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グロリオサ 5

 あんちゃんが出かけてから吹き矢の練習を始めた。


 吹いて筒の中の針を飛ばす。単純なようでこれがなかなか難しいものだった。


 息の吹き具合で射程は変わるし、最大で吹いてもそんなに飛ばないのだ。


「加減が難しいな」


 射程距離はそれほど気にはならないけど、距離を測り、狙ったところに命中させる吹き加減がムズい。筒の角度でと変わってくるからムズムズだ。


「トータ! なにしてるだや?」


 ガブがやっとやって来た。


 タケルにいちゃんやアリザねーちゃんと同じで、ガブも腹いっぱい食べるから腹が落ち着くまで動けないのだ。


「あんちゃんから吹き矢をもらったんだ。これで灰色テンを狩ろうと思って練習してたんだ」


「吹き矢? 吹き矢ってなんだや?」


 これだよと吹き矢を見せた。


「こんなもので狩れるだかや? なんか弱そうだや……」


 ガブの不思議そうな顔に、自分もこんな顔していたんだな~と思った。


 知っているからと言って知らぬ者を見下すな。そこにいるのはなにも知らない自分だ。奢るなと言う気持ちを心に教えてやれ。って、あんちゃんが言ってた意味がわかった。


「弱いけど、これがけっこうそうでもないだ」


 あんちゃんに聞いた説明をガブにわかるように教えた。


 おれやねーちゃんと違ってガブは文字も数字も知らず、山の中で育ったからいっぱんじょうしきがない。がいねんってものが育ってない、そうだ。


 だから、教えるときは相手のわかる言葉で、身振り手振り実践してみて、心を穏やかにして教えるとイイ。あんちゃんがおれに教えてくれるように、だ。


「はぁ~、そうだかや。トータのあんちゃんはほんと、スゲーだなや~」


 うん。あんちゃんはスゲーのだ。


「おらもやりてーだや」


「じゃあ、半分やるよ。針もいっぱいあるから収納ポーチに入れておくとイイ」


 基本、あんちゃんは大量生産。きっと針箱には使い切れない針が入っていると思う。


 ……それが八箱もある。中身を出したら酷いことになるだろうな……。


 前に投げナイフ、ケースにどのくらい入ってるんだろえと出したら荷車いっぱいになったっけ。あれ戻すのに泣くくらい苦労したよ……。


 針箱をひっくり返すなと何回も言って収納ポーチに仕舞わせた。ほんとにやっちゃダメだからな。


「なら、やってみるか。まずは短いのからな」


 長いのはけっこう息を強くしないと飛ばないのだ。


「わかっただ。やってみる!」


 短い筒の吹き口から針を込め、口につけた。


 ふっ! とガブが吹いた針は、三メートル先の的に難なく当たった。


「ガブ、息が強いんだな」


 たぶん、おれと同じくらいだと思う。まあ、軽く吹いたときの感じだけど。


「前の村じゃ火吹きしてたからな」


 火吹き? なにそれ?


「竈の火を大きくするとき、これより太い筒で息を吹くだや。そうすると火が大きくなるだや」


「へ~。そんなのあるんだ」


「トータんちではやらねーだか?」


「うちの厨房はねーちゃんの聖域だから誰も入れないんだ」


 おかあちゃんも入れないから、おかあちゃんが作るときはおかあちゃん用の台 で作るのだ。


 ちなみに、ねーちゃんが作るところは厨房で、おかあちゃんが作るところ台所だ。なぜ違うかは知らないけど、あんちゃんがそう言うもんなんだと納得しておけってさ。


「それに、火はねーちゃんが魔術で起こすし、あんちゃんが作ったライターがあるから火吹きはしないな。ガブんちもそうじゃないのか?」


 ガブの家はあんちゃんが作った。なら、うちの台所と同じだと思うだが。


「あ、そう言われみれば、おら、この村に来てから火吹きしてねーだや。かあちゃんも料理が楽になったって言ってただ」


 うちのおかあちゃんもそんなこと言ってたな。まあ、うちで料理したことないからわかんないけどさ。


「まあ、そんなことより吹き矢をやろう。これ、けっこう難しいんだ」


「おう、わかっただや。何事も練習だもんな!」


 二人並んで吹き矢を練習してると、トアラねーちゃんがやって来た。


「おはよ、二人とも。サプルはいる?」


「うん。うちにいると思う」


 朝食のとき、「広場で出すものなにがイイかな?」っておかあちゃんと話してたから、たぶん、台所で作ってるはずだ。


「ありがとう。行ってみるわ」


 と、うちに向かったーーと思ったらすぐに振り返った。どうしたの?


「二人とも、もしかして灰色テンの子を狩りに行くの?」


「うん。そろそろ出産期だから」  


 よくわかったね。


「やっぱり。昔、ベーもそれで灰色テンを狩るって言ってたからね。もっとも、途中でメンドクセーとか言って魔法で捕まえてたけど」


 フフと笑うトアラねーちゃん。まあ、あんちゃんは、形から入って満足したらテキトーになるタイプ。あんちゃんらしいや。


「灰色テンの子の毛皮が入ったら漬物と交換してくれない。ベーったら気が乗らないとやってくれないし、冒険者ギルドに依頼すると高いからさ」


「うん、イイよ。狩ったらもってく」


 あんちゃんからおれが狩ったものは好きにしてイイって言われてるし、物々交換や売り買いも学べるなら学んでおけと言われている。なのでトアラとの商売(?)に承諾(って言うんだっけ?)した。


「なるべく傷てけないでね。イイものだったら新しいベルト作ってあげるからさ」


 うちの服はだいまいトアラねーちゃんが作ってくれたもので、今しているベルトもそうだ。まあ、あんちゃんのお下がりだけど。


「ほんと! ならガブとお揃いのベルト作ってよ! いっぱい狩ってくるからさ!」


「ええ。いっぱい狩って来たら作ってあげるわ」


 おし! ならいっぱい狩ってやる!

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