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直哉の手伝いをしようと台所へ向かう。
よく見ると、いつもの部屋着ではなく私服を着ている。
やっぱり直哉も何が起きるかわからない!ドキドキッ花火大会に行くのか‥。
「くそぅぅぅ!今日は一人でやけ酒してやるぅぅぅ!」
はあ?夏祭り行かねえの?」
「へっ!一緒に行く彼氏なんていないんだよ!」
自慢げに言うことじゃないけど、どや顔してやった。
おぉ‥直哉の冷めた目が私のハートを攻撃してくる!
「そんなこったろうと思った。
仕方ねえから優しーい俺が一緒に行ってやるよ」
今‥なんと?
こんな可哀相な私と、夏祭りに行ってくれるだと?
だからわざわざ私服に着替えていたんだ…。あ、泣きそう。
「直哉愛してるぅぅぅぶふぉっ!」
直哉に飛びつこうとしたら、頭に容赦ないチョップをされた。
うん‥予想の範囲内だぜ。
そうとなれば、私も浴衣を着ていこうかな?
…いや、面倒くさい。直哉をこれ以上待たせるのも悪いし、このままでいいかな。
――
花火大会の開催場所に近づくにつれ、だんだんと賑やかになっていく。
家族連れやカップル、友達同士…みんな楽しそうに笑っている。
「そういえば今日美幸サンに会ってきたんだろ?」
直哉が唐突に聞いてくる。
美幸は直哉と結衣とも仲が良く、家にもよく遊びに来ていた。
二人とも何故か日本史が苦手だったんだけれど、美幸の力説で歴史そのものに興味を持ち、あっという間に得意教科になっていた。
「そうだよ~あ、もらったお土産まだ開けてなかった」
「開けろよ。また新選組関連のものだろ?」
袋から取り出す前に直哉は分かりきった顔で言う。
さすがだな…正解だよ。
中には誠と書かれた赤い旗のキーホルダーが入っていた。
小さな鈴もついていて、ちりんちりんと可愛い音を鳴らしている。
「直哉これどっかつける?」
「姉貴知ってんだろ?俺の部屋に携帯に鞄に…すでに満員だから」
「ですよね~」
直哉も何度かもらっていてちゃんと飾るなり着けるなりしているのは知っていた。
とりあえずスマホにでもつけておこうかな。
出したついでに時間を確認する。花火が始まるまで五分を切っていた。
「今日も新選組の語り聞いてきたんだろ?姉貴ももう新選組にかなり詳しいよな」
「あ!それがね!今日は池田屋事件で亡くなった人の話を聞いたんだけど、何故か亡くなった一人の安藤早太郎って名前に反応したんだよね~」
「誰それ、知らない」
「私もだよ。だからなんだか不思議なんだよね」
ふと思い出した安藤早太郎という名前。
土方歳三のように写真が残っているわけでもないのに。
美幸の影響か、私は会えるはずのない彼に会ってみたくなっていた。
せめて写真が残っていたらな…なんて思っている。