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しばらく二人でもじもじしていると、宮本が言った。
「それで、話って……」
ぎくり。来た!
「何?」
「へ?」
まん丸の目になった私に、宮本もきょとんとする。
「だから、何か話があるんだろ?」
「はあ? 誰が?」
「高瀬が。だから教室で待っているって、さっき拓巳が」
「拓巳? 私は莉奈に、宮本が話があるからって」
そこまで言って、はっとした。
莉奈たちが、仕組んだんだ!
しばし見つめあって、お互い吹き出す。
「あいつらの仕業か」
「もー、なんなのあの二人は」
「ま、ちょうどいいかな。俺が話あるのは、本当だし」
笑いながら言った宮本に、私の笑顔が消えていく。
やだ。やっぱりやだ。聞きたくない。
「あのさ」
「せーんぱい」
宮本の声に、甲高い声が被った。
反射的にドアを振り向くと、ピンクのワンピースを着た秋葉さんがいた。
「こんなとこにいたんですかあ。ダンパ、始まっちゃいましたよお」
するりと私の横を抜けて、宮本の腕に自分の腕をからめた。
「ごめんなさあい。支度に時間がかかっちゃいました。でも先輩の前ではめいっぱいきれいでいたかったから……。ね、どうです? 私、きれいでしょ?」
「ちょ、秋葉さ……」
「お相手ご苦労様、高瀬先輩」
ぴき。
挑戦的にこっちを見た視線を受けて、額に青筋が立つのが自分でもわかった。
「……そう。そういうことね」
つぶやいた声は、微妙に震えていた。
やっぱり、そういうことなんじゃない。
唖然としていた宮本が、はっと私に視線を向けた。
「違っ……!」
「どうぞ、お幸せに。お邪魔しました!」
「高瀬っ!」
そのままくるりと振り返って、廊下へ飛び出す。
なによ、なによ、なによ!
ずんずんと暗い廊下を踏みしめる。
いくら報告するにしたって、見せつけることないじゃない。あの子のいるところで、おめでとうなんて絶対言えない。せっかく、覚悟を決めてきたのに。
薄暗い視界が、涙でぼやけてさらに見えなくなる。
「高瀬!」
呼ばれた声に振り返ってぎょっとする。なぜか追ってくる宮本に、反射的に走り出してしまった。
「待てよ!」
「やだ!」
うわあ、ヒールって走りにくい。それでも、必死に宮本から逃げる。
もう、だめ。なけなしの覚悟は、とっくに粉砕されちゃった。今更、笑顔になんて戻れない。
「待てって!」
階段を降りようとした瞬間、ぐいと腕をひかれた。そのまま、背中から抱きしめられる。
「聞いてよ、高瀬」
「いやっ! 聞きたくない!」
暴れる私をものともせず、私に回された腕はびくともしない。細いくせに、どこにこんな力があるの!
「離してよ! 宮本なんか嫌い! 大っ嫌い!」
叫ぶたびに、涙が零れ落ちる。じたばたと暴れる私を、宮本は、ぎゅっと強く抱きしめた。
「俺は……好きだよ」