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「着物を着る機会がないから」
ドッキーン!!
……え、え?
土方さんのその言い方は、まるで私がどこから来たのかわかっているような言い方で。
軽く否定したらいいのに、思わず私は固まってしまう。
そういえば、昨日もタイミングよく土方さんと落ち武者Aが私の前に現れた。
も…もしかして…?
「ま、話せねぇんなら仕方ないな。着替え終わるまで外にいてやるから、呼べよ」
意外にも土方さんはそれ以上は問わず、部屋から出ていってしまった。
部屋に一人になった私は、畳に置かれた着物を見ながら、悩んでいた。
今ならまだここから逃げられる。
着物を着たら、成り行きとはいえここでお世話になることになる。
でも、ここから逃げたところで元の時代に戻れるわけでもないし‥どうしよう。
やっぱり、何かしら知っていそうな土方さんに相談するべきなのだろうか?
――
「土方さん‥着替えました」
散々迷った挙げ句、私はワンピースから着物に着替えた。
ポニーテールにしてあった髪の毛は、寝ていたことと撫でられたことによって形が崩れたから横で一つに束ねた。
「野良のくせに着物が着れるんだな」
と、感心しながら言う土方さん。
いや、だから猫じゃないんですけど!?
そう土方さんに言おうとしたけど、先について来いと言われてしまった。
うう…私は安藤早太郎に会いたいとは思ったけど、決して新選組にお世話になりたいとは思ってはいない。
それなのに安藤早太郎には今だ会えない。
代わりに着物まで貸してもらい、お世話になりそうなことになっている。
でもまだ、こうやって優しい扱いをされているだけマシなんだと思う。
土方さんについて廊下を歩いていると、竹刀あるいは木刀を素振りしている人を見かける。
もちろん全員男。
でも、思っていたよりも人数は少なくて、疑問に思った。
新選組はもっと大きな組織だと聞いていたから。
…あ。もしかしてまだ大きな組織になる前だったりするのかな?
大人数になって屯所を移転したらしいから。
新選組の最初の屯所が多分ここ。
土方さんがさっき、八木さんって言っていたからここは八木邸なんだろう。
…多分。
うわぁぁぁあ!!もう!
美幸ならわかるのに!わからないってもどかしい。もどかしすぎる。
今日ほど美幸の語りを聞きたいなんて、思ったことがない。
「着いたぞ。入れ」
「失礼しま…って、え?」
土方さんに流されるようにして部屋に入ったけど、そこにいたのは…。