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龍彦先輩って……宮本のこと?
「ええと、あいにく宮本はただいま席を外していまして……」
「そんなことは、どうでもいいの」
言いかけた私の言葉を遮って、鮮やかに微笑んで見せた。
「私がいただいても、よろしいかしら?」
挑戦的なその態度に、思わずメイドの仮面もはがれるってものよ。
「いただくも何も、宮本は私のものじゃないし関係ないわ。聞く相手を間違っているんじゃない?」
「そう。じゃあ、かまわないのね。後で何を言っても、遅いわよ」
「……どういうこと?」
秋葉さんはそれには答えず、席を立つとにっこりと笑った。
「私たち、お付き合いすることになるわ。龍彦先輩と仲がよろしいようなので、一応ご挨拶をしておこうと思いましたの。これからも友人の彼女としてよろしくお願いしますわ、高瀬先輩」
「は……?」
唖然としている私をしり目に、彼女はさっさと部屋を出て行った。
何? 今、お付き合いって……?
「やるわねえ、彼女」
私たちのやり取りを黙ってみていた由加里が、感心したように言った。
「やるわねえ、じゃないわよ! 何よ、付き合うって……どういうこと?」
「そういうことなんじゃなあい? ついに宮本も、年貢を納めたんだあ」
「じょ、冗談じゃないわよ!」
「えー、だって、みちるには関係のない話なんでしょー?」
いじわるっぽく笑う由加里のほっぺを、むにゅりと両手で引っ張る。
「関係ないけど! 関係ないけど! あんな女、お母さんは許しませんよ!」
「……みちるちゃん、いつからお母さんになったの?」
ちょうどそこに、莉奈が図書館から帰ってきた。
「莉奈ああああ」
思わずその体に抱きつく。
「今あ、例の秋葉さんが来て、宣戦布告していったのお。ちょっと見ものだったわよお」
「ああ、そこですれ違ったわ。宣戦布告って、みちるちゃんに?」
「そう! なにがいただきますわ、よ! あの女、得意満面の顔してたでしょ!?」
「え? でも彼女……」
莉奈が眉をしかめて何か言おうとしたとき。
「そこの二人! さぼってないで注文とってよ!」
委員長にどなられた。気が付けば、店の中はてんてこ舞いの騒ぎだ。
「はーい」
由加里はさっさとオーダーに戻る。私も、ひっついていた莉奈から離れて仕事に戻った。
けど、頭はさっきの秋葉さんのセリフでいっぱいだ。
付き合うって……宮本と? 秋葉さんが?
「マジでえ?!」
「え、はい。本当です。あの、コーヒーで……」
はっと気づけば、目の前のお客さんがおびえてた。
「し、失礼しました」
オーダーを取り直す。でも、そのあとも失敗ばっかりで、ついには委員長から、
「高瀬、もういいから、あんた裏方ね」
と言われる始末。
しおしおと裏方に入ると、莉奈に声をかけられた。
「みちるちゃん、そろそろ休憩の時間じゃない?」
言われて時計を見ると、確かにもう当番の時間は終わっていた。そんなことにも、気づかなかった……
「部の方、顔出すんでしょ?」
「うん、いちおね」
私も宮本と同じ陸上部だった。部の方の出し物は、輪投げをやっている。3年だから当番はないけど、一度は顔出しておきたい。
「高瀬、いる?」
ちょうどその時、宮本が顔を出した。その顔を見て、どきりと心臓が高鳴った。