思い出したのが効いたのかなぁ…

 話を強引に切って元に戻してくれた方がこっちも助かるけど。


「 王族とか、第三皇子なんてそんな大物とも聞いていませんでしたね、

  ただ、単にジュールスが生き残るはずだから注意せよってなことだけ。

  ともかく業務として、

  春奈さんを守るのが第一、その次があの4人を生存させ、196人の魂の回収が指示です。

  ああそれと、空間ごと切りとる強力なジュールスだから

  充分に警戒するように…決してこちらから行動を起こすなって注意書きがあるぐらいでしたね

  

  ただ…妙だったのは彼と春奈さんは必ず一緒に行動させるって補足事項ですか 」


  ジャニスが受けた業務遂行内容は多岐にわたって作業量も多い、

 最後はジンギさんが加勢してくれたとはいえ明らかに過重な仕事量だし、

 なによりサルワさんやシャックスの情報が詳細に上がってこないのは問題だ。

 今回はサルワさんという強力な協力者?がいたから何とかなったけど…

 もしいなかったら、どうなっていたか分からない。

 それとも、ジャニスが優秀だから、全部任せても大丈夫と思っていたのだろうか?

 いや、それはないでしょ?

 私は目を凝らしてジャニスを見る。

 ほんわかな雰囲気ではあるけれど、狂暴に大きな胸とお尻と漂う雰囲気は、

 知性漂う仕事の出来る女というより、

 漂うエロス仕事ってなあに?の世間知らずの家事手伝い?

 更に言うなら、お尻は嵌るわ、私に口で丸め込まれるわ、秘密は守れんわ…

 中小企業なら頼むで辞めてくれ!って悲鳴を上げる能無しOLの方が正しいかな。

 事が上手く運んだからいい様なものの、

 私の命が掛かっていたんだと思うと頭がすごく痛くなる。


 でも、仕事だろうしあの空の下で聞こえてきたジャニスの上司の声も

 かなり感情的ではあったけれども、言ってることは理路整然としてた感じだったし

 他に目的でもあったのかなとも思う。


「 えっと、それじゃあ、あの飛行機でジャニスはそのことを隠しながら、

  演技を続けていたって事?

  でもさ、彼が万が一シャックスのような奴だったとしたら、あの場で全員飛行機ごと… 」


「 いえ、それは出来ませんわね。

  乱気流による墜落、海に沈んでほぼ全員即死の運命は確定でしたし、

  私共が何とか書き換えた運命を更に変更するのは流石にジュールスでも大変ですし

  それでももし、強引にシャックスが運命をその場の勢いだけで書き換えると…

  運命の強制力が働いて、シャックス自体の存在が無かったように時間軸からけし飛ぶんですよ。


  それよりは慌てずにあなたの順番の時まで待って、

  慎重に始末すればいいわけですからね 」


 その話は前にも聞いたけどよくは分からない話だ、

 ただ時間の逆行というSFではお馴染みの事象が、絶対に不可能らしいから

 失敗は絶対に出来ないから慎重にもなったのだろうか? 


「 でも、一番最後というのは凄く危険じゃありません? 」


 みんなが飛び去った後で空に浮かんでいた時…執事の貝沼さんが来る前は

 彼と一緒だったんだけど…

 もし彼がシャックスと同じ目的なら殺されてたような。


「 あの閉鎖空間自体が、私たちが改編した運命そのものですから

  安全率100パーセントですわよ…出ていかない限りは… 」


「 じゃあ、ジュールスが手を出してくるとなると…やっぱり 」


「 ええ、ここしかないでしょう。ここが一番不確定な運命でしたからね。」

  

「 う~ん、まあよくわかんないけど…

  不確定な運命ってことは、シャックスに殺されるとかもあったわけだ。」


「 そのとおりですね確率は低いですけどもね。

  まあ、他にも色々の可能性がありましたわね。

  内容については、業務的にも問題があるんで割愛しますけど。」

 なに、もったいぶっているのか分からない。

 どうせ、きれいさっぱりと記憶を消すくせに…


「 ねえ、ジャニスひとつ聞いていいかしら? 」

 私は、サルワさんが今までも私を守ってくれていたと話したのを思い出す。


「 シャックスが手下を使って私を殺そうとしていたことは把握していたの? 」

 そうだ、そうだった。

  

