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死神 Danse de la faucille  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第八幕  乱気流 ~Le Prince du monde~
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加藤 春奈の場合 ~不死身のシャックス~

  シャックスと名乗った化け物が自信たっぷりに私たちを見下ろしてくる。

 なんか眼が厭らしいわ。

 しかし、こんな化け物の花嫁って…体が壊れちゃうんだが。


「 あの~、結婚できるんですか?その体で… 」


 別に怖くないので普通に質問してみる。


「 なんだ?お前怖くないのか?我が 」


 怪物が少し口を開けて驚いたようだが、怖くないものは怖くない。


「 いや、別に怖くないから。それよりも質問に答えてよ!

  その何だ…体とか小さくしても役に立つものも無いように思うんだけど 」


 そう言って下品だけど、化け物の下半身に目が行ってしまう。

 何も無いじゃん…どうやって子供作るの?

 と思っていると物凄く大きなため息をつかれた。


「 馬鹿か…この体でお前をどうにか出来る訳ないしする気も無いわ。

  だがしかし、、必要に応じて人間の体にもなれるぞ。

  勿論人間の男としての機能もちゃん付加されてな…大きさも好きなように… 」


機能って言葉に吐きそうになった。

大きさもって言って口角上げる化け物は心底気持ち悪い。


「 ああ、誤解無いように言うが女性としての機能を持って変身も出来るぞ。

  ちゃんと肉の喜びを感じて妊娠も出来る 」


背筋が寒くなる…何よ肉の喜びって。


「 あの…ひょってして貴方でも 」


シャックスは面白くも無いって顔で疑問に答えてくれた。


「 ああ、勿論我も人間の女にはなれるぞ…なりたいとは思わないがな 」


うんうん、その恰好した化け物が妊娠したいって言ったら勘弁してほしいわね。


「 それに、この体のままではお前たちの世界を支配しても効率が悪いし。

  実際にここの支配階級に収まればちゃんと人型になるさ。


  この姿は言わば戦闘モードだぞ、

  そこなコプートスたちと同じように変身できると思うが? 」


 怪物はジャニスとジンギさんを指さした。

 へええ、怪物の世界ではジャニスたちをコプートスって言うのか…


「 そんな気持ち悪い姿にはなりませんわ。馬鹿じゃないの? 」

  

 ジャニスは気持ち悪そうに体を自分で抱きながらそう文句を言い


「 あんたのその姿は本性だろ?俺らの場合は変身だし 」


 ジンギさんは、馬鹿にしたような物言いだった。

 でも、シャックスの言うことは合ってるんだろうなとは思う…

 仮初の姿なんだジャニスたち。


「 に…似たようなものだろうが 」


 顔を真っ赤にしてって感じで口角泡を飛ばすシャックス。

 ジンギがそれを見て顎を摩りながら


「 そうか…シャックスたちが少なくてもこっちで人間の女どもを孕ませればいいわけか。

  そうすれば自分たちの都合のいい種族として独立できるし 」


「 ほおお、頭がいいな。

  人間との混血はこちらの世界に来て実際に異性と交わらなければ出来ないからな。

  それに、結構性能のいい子供も生まれるから 」


「 だからさ…その恰好 」

 

 変身しても不細工になるだけじゃないの?って思いながら、

 しつこく私が怪物の方を見ると、

 シャックスが呆れたように肩の力が抜けた様な柔らかな声で答えてきた。


「 あのな、一応相手の理想形に姿かたちを変えられるんだが…

  映画スターでも、歌手でも思いのままなんだが  」


「 え、それなら… 」


 と、怪物相手に悪乗りしようとすると大蛇の様な長い腕が私を制した。


「 その選択は無いですね。

  混血ばかりで元の人が滅んでしまったら、私たちもベス達も困りますし、

  ましてや、あなたたちが困るんじゃありません? 」


 黙っていたジャニスが、真顔でシャックスを睨みつける。


「 ほおお、じゃあどうするかね?

  いかに、有名なお前たちといってもたかが2人だろ? 敵うとでも思っているのかね? 」


 自信たっぷりにシャックスは不敵に笑った…と思う。

 


