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落ち武者Aは私よりも髪が少し長く、低い位置で後ろで一つに括っている。
顔は‥イケメンでした。鋭い目つきが少し怖い。
落ち武者Bは、今の私みたいにポニーテールにしている。
顔は‥イケメンでした。ていうか、どこかで見たことがあるような気がする。
落ち武者Aが刀を鞘に収めると、若干殺気を放ちながら私を見る。
「なんですかこの着物。襦袢のようにも見えますが…」
「さあな。まあ、怪しいが丸腰だし、危害は加えないだろ」
二人は私の前で会話をしている。
耳を疑う発言がいくつもあるんだけど‥。
着物?襦袢?
いやいや、普通にワンピースだから珍しいはずがない。
幽霊だから知らない‥わけないか。
丸腰?危害?
まるで丸腰でない、落ち武者AとBのように刀を持っているのが普通みたいな言い方だ。
ようやく冷静になり始めた私は、二人の様子をよく観察してみることにした。
二人とも着物。二人とも刀を持っている。
そして、二人とも同じ羽織を着ている。
その羽織は派手というか、目立つデザインだった。
水色というには少し違う色に、白色の山形模様が入っている。
何となく見覚えのある羽織。
少し考えてみれば、美幸の顔が浮かんだ。
「……新選組…?」
小さな声で、思いあたる単語を発した。
美幸が言っていた。
新選組の象徴ともいえる羽織がある。色は浅葱色、白い山形模様が入っている。
浪士が見れば、新選組だと一目でわかり恐れたと。
それに私は羽織のキーホルダーをもらったことがある。
デザインは、今目の前にいる落ち武者が着ているものと同じ…。
……いやいやいやいや!?
ありえないから!いつの時代の話よ?江戸時代だよ?幕末だよ?新選組って。
「新選組ってなんだ?」
頭を抱えて悩んで入れば、落ち武者Bが問いながら顔を近づけてくる。
近いぃぃぃ!人間かも幽霊かも分からない奴が近づかないでぇぇぇぇ!!
思わず後退りすると、その様子を見て落ち武者Bがニヤリと笑う。
「女。俺達と共に来い」
「嫌です」
即答しました。
何がなんだか分からなくてぐちゃぐちゃな状態で、来いなんて言われたって無理だから!
すると今度は落ち武者Aが、わけの分からないことを言い放つ。
「この御時世、こんな時間に女一人なんて浪士に襲って下さいって言ってるようなもんだからね。
土方さんがこう言ってるんだから、素直についてくるべきだと思うけど」
頭大丈夫か?この御時世って…確かに変質者は多い世の中だけど。
浪士なんて平成にいない…はず。
ん?んん?
なんかさっきからほんの少しだけ感じていた。
この風景、彼らの着物。電灯は一つもなく、提灯を持っている。
そしてこの落ち武者Aの言い方。
まさかまさかのまさかだけど、これって……。
タイムスリップ
ってやつ?