一世一代の紐なしバンジー
4階のマンションのベランダから身を投じる。
この世の全てに、ケリをつけるために…………。
心臓があり得ないほどに危険信号を発信する。足が震え、手が震える。柵を掴んでる手がなかなか離れない。そんな小さな命綱をも自ら外すと、高速で身体は落ちていく。
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うまくいかないことだらけだった。何をやっても中途半端だった。
ミュージシャンになりたかった。小さい頃から音楽が好きだったから。ギター一本買い、毎日毎日練習をした。
路上でライブをした。あくびが出るほど退屈なラブソングを死ぬ気で歌った。
金を落としてくれる人間はごく僅か。それも千円は稀で、小さな硬貨が10個ほど。
大きな一歩だと思っていた。その時点では。
だが次の曲が思い浮かばなかった。病んだような曲調の、サイケデリックな曲しか思い浮かばなかった。だがそれが自分のしたい音楽かと言われると、答えは否だった。
誰かを救う音楽が作りたかった。自分みたいな真っ当な人生を歩めていない人間でも、誰かを動かすことのできる音楽が作りたかった。
CDを路上で配っても、受け取る人間はごく僅か。聞いているかどうかすらわからない。
借金をしてでも夢を叶えるために精一杯働いた。だが自分は社会には適合できない人材だった。
何度言われてもミスの連続。身体が壊れた。壊れても働かなきゃいけないのでもっと壊れた。
それでも音楽とは向き合わなければならなかった。首が回らないのに、手が回らないのにベースを弾いた。
だが音が外れたメロディーしか響かなかった。
この瞬間、才能がない。そう確信した。
自分がずっとやりたかったことを、人生が壊れてでもやったはずだったのに、なんの成果も生むことができなかった。
じゃあ自分はなんのために生きてるのか?なんのために戦ったのか?わからなくなった。
わからなくなった。
今までの走馬灯が一気に蘇る。音楽に目を輝かせた幼少期。根暗で、同級生からいじめられた学生時代。使い物にならなかった会社員時代。それでも必死に足掻こうとしたフリーター時代。
良いことも、悪いこともあった。いや悪いことしかなかった。
希死念慮が最大値まで上がると同時、自分は終わりを選択していた。
高速で落ちていく。息もつかないほどに。
命なんて終わっても良い。そう思っていたのに。
なのに。
なのに……………。
コンクリートが身体にぶつかるその瞬間に私はこう思った。
「もうちょっと…………生きればよかったな」と