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「なんか、いつもと雰囲気違ったな」
拓巳の言葉に、宮本もうなずく。
「多分、あれが本当の彼女なのかもしれない。俺が去年見ていたのは、今の彼女の方が近いよ」
「そっか。がんばったってのは、本当らしいな」
「女は変わるもんだなあ」
「惜しいことしたと思っているか?」
「いや」
あっさりと言った宮本の視線の先には、幸子の後姿と、校舎からはしゃぎながら出てくるみちると莉奈がいた。二人が、幸子とすれ違う。
緊張しながら見ていると、幸子は小さく頭を下げ、何も話さずに校舎の中へ消えて行った。
「また、来てたの」
みちるの顔がくもった。そんなみちるの頭に、ぽんと宮本は手を置く。
「もう来ないってさ。謝りにきたんだ」
「ふーん。別にっ。いいけどっ」
「へー。いいんだ?」
宮本がその顔をのぞきこむと、頬を膨らませたままみちるがそれを睨み返した。
ダメと言えばやきもちを焼いているみたいだし、だからと言って気にしてないわけでもない。どっちとも言うことができずに無言のままのみちるに、宮本は笑いだす。
「ホントに、みちるって意地っ張りだなあ」
「悪かったわね」
「悪くないよ。……そんなところも、かわいい」
ぼわりと赤くなったみちるに、3人は笑う。
「二ノ宮は?」
笑い転げながら、拓巳が聞いた。控えめに笑いをおさめて、莉奈が答える。
「尾崎さんが迎えに来たわ。尾崎さん、昨日から由加里のこと気が気じゃないみたい」
「そっか。莉奈も帰るか? 疲れただろう」
朝から忙しく喫茶店をやっていて、もうかなり遅い時間だ。体の弱い莉奈は、笑顔ではいてもやはり疲れているようだった。
「ん……拓巳は? まだ、踊ってく?」
「ばか。一緒に帰るよ」
そう言うと、拓巳は莉奈の腰に手をまわして細い体を支えた。莉奈は、ほっとしたように拓巳に寄り添う。その姿があまりに自然で、宮本とみちるは、思わず二人に見とれてしまう。
「っつーこって、俺らも帰るわ。また明日な」
「おう。お疲れ」
「莉奈、疲れてるようなら明日は無理しないで。どうせ片付けだけだし」
「ありがとう、みちるちゃん」
二人に手を振って、莉奈は拓巳と校舎へ戻っていった。
「はー、絵になる二人だねー」
「だな。ま、俺らじゃああはいかないけど」
みちるが宮本に視線をむけた。その視線に気づいて、宮本は笑う。
「何? ああいうのがいいの?」
「ううん。じゃなくて……」
かすかに顔を赤らめて、みちるが視線をそらした。
「あの、私、ていうか、私たち、ほんとに……」
「おや? 俺の言葉、信じてないの?」
「ううん! 宮本の言葉は疑ってない。でも、なんか夢みたいで……現実味がないっていうか……」
そういうみちるの顔は、ぼおっとして熱に浮かされたような表情をしていた。
「ほほお。じゃあ、実感わかせちゃろか」
「どうやって?」
にやりと笑った宮本を見て、本能的にみちるは警戒する。
「わかせて、いい?」
「………………………………なんとなく、いや」
「ちぇー、残念」
口をとがらせた宮本に、みちるは吹き出す。ひとしきり笑うと、宮本の手を引いて中庭の中心へと向かう。
「あんたはまだ元気なんでしょ? ね、踊ろ。龍彦」
はっとして宮本は顔をあげる。向こうを向いたみちるの頬が、耳が、赤い。
それを見て、宮本は微笑んだ。
「いずれ、な」
「何? 何か言った?」
「いや、何も。よーし、踊るか!」
「うん!」
そうして二人は、にぎやかな人の輪の中に入っていった。
fin
こんな話です。
ちなみにこの時点で、みちるさんたちは莉奈の正体を知りません。というより、以前莉奈のいた時の記憶は消去されちゃってます。(←そんな記述が、そこかしこに)
どうでもいい設定ですが、陸上部で、拓巳とみちるは短距離、宮本君は走り高跳びを選択してました。どうでもいいですか、そうですか。
とりあえず、このお話はこれでおしまいでーす。ご拝読、ありがとうございました!