「 ビルヒデン シャーガオ コーヘンガーナ 」


 ジャニスは正眼に構えた舞踊の鎌に力を込めて振り回して叫んだ。

 舞踊の鎌の刃先に真っ赤な目が浮かび上がる。


「 ほおお、やる気か…命知らずで馬鹿な娘だな… 」


 シャックスはそう言うと、両手を大きく開くと物凄く大きな咆哮を上げる。

 空気が振動して耳が痛くなるほどっだった。


「 えっと結構長く生きてますんで娘はちょっと…勘弁してください 」


 信じられない返しをジャニスはしながらも足を踏ん張って事態に備える。


 間の抜けた雰囲気だったのが急に重たい空気に変わる…

 嫌だなぁ殺し合いするのかなって思うけど、

 侵略する方と防ぐ方じゃあそれしか解決できないもの。



「 一気に燃やし尽くしてやるわ 」


 そう言うと大きく咢を開けて叫びだす。


 グオオオオガアア


 シャックスはそのまま体を大きく後ろにそらして、一気に体を曲げて息を吐く。

 顎が外れるほどの大きさに開き切った奥に真っ赤な閃光が光り、

 次の瞬間に、高温の吐息があたりの空間をゆがめながら吐き出された。 


 まるで竜のブレスの様だった。


「 フェリル並みだよなぁ…ジェリオット オン ベリベロス 」


 呪文と共にジンギが両の鎌を回転させると、

 前方の景色が歪んで高温の吐息がそこを中心に拡散していく。

 しかし、その空間自体が徐々に熱を持ってかなりの範囲が赤くなっていく。

 シャックスは、口角を緩ませながらもなおも吐息を吐き続けた。

 それが数十秒も経つと


「 不味いわね…ジンギさんの障壁も強力ではあるけどあれだけ長時間… 」


 ジャニスの独り言はしばらくすると現実になった。


 炎を纏った歪んだ空間が溶岩の様に光り輝いてやがて破裂すると、

 パキン!と渇いた金属性の音と共にジンギの鎌が粉々に砕けてしまった。


「 くううう… 」


 苦悶の表情と共に、ジンギの両方の腕が蒸発して消え去り、

 ジンギはその場に膝をついてしゃがみこんだ。


「 ほおお、結構耐えたな…次は無いぞ。諦めてそこをどけ… 」

 シャックスはさして疲れた様子もなく、再び後ろに体を反らし始める。


「 悪いが、女が掛かっちゃあ逃げるわけにはいかんのでね… 」


 ジンギさんが痛みに耐えながら呟くと

、瞬時に両腕が再生し、砕けた筈の鎌もまた瞬時に形が戻る。

 

 更に何かまた呟くと近くの空気がジンギに向かって集まるように吹き込んで、

 やがて黒い雲が、霧のようにあたりを煙幕の様に漂い始めた。


「 ふん、眼くらましか… 」


 シャックスは意に介さずに再び高熱の吐息を吐き出した。

 しかし今度は、黒い雲に当たって凄まじい水蒸気を上げてそこら中に広がっていく。


 シャックスが前の様子が分からないでいると、

 物凄く高い音を立てながら、その水蒸気の霧の中から

 ジャニスが持っていた舞踊の鎌が飛んできてシャックスの両腕に切りかかってくる。


 シャックスは何度もそれを叩き落とそうとしたが、

 舞踊の鎌は赤い目を大きく開けて空中で何度も方向性を変えながら飛びかかっていく。

 物凄い風切り音を残しながら執拗にシャックスの両腕を攻撃し続けて、 

 直径2メートルはあるその大きな腕をついには両方とも切り落とした。


 グゲゲゲ…とシャックスの声が不気味に響き渡る。

 多分悲鳴だろう。


「 凄い…両の腕切り落としちゃったわ 」


 私は、安藤さんのすぐ後ろに隠れながらそれを見ていた。

 安藤さんのような普通の人間の後ろに隠れてもしょうがないとも思うけど。


「 御免なさい、そんなに怖くは無いけど安心できるんでつい… 」

 

一応安藤さんにもお断りを入れておく。


「 まあ、こんな体でもないよりはマシでしょう。

  私も男だし、目の前で何もできずあなたを見殺しにするなんてできませんから、

  私の自己満足の為にも後ろに隠れていてください。」


 という男気のある言い方をしたので、とりあえず甘えることにした。


 やがて、白い水蒸気の靄も、黒い雲もきれいに消えてシャックスの状態が分かる。

 無傷だった…両の腕もしっかりあったが、両腕の残骸は彼の足もとに落ちていた。


「 悪いな、再生能力が強いんでこの程度は大したことは無いんだ。」

 さらりとシャックスはそう呟いた。


 うえ…蜥蜴かよとも思ったが、

 あれほどの傷が瞬時に回復するとこの後が大変だと思った。


「 へえ、俺と一緒かい… 」


 ジンギさんの両腕も再生されていたが、その顔色は非常に悪かった。

 明らかに無理を言ってる顔だった。


「 そうじゃないだろ、お前凄く消耗してるじゃないか。

  我は何度でも再生できるし、痛みもないし、疲れもせんぞ。 」


 にやにやと笑っているように見える…余裕綽々だ。


「 そいつは不公平だな…ガビル フォン… 」


 負け惜しみの様に短くそう言うとジンギさんの鎌が再び振動し始める。


「 じゃあ、こいつはどうかな… 」


 再び黒い雲が発生してシャックスの頭上に集まっていく…

 灰色から漆黒へと色を黒く凝縮していき、月の光さえも反射しないほど黒くなる。


「 ほう…まだこんなに力が…電撃は我には通じんぞ 」


 退屈そうにジンギさんを見ているシャックスを見ると本当に通用しない気がする。


「 へええ、いいこと聞いたよ。電磁力に変換して高周波変換してやるか… 

  天然電子レンジって奴だ…体液全部沸騰させても再生できるかな? 」



 ジジジと細かなリズムでノイズがあたりに響き渡る…閃光は無かった。


 ゴアアアアと再びシャックスが声を上げる。

 体中から物凄い勢いで蒸気が上がっていく…

 体細胞内の分子が電磁波によって、振動して熱を発生し蒸発していく…

 炎の無い焼殺…生きたままなら凄まじい痛みが伴うはずだ…


 しかし、それも渾身の力で持続しているうちは効果があったが、

 能力が切れると、数分で回復して憎まれ口を繰り出してくる。


「 なあ、無理だよどんなに傷つけようが回復できるんだから… 

  我は再生と防御に関してはジュールスでは最高位にあるのだからな 」


 そう言うと、大きく体をのけぞらせて右手薙ぎ払いに出てくる。


 その動作は大して早くも無かったが、

 能力を出し尽くして青息吐息のジンギでは躱すことが出来なかった。

 長さ30センチの鋭利な刃物のような爪をもった手が体を横に走り抜けると、

 真っ赤な血が爆発音とともに噴水のように吹き上がる。


 ジンギは腹から上が引きちぎれて

 錐もみ状態でジャニスの足もとへと飛んできた。


「 大丈夫? 」


 ジャニスは土に転がる前にジンギを受け止めたが、

 大量の血潮で、来ている服も顔も手も血で真っ赤になった。




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