恋愛小説その1 ~出会いの極意~
「師匠! 師匠!」
いつものように、弟子の『タロウ』が俺のアパートにやってきた。そして、無断で部屋に入り、俺を眠りの世界から引きずり出した。
「なんだ! どうした? この野朗!?」
急に起された俺は、驚きと怒りを込めた言葉を発して、タロウを威嚇した。
「師匠に言われたとおり、恋愛小説を書き始めたのですが、全然上手く書けません! 僕はどうしたらいいですか?」
タロウはいつものように、顎を前に突き出しながら頭を下げてきた。どうやらこれはタロウの”癖”らしいのだが、非常に不快である。
「バカ野朗てめぇこの野朗! お前は何でも聞けばいいと思っているだろこの野朗! たまには自分で考えろこの野朗!」
タロウはバカだ。これ以上、タロウを説明する言葉はない。この一言が適当であり、『タロウ』=『バカ』なのだ。
「師匠、僕だって必死に考えたんです。ちゃんと主人公を考えました。ちゃんとヒロインも考えました。それなのに、それなのに、それなのに……」
タロウは「それなのに」と何度も言いながら頭を抱えていた。
「それなのに、どうしたって言うんだ? はやく言えこの野朗!」
我慢できなかったので、俺は急かすためにタロウの頭を小突いた。
「イタ! うぅ……それなのに…………いつまでたっても二人は出会わないんですぅ!!」
「はぁー……」
俺は思わずため息をついてしまった。こいつは、やはりバカだ。
「お願いです、師匠。助けてください! どうしたら二人は出会うんですか? ねえ! ねえ!」
タロウは泣きながら俺の足にすがり付いてきた。あぁ、うざい! めんどくさい! 気持ち悪い! そう思った俺は、はやくタロウを追い払うために「ゴホン!」と軽く咳をしてから、こう言った。
「いいか、タロウ。『出会い』とは、『事故』だ。恋とはけして日常からは生まれない。4㌧トラックとジャンボジェット機が正面衝突するくらいの大事故。それくらいのことが起きないと恋は始まらないんだ。だから、二人を出会わそうとするんじゃない。とりあえず、事故を起せ! そうすれば、必然的に恋が始まる!」
「わ、わ、わっかりましたーーーーーー!!!!!」
目を見開いて、バカみたいな大声でそう言うと、タロウは礼も言わず、アパートの扉も閉めず、走って部屋から出て行った。
「はぁー……マジ疲れるわ」
俺はタロウという邪魔者がいなくなったので、再び寝ることにした。