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「落ち武‥じゃなくて、あのー今って何年ですかね?」
今は平成。だから平成と答えるのが当たり前。
なのに落ち武者Bは、首を傾げて言った。
「文久三年」
「‥‥‥はい?」
「だから、文久三年だ」
「‥‥‥‥‥はひ?」
「だから、文久三って何泣いてるんだ!?」
文久三年って‥いつですか。
夢なら早く覚めてくれぇぇぇ!!!
まさか、本当に江戸時代にタイムスリップしてきた?
あの時、私が安藤早太郎に会いたいって思ったから?
「全っ然理解できなぶっ!?」
私が構わず泣き叫ぼうとすれば、グシャッと何かが顔に当てられた。
それに触れてみれば、ハンカチではなく‥懐紙?
平成の時代でハンカチ代わりに懐紙持つ人なんていないと思う。
ということは‥本当に?
「‥土方さん、とりあえず話は屯所で聞きましょう」
「拉致があかねえからな。女、殺したりはしねえから、とりあえず立て」
立て?
立つって一体どうやるんだっけ?
立ってみようとするけど、どうやら腰が抜けたようで立てない。
「腰が抜けて立てない‥」
知らない地に一人。
落ち武者AとBを幽霊と思い込み、時代は平成でないとわかり。
今だに信じられないけど、どうやらタイムスリップしたみたいで。
そりゃ腰も抜けるわ!!
「よし、おぶってやれ」
「‥‥俺ですか?」
「他に誰がいる」
落ち武者Bに言われ、落ち武者Aが背中を向けて私の前にしゃがみ込む。
最早行き場はここしかないと思った私は、落ち武者Aに体を預けることにした。
小さな舌打ちが聞こえたけど気のせいだよね幻聴だよね!!
「いきなり土方さんが付き合えなんて言うからついて来てみてば‥なんですかこれ」
「いいじゃねえか、野良猫でも拾ったと思えば」
落ち武者Bこと土方という人は、私を猫扱いしやがった。
でも猫‥可愛いからいっか。
…あれ?
落ち武者Bは土方?浅葱色の羽織、新選組‥って
つまり 土 方 歳 三 ! ?
おお‥見たことがあるような顔だと思ったら、貴方様が土方歳三様でしたか。
落ち武者Bとか言ってごめんなさぃぃぃい!!
じゃあ、今私をおぶってくれている口の悪い落ち武者Aは?
まず近藤勇って可能性はない。
話し方的に、土方歳三よりも立場が下なんだと思う。
年齢も、見た感じ土方歳三よりは低い。
色々考えるべき事はあるのだろうけど…。
目を閉じて見えたのは、直哉の顔と結衣の顔と美幸の顔。
それから、いつでもどんな私でも見捨てずに受け入れてくれた…おばあちゃん。
直哉と結衣は、どうしているだろう。
私がいなくなって、大騒ぎしているかな?
美幸。きっと美幸なら、この状況喜んだかもしれないね。
でも、いざ来てみると恐怖と不安に押し潰されそうだよ。
おばあちゃん、おばあちゃん――…。
これは夢だよって、言って。