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「…はっ今何時!?」
新選組の話を中心にお互いの近況も話しつつ過ごしていたら、いつの間にか日が暮れ始めていた。
「えーと、五時ちょっと過ぎたね」
「しまったぁぁぁぁぁ!!今日五時半からタイムセールあんの!行かなくちゃ!」
「は?タイムセール?…ぶっあはははは!!」
あたふたと荷物をまとめ立ち上がる私を見て美幸は大爆笑。
こっちは笑えるようなことこれっぽっちも言ってないんですけど…。
私、正確には私たちには親がいない。
高校三年生の弟と、中学一年生の妹と三人で暮らしているのだ。
たまに父方のおじいちゃんとおばあちゃんが来てくれるから生活には困っていない。
けれど迷惑をかけ続けるわけにもいかないので、自分たちで頑張ってやりくりをしている。
私には大学に行く余裕なんてなかった。
高校を卒業し、どこでもいいからとにかく働いてお金を稼ぐつもりでいた。
だけどおばあちゃんが
「親のせいでそんな選択をさせたくない。大学に行きたいのなら行きなさい。
子供がお金の心配するんじゃないよ」
と言ってくれた。
私は私なりに奨学金制度を調べたり、バイトをしたりしてこうして今大学に通えている。
「元不良だった結菜が今じゃ更生してタイムセールが~とか言うんだもんな~。
結菜に負けた奴らが見たらびっくりどころじゃないよね!」
「いつの話してんのよ!私は今や清楚で可憐な乙女だ」
「はいはい、見た目はね」
言っている途中でバッサリと言い切られ、私のガラスのハートはズタズタ寸前!
…まあ確かに、中学から高校二年までは荒れてたというか。何もかもが嫌になってとにかく喧嘩三昧だった。
私の過去を知っている人からしたら、今の私は異常に見えるだろう。
おっと!!!過去を振り返っている場合じゃなかった!
「今日は卵が安くなるの!じゃ!また連絡してね!」
「はいは~い!また新選組の話聞いてね!」
美幸と手を振り合ってから、私はダッシュでスーパーに向かった。
タイムセールの恐ろしさを私は知っている。
普段は井戸端会議を開いているおばちゃん、心の広いおばちゃんが、鬼と化するのだ。
初めてタイムセールに参加した日は、もう喧嘩よりも凄まじい戦いで泣いた。
そしたら大量的に商品を取っていたおばちゃんが、一つ分けてくれたのを覚えている。
その優しさにまた滝のような涙を流してお礼を言った。
そんな思い出のあるタイムセールも慣れたもので、私はカゴも持たずに卵コーナーへと向かう。
激戦の地ではカゴは足手まといだからね!
他のものは後でゆっくり見たらいい。っていう考えをおばちゃんたちはあまりしないようだ。
卵コーナーはすでにおばちゃんでいっぱいだった。
手ぶらの私はするすると前のポジションを余裕でゲットする。
…列形成をしているわけじゃないからこそ出来るんだけどね。
「はーい!ただいまより卵一パック百円セールを開始しまーす!」
店員さんが大きな声で叫ぶ。
戦争が始まる…!