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義姉の様子がおかしい。


義姉の様子がおかしい。




俺の名前はたかなしひばり。漢字で書くと小鳥遊雲雀。鳥々しい名前だ。つい先日、母親の再婚でこうなった。特に気にはしていない。

ちなみに相手はアメリカの人で、金髪碧眼なのに小鳥遊。祖母が日本人だかららしい。気さくで温和なおじさんだ。母も幸せそうだ。

だからと言って年頃の男女二人、一つ屋根の下に放置して二人で世界旅行ってどうなんだろう。放任主義が過ぎる。


俺は今、ちょうど留学のためにアメリカからやってきたという、新しい家族、二つ年の離れた義姉と一緒に暮らしている。

ずっとアメリカに居たけれど日本語は堪能で、普通に日本人レベル。

何より可愛い。父親譲りの金髪、碧眼、だけど顔の作りはアジア人っぽい童顔で、小柄で、めちゃくちゃ、かわいい。


その義姉の様子が、ちょっとおかしい。


最近……まぁ一緒に暮らし始めたこと事態が最近のことなので、もしかしたら常習的になのかもしれないんだけど、気づくとなにやら虚空にむかってぶつぶつと独り言を喋っている。


「もうっ、だから明日は行かないっていってるじゃん!…光の戦士?知らないよそんなの。まだそんなのやるなんて言ってない…選ばれた、って…そんなこと言われても困るってば!」


なんだろう。そういう設定なんだろうか。


楓の和名だかベルギー名産の焼き菓子だか、ペットにつけるにはいささかキラキラしすぎたカタカナの名前を連呼しながら、今はなにやら怒っているようだ。

俺が同じキッチンでコーヒー淹れてること、見えてないんだろうか。ちなみにインスタント。


「んんっ」


わざとらしく咳払いとかしてみる。ベタだ。

でもこれ以上続けて、3年後、いや5年後とかかもしれないけど、将来的に積み重ねられた黒歴史の重さに身悶え苦しみのたうち回るのはきっと義姉さんだ。傷は浅い方がいい。


「あっ、ヒバリくん。……もう、これ以上話しかけないで!せっかくできた新しい家族に変におもわれちゃうでしょ」


ギンガムチェックのランチョンマットが敷かれただけのテーブルを睨む義姉さん。

そんな顔も可愛い。可愛いけどコワい。いったい何が見えてしまっているんだ。


「よし、切り替えきりかえっ」


パンッ、と白い頬を両手で軽く叩いてなにやら気合を入れる義姉さん。


なんかこう、ちょいちょいコッテコテの行動を取るんだよな。可愛いけど。もしかしてアメリカでの偏った日本語学習とかが原因なんだろうか。たまにいるらしいしな。アニメキャラの口調で喋っちゃう人。


「ヒバリくん、私部屋戻るね。……え、アイス?今日はもう食べたじゃん……約束?はぁ、もう。仕方ないなぁ」


さっきよりはいささか落とした声量で、こそこそ喋る義姉さん。うーん、こんな手狭なシステムキッチンじゃ丸聞こえなんだよな。


「……2本?」


そそくさと冷凍庫を物色し、義姉さんが手にしたチョコがけの棒アイスは二本。


「あー、へへっ、今日あっついからさ」

「