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死神 Danse de la faucille  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第二幕 暗闇に浮かぶ赤い目~Loup noir~
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後ろに立つ死神

「 え? 」

  肩にかかった大きく暖かな手に私は声を上げた。

 自殺を止められたら大変なので、私は警報機が鳴る寸前に確認したはずだった。


 田んぼも近くにある田舎の寂しい踏切で、

 私が歩いてきた道は百メートルは防犯灯が眩しい電柱なんかしかないし、

 他には何もないただのアスファルトの道だった。

 距離にして多分百メートルは何もないって確信していたから驚いた。

 

「 誰! 」

 私は、びっくりして振り返った。

 でもそこには真っ黒い細かい刺繍が入った服しか見えなかった。


「 こんばんわ、私はジャニスですわ。」


 頭の上から降ってくるような声にびっくりして見上げた。

 私の肩に乗せた手から凄く長い腕が伸びて、その先に物凄く大きな外人の女の人が立っていた。


 踏切を照らす照明が、キラキラと反射するほど綺麗な長い金色の髪をして、

 美しい緑色が少し入った青い瞳が私を見下ろしていた。

 唇は少し大きいけど、大柄な体に合っていたし、鼻は鼻筋が通って丁度ここってぐらいの高さ。

 ”女神さま?”って感じるほど美しい人だ。

  

 しかしなんでこんな夜に、真っ黒で長い高そうなコートを着こんでいるのだろう。

 後も全て基調は黒…烏みたい。

 でも、よく見るとなんだか知らない文字のような刺繍が沢山してあった。


 首元には、黒い鳥の羽が沢山あって、そこから覗く白くて細い首が更に白く輝いて見える。

 そしてその下からスラッと長めのワンピースかな…暖かそう。


 私は、首が痛くなるほど頭を上げて見るしかない。


 女の人としては見たことも無いほど凄く背が高い。

 見上げて最初に目に入る円錐形でしっかりとした胸が牛みたいに大きい。


 腰のあたりには銀と金とで複雑な模様が掘り込んであるバックルと

 長い同じように意味の分からない文字の刺繍がしてある真黒で上品そうな輝きを持っているベルト。


 えっと…お尻が大きい…丁度目の高さなのはあるけれど…

 そして、裾から濃くてこれまた黒いタイツ?みたいなの

 足元は、高そうな銀色のハイヒールを履いていた。 


「 えっと、名前を聞いたわけじゃないんですけど… 」


「 ああ、そうですわね。私が誰かって説明は後でしましょう…難しいんですから。

  でも、

  あなたのお母さんとお父さんは知っています。健二さんと玲子さんでしたわね。

  神崎 絵里奈ちゃん。」


「 え… 」

 ジャニスさんの言葉に少しびっくりした。

 それは確かに私と、お父さんとお母さんの名前だったからだ。


 でも、私にはジャニスさんとは初対面…もしかしたら小さい時会ってるかもしれないけど。

 なんで都合よくここにいるんだろう?


 私があれやこれや考えていると

 ジャニスさんは、私に合わせて、ひざを折ってかがんで話しかけて来た。


 いくら私が子供で小さいからと言っても、

 屈んで私の目と同じ高さにちょうど顔がある…体に比例して大きな顔なのはびっくり。

 それに、近くで見る胸と肩幅に圧倒されて少し後ずさりしちゃった。


「 ご両親は残念な事でしたわねェ。

  それに飛行機事故で海の中ですから、

  ご遺体も無いので小さいあなたにはまだ、死んだって実感も少ないでしょう。」


「 うん… 」


 親戚の叔父さんの所で 飛行機に乗る前に生きていて笑っているお父さんとお母さんの顔が最後の私は

 自然とその言葉に頷いた。


「 でもね、残された方も突然でしょうけど、

  お亡くなりになられたご両親だって同じですのよ…

  まだ8歳のお嬢ちゃんを残していくなんて心残りだったと思いますわ。


  だから、聞いて欲しいの神崎 絵里奈ちゃん。

  ここで死んではダメです。

  どんなに苦しくても生きて行くのをご両親は願っていますわよ。

  それに、運命ではあなたは90まで生き続けなければなりませんのよ。 」


「 えっとぉ、お姉さん大丈夫? 」


 思わず私は目の前の巨大なお姉さんにそう呟いた。

 お父さんとお母さんの知り合いだから途中まではもっともだと思うけど…

 なんで90?

