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グロリオサ 4

サプルのときもそうだけど、トータの一人称は難しい。ならやるなって突っ込みはノーサンキュー。

 うちで一番早く起きるのはあんちゃんだ。


 横に寝ていたあんちゃんが起きるのを頭の隅で思いながら毛布に包まる。まだ眠い……。


 でも、すぐにねーちゃんとおかあちゃんが起きるので目が覚めてしまう。


 みんながいなくなったベッドの上でボーとし、眠いのがいなくなるのを待つ。


「……今日はなにしよう……」


 なにも考えないとまた寝ちゃうので、起きたらなにをしようか と頭を働かした。


 昨日はガブと北の山に行って狩りをしたから、今日は東の山に狩りに行こう。そろそろ灰色テンの出産期だってあんちゃんが言ってた。


 生まれたての灰色テンの子は真っ白で毛も柔らかい。剥ぎ取れる毛皮は少ないけど、手袋にすると銀貨三枚で売れるそうだ。


「いっぱい生まれてるとイイな」


 一匹で五匹は生むから、がんばれば一日で三十匹はいけるかも。あ、ガブに皮剥してもらったらもっと行くかも。


 あれこれ考えてたら眠気は完全になくなっていた。


 ベッドから下り、タンスから服を出して着替えた。壁にかけた短剣と投げナイフのベルトを装備した。


 軽い準備運動をして完全に眠気を振り払い、部屋を出た。


 厨房ではねーちゃんが残像拳をしながら料理をしてるのを横目に外へ向かう。


 顔を洗ったり歯を磨いたりはうちの中でもできるけど、おれは裏山の沢でやることにしていた。


 ねーちゃんみたいにぬるま湯でだと眠気がまた襲って来るから、冷たい水で顔を洗うことにしてるのだ。


 山に入ろうとしたところでガブがやって来た。


「おはよー、ガブ」


「おはようだや、トータ」


 おれが沢で顔を洗っていることを知ってから、ガブも同じく沢で顔を洗うようになった。


「トータ、今日はなにするだや? また鳥を狩るだか?」


 目をキラキラさせて聞いてきた。


 ガブは肉好きなので、狩りをするのが楽しくてたまらないのだ。


「今日は東の山で灰色テンを狩ろうと思う」


「灰色テン? 旨いだかや?」


 ガブは食えるかどうかが大事みたいだ。フフ。


「……食えねーだか?」


 がっかりするガブの背中を叩いた。


「小さいからそんなに肉はとれないけど、食えるよ。塩コショウをかけて食うと旨いかな?」


 前にサバイバル術だとあんちゃんが焼いて食わしてくれたけど、そう不味くはなかった。まあ、あんちゃんは料理が苦手だからちょっと焦げて苦かったけどさ。


「それは楽しみだや。いっぱい捕まえるだ!」


 まあ、生まれたばかりの子ならガブでも捕まえられるだろう。大人はおれが狩ればイイんだからな。


 二人で顔を洗い、歯を磨いてからうちへと戻った。


 ガブもうちで食べるかと誘ったが、今日は昨日の肉煮込みが余ってるとかで自分ちに戻って行った。


 おれも肉は好きだけど、さすがに朝からは辛いな。朝はサンドイッチと野菜汁で充分。胃を軽くしておかないと動けなくなる。


 あんちゃんと同じでおれも小食なのでそんなに食えないんだよな。


「あんちゃん。灰色テンを狩ろうと思うんだけど、 短弓より小さい弓ない?」


 灰色テンは大人でも小さい。短弓でも威力があり過ぎて毛皮を痛めるんだよ。


「灰色テン? ああ、もうそんな時期か。早めに駆除しておかねーと野菜とか食われっちまうな」


 灰色テンは野菜を食いちらすから山の衆からは嫌われているのだ。


「なら、吹き矢でも使え。軽い痺れ毒を使えば毛皮にも傷はつかんしな」


 吹き矢? 矢を吹くの?


「ん? あ、吹き矢は教えてなかったっけな。細い筒から針を飛ばすものさ。確か前に作ったはずだが、どこに置いたっけか?」


 想像できずに首を傾げてると、あんちゃんが魔術で吹き矢なるものを描いてくれた。


「こーゆーもんさ。ほんと、どこに仕舞ったっけな?」


 確かに細長い筒に、針? 矢じゃないの? ん? これ、前に見たことあるぞ。えーと、物置、だったかな? 何本かあってなんだろうと思った記憶がある。


「物置にあるやつ?」


「物置? あ、ああ! 作ったはイイがオレには才能ねーから物置に仕舞ったんだった」


 どれとあんちゃんが立ち上がり、物置へと向かった。おれも後に続いた。


「えーと、どこだったけ?」


 物置はあんちゃんの仕事道具が置いてあるところで、いろんなものがテキトーに押し込められている。


「片付けないとねーちゃんに怒られるよ」


 ねーちゃんは散らかってるのを許さない。普段は優し……くもないけど、汚くしてるとちょー怖い。そんときはあんちゃんでも勝てなくなる。


「そ、そうだな。まあ、そのうちやるよ」


 やらないときの返事だ。でもまあ、あんちゃんには収納鞄があるし、ねーちゃんが鬼になる前になんとかするだろうさ。


「お、あったあった。これだ」


 なにかの箱の後ろから長さの違う細長い筒が何本か出て来た。


「これが吹き矢?」


 こんなので狩りなんてできるの? ネズミくらいしか狩れないんじゃない?


「ハハ。これで狩れるのって顔だな。まあ、威力はそれほどねーが、毒と併用すると、あ、こっちの針に痺れ毒や猛毒をつけたら狼だって猪だって狩れるんだぞ」

  

「なんか卑怯っぽい」


 狩人なら正々堂々挑むべきだ。


「皆が皆お前みたいに強くはないだよ。弱者は弱者なりに戦う。卑怯? ああ、そうだ。弱者は強者の隙をついてくるぞ」


 あんちゃんの目に身が縮んだ。


 いつもあんちゃんが言っている。奢るな。固まるな。思考は柔軟に、行動は迅速に。敵はいつだって卑怯だと。


「……ごめんなさい……」


「間違いを間違いと理解できるトータはスゲーよ。んじゃ、やり方を教えるからあとは自分で練習しろ」


「うん!」


 ほんとにスゲーのはあんちゃんだ。おれもあんちゃんみたいな男になるんだ!

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