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「なんか、恥ずかしい……」

「みちるちゃん、きれいよ」

 いやそんな、本当にきれいな莉奈に言われても。


「あのね、宮本君から伝言」

 こっそりと私の耳に顔を近づけて、莉奈が言った。

「教室で待ってるって。話があるらしいよ」

 どきん。

 話って、昨日の? でも……


「なんでそんな顔になるのお?」

 眉をひそめた私に、由加里がルージュを引きながら聞いた。

「ん……聞きたくない……」

「ええっ? どおして?」

「だって……」

 覚悟、決めなきゃならないのかな。


 1年の時からずっと同じクラスで、部も同じで。よくみんなで遊びにも行ったし、一緒にいるときは楽しかった。

 いつから、友達以上に、目があいつを追うようになってしまったんだろう。

 あいつ変なとこ真面目だから、彼女ができたら今まで通りに一緒に遊んだりなんてしないだろうな。そんな性格を知っているから、宮本の言う、「話」に、身構えてしまう。

 もし、彼女ができた、って言われたら、私、笑っておめでとうって言える、かな……

 思わずため息が出た。


「みちる、笑って」

 由加里が、そっと両手で私の頬を包むようにして顔を上げさせた。

「あのね、女の子ってえ、好きな人に向ける笑顔は、世界で一番かわいい顔になるのよお。だから、自信を持って、笑って行っておいで」

 由加里の優しいまなざしを見つめて、小さくこくりとうなずいた。

「……行ってくる。先に、中庭行ってて」



 電気の消された校舎の中は、賑やかな外とは正反対にひっそりとしていた。中庭をめまぐるしく照らしているライトが廊下に反射して、意外に明るい。普段、ぱたぱたと歩いている廊下に、かつかつと大人っぽい音が響くのが新鮮。

 普段なら、こんなとこ一人で歩いていたら怖いと思うんだろうなあ。クラスの看板や張りぼてがそのまま廊下に残されていて、なんか不思議な感じ。

 あたりをきょろきょろしながら歩いてきて、3-Aのクラスの前で立ち止まる。


 一回大きく深呼吸。

 おめでとう。よかったね。

 心の中で呟いて、こぶしに力を込めた。

 よし。大丈夫。

 からりと戸を開けると、窓際にいた人影がふりむいた。

 わ。

 そこにいた宮本は、ダンパ仕様になっていた。


 黒のスラックスに、グレーのベスト。上着は脱いでいるのか、そもそももとからないのか。髪をアップに固めて蝶タイしてると、まるでバーテンダーみたいだ。

 去年は確か、かっぱの被り物だったっけ。みんなで妖怪系の仮装をして、大笑いしながらダンパに参加した。

 初めて見る正装は……やばい、かっこいーじゃない……


「高瀬?」

 声をかけられて、はっとする。いかん、見とれてしまった。

 近づいてきた宮本は、眩しそうに目を細めている。

「ごめんね。待った?」

 ひきつるな、顔。いつも通りに、笑顔、笑顔。

「あ……いや、そんなことも……」

 なんだか口ごもる宮本は、ふっと、微笑んだ。

「似合うな、それ」

 一瞬何のこと言われているか、わからなかったけど、それがドレスのことだとわかって、かっと頬が熱くなった。


「そ、そう? 由加里が選んでくれたの」

「高瀬に赤って、似合う。きれいだな」

 おおおおおお? どうした宮本? 

「……なんか悪いものでも食べた?」

 思わず減らず口が出た私に、宮本がぷいとそっぽ向いた。

「違うよ。ばか」

 その横顔が……耳が、真っ赤だ。ライトのせいじゃないよね。

 宮本、照れてる!

「ご、ごめん……」

 そんな風に言われたら、こっちまで照れちゃう。


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