 それに、今すぐにでも死にたいと思っていた私が90なんてとても考えれない、

 頭の可哀想なお姉さんなのかなと一瞬思った。


「 いえいえ、頭はまだまだ大丈夫ですわ。」

 お姉さんはにこやかに私の顔を見てくる。


「 それより、こんな所では寒いですわよ。

  お腹も空きません事?大したものは出ませんが用意してあげますわよ。

  お風呂に入りません事、小さくて古いお風呂ですけど手入れはしていますわよ。

  服も替えたいでしょ?直ぐには用意できないかもしれませんが、

  直ぐに誰かが新品を買ってきてくれますから安心できますわよ。 」


 お姉さんは、私が困っていることを次々と上げていく。

 助けてくれるの?お父さんとお母さんの知り合いだから?っと一瞬思ったが、

 今日初めてあったお姉さんは信用できるわけがない。

 それに、そんなうまい話ある訳ないとも思った。


「 でも、叔母さんになんて言ったら… 」

 死ぬつもりが、タイミングを逃したんで帰るしかない。

 このお姉さんが叔母さんに頼むの?

 あの人、外面はいいから今晩はいいけど…明日はどうなるか分からない。

 それとも、ジャニスさんが何とかしてくれるのだろうか。


「 叔母さんねェ…あの人は駄目でしょうねえ。

  まずはちょっと離れていますけど交番があるでしょ。あそこに行きましょう。」

 ジャニスさんはおかしなことを言い出した。

 助けてくれるんじゃあないの?

 …それに、交番なんて保護なんかされる訳がないんだけど。


「 でも、交番なんかなんもしてくれないし… 」


「 いやいや、それは分かりません事よ。

  まあとりあえず寒いから…ちょっとお邪魔するだけですから。

  事情話せばストーブに当たるぐらいは承知してくれるでしょ?

  私は美人だし、交番のおまわりさんは大体男ですからね。」


 ジャニスさんはニヤニヤしながらそう言った。

 確かに、来た道には民家もコンビニも無いし

 踏切の少し離れた向こうには住宅街があって、

 私もよく見る赤いランプで照らされた小さな交番があるのは知っていた。


 寒い寒い冬の夜空の下で私の体も冷え切っている。

 お姉さんが言う通り、こんな美人のお姉さんに頼まれたらお巡りさんも…


「 ああ、でもこんな夜中にボロボロの家出娘を保護しましたって言えば

  ちゃんと優しくしてくれますって。

  日本のおまわりさんはちゃんとしてますからねェ… 


  ま、とにかく暖かい所には違いないですから行きましょうか。

  アルさん…背中いいですか? 」


「 アルさん? 」

 私は、私の他には黒い犬しかいない…ってこの犬がアルさん?


「 ええ、そこの大きな子がアルさんです。

  私と長い長い付き合いでお友達です…彼は優しいですから背中に乗せてもらえますわよ。」

 ジャニスさんはそう言うと、

 アルさんと言われた黒い犬の背中を撫でる。

 すると、前足を折って頭を下げてくれて少し体を振って私を促しているような仕草をした。


「 乗ってもいいそうですわよ。

  アルさんは毛並みは柔らかいし、体温も高いですから暖かいですからね。

  大した距離ではありませんが、

  その恰好じゃあ流石に見ている私が気になりますから。」

 私はジャニスさんの言われた通り、アルさんの背中に跨った。


 グイっとアルさんが立ち上がると、私の体がふわっと浮く。

 アルさんの背中に乗って足を下に伸ばしたが地面には届かない…すごくアルさんは大きいのは分かった。

 柔らかい長い毛が私の脚の絡んでこそぐったいが、凄く暖かかった。

 犬のくせに少し獣の匂いが強い気はしたけど、

 不快感は無く、牧場の自然の中の匂いのように優しい匂いの様な気がする。


「 行きましょうか。」

 ジャニスさんの大きいなお尻を前にしながら私はアルさんに乗って進みだす。

 暫くすると、アルさんの歩く振動が心地よくて疲れていた私は眠くなってきた。

 それに、冬の夜風は身を切るほど冷たいけど、

 体を立てているのが眠くて辛いので柔らかいアルさんの背中に預ける。

 凄く暖かい…頬が真っ赤に熱くなる感じがした。


「 いいですわよ…着いたら起こしますから。」

 ジャニスさんの声が全て聞こえる前に私は眠りに落ちてしまった。

 しかし、初めて背中に乗ったというのに前にもそんな事が在ったような気がした。



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