「 いえ、初耳でしたわね。

  私が事務所から聞いた話はさっきの話で全部ですわよ。

  それまでの運命の改編については他の部署の係員がやっていましたから… 」


 その時、サルワさんとジンギさん連れだってベンチへと戻ってきた。

 サルワさんは今の話を聞いていたらしく

 答えを持たないジャニスの代わりに話してくれた。


「 まあ春奈さん、これはもう終わった話ですよ、

  春奈さんが無事で、

  黒幕のシャックスがいなくなった、今はそれでいいでしょう?

  ここで気になって聞いたところで記憶は消されますしね 」


 大人の回答だった。


「  私の方はもう用事も済みましたんで帰ると致します。

  ジンギ君にも今後のことを頼んだし…もう、思い残すこともありませんしね 」

 

「 えっと、私なんてお礼を言っていいのやら… 」


「 はは、さっき言ったじゃないですか。

  それに、あなたを助けるのは私たちとしても当然なんですよ 」


「 そうなの? 」



「 ええ、次元軸は違いますがお互いの種族はお互いの力を必要としてるんです。

  あなたが死んで、人類が衰退すると…私たちも衰退してしまうんです。」


「 え、じゃあなんでシャックスは私を… 」


「 まあ、完全に絶滅するわけではなく人口がかなり減るというのが肝なんです。

  シャックスは先にこの世界の運命に干渉して、

  あなたがいない未来を作れば、この世界で権力を握るつもりだったんでしょう。

  その後の細かいことは知る必要もありませんよ、

  知ったところで終わった話だし知ったところで記憶無くしますからねえ 」


 サルワさんは、ジャニスの方をちらっと見た。

 

「 春奈さん。もうお別れの時間ですが、最後にひとつお願いがあります 」

 サルワさんが別れの言葉を言いたいらしい。


「 お願い? 」


「 ええ、これからはどんなことがあっても死なないでください。

  泥水を啜っても、石にかじりついても、周りからどんなに非難されても

  絶対に自分から死を選択しないでください。」


「 え? 」


「 あなたの運命は高確率で救世主として成功しますが、

  心配なのは、あなたが途中で死ぬことだけです。

  だから、どんな犠牲を払おうと生き続ける事が大事なんです。

  たとえ、犠牲になるのがあの4人だとしてもです。」


「 でも 」


「 心配しないで、そうなる前にそこの大きなお姉さんが何とか助けに来ますよ。

  置き土産も置いていきますから 」


「 あなたは助けには来てくれないんですか? 」


 どうしてそんな言葉が出たのか…サルワさんは人間でもないし、

 シャックスが言ってた様に、怪物のような姿が本体なのかもしれないのに… 


「 個人的には難しいですね…一応ベスケルっていう女房もいるし、子供だっていますから

  それにシャックスの領地を引き継いで統治もしなければならないんで

  物理的にも、精神的にも無理ですかねぇ 」


「 け…結婚してたんだ 」

 

 でも、飛行機の中でもさんざん奥さんや娘の事を話してることがあったな…

 あれは半分嘘だろうけど、実際に家族を持っていなければ出来ない演技だろう。

 少なくとも私にはなんの違和感もなかった。


「 ベスケル…ってひょっとして… 」

 ジンギさんが息をのんでサルワさんの方を見る。


「 ええ、コプートスのヒルダ、ジャニス グリムのベス、ヒラリー

  ジュールスのミランダとベスケル 

  詳しいでしょ?あなたの場合…でも、良かったあなたと兄弟ってならなくて… 」


「 ははは、ベスケルの姉御はそういうのしっかりしてましたから… 」

 

 冷や汗をかくながら、サルワさんにへこへこし出した。


「 あなた…まさか… 」

 ジャニスが開いた口が塞がらないという顔をすると…


「 いや~俺も男だし…興味あったんで。

  すげー二人だったわ…若干年上で姉御肌で美人で…まったく相手にされんかったけど。」


「 あんた…そればっかりね。」


「 ははは、まあいいじゃないですか。彼もそろそろ身を固めるそうですから。」

 

 そう言ってジンギの肩を叩くサルワさん。

 その態度に力なく愛想笑いするジンギさん…何かあったのかしら? 


「 へええ、結婚ねえ~相手なんかいないって言っていましたのに。

  私にちょっかい出してたのって…失礼な人ですわねぇ。

  まあ、おめでとうって言っておきますわね 」


「 は~ 」


 一気に老けたように背中が丸くなってジンギさんはため息をついた。


 そして、私は、その時自分でも信じられない言葉を吐いた。 


「 お別れって…サルワさん、また会えるんでしょ? 」


 私は…心の奥の方が少し熱くなるのを感じる。


「 ちょ…泣いてるの? 春奈さん 」


 目の前のジャニスが大きな声を上げて立ちあがる。


 …そんなに驚くこと?私だって女だし…涙ぐらい…え、涙?私が?

 そう思って顔を拭く…顎の方まで涙が出ているのを確認する。


「 うえ…うううう、うえええ 」


 私は涙を確認した瞬間に、口元が意思に反して垂れ下がり

 目の周りが一気に熱くなって…鼻が冷たくなって泣き声をあげだした。


「 大丈夫、大丈夫。また会えますよ…何とかしていつかね  」


  困った言葉が直ぐ近くから聞こえるのに…遠くで囁くほどにしか聞こえない。

 ああ、私…たった一日だけ一緒にいただけなのに…

 ずっと優しく助けてくれて、守ってくれて、最後に心配までしてくれる

 人間じゃないサルワさんに恋をしたんだ。

 そして、それももうすぐ忘れることになる…寂しくて本当に寂しくて。

 そして、私は大きな声を上げてその場に泣き崩れた。

 

 

 暫く…10分ぐらい泣き続けている間、みんなは私が泣き止むのを待っていてくれた。

 考えてみれば、今この場所に人間などいない…全て化け物だ。

 でも、この優しさは人間以上に感じる。

 やっと、泣き止んだ時には私はすっきりした思いだけが残った。


「 サルワさん、物凄くお世話になりました。

  感謝しても、感謝しきれないほどです。このご恩は一生忘れません! 」


 私はサルワさんの前に立つとそう深々と頭を下げた。


「 いえいえ、気にしないでくださいね…でも本当は残念にも思いますよ。

  家族がいなければ、魅力的な春奈さんの傍にいつまでもいれるってね。

  そうだ、ひとつお別れ前に運命を一つお教えしましょう。

  どうせコプートスのお二人が記憶を消すので言っても大丈夫でしょう。 」

 

 そこまで言って、彼は私の耳元に近づいて小さく呟いていく。


「 あなたが家に帰ってから数日中に運命の人と出会います。

  結構、軽そうでへらへらしている男ですが、頼りにできる男です。

  その方とあなたは末永く一緒にいられますよ。 」


 そうなんだ…私、結婚できるんだ。

 単純にそう思ったが、今はそれどころではない…彼が消え去るのを最後まで見届けたい。


「 バーム 」


 短く彼が、夜空に向かって呟くと先ほどジャニスが作ったような穴が現れる。

 違うのは、向こう側が完全な闇という事だけだろう。

 穴に黒い墨のようなものが淵から流れ込んでいく…多分、その先がジュールスの世界だろう。


「 それじゃあ、ジャニスさん、ジンギさん、そして春奈さん。

  これでお別れです。

  ああ、ジャニスさん…あとの事はちゃんと丁寧に始末してくださいね。

  ジンギさんは約束を忘れないように…

  春奈さん、言い忘れてましたけど、結構いい旅でしたよ楽しかったです。」


 そう言うと、サルワさんが私たちに背を向けてその穴へと歩き出す。

 私はつられて2歩3歩と歩き出すがジャニスが微かな笑いを浮かべながら腕を握って止めてくれた。


 彼…がその穴に消えると、やがて薄くなっていきそれまでと同じ光景が現れた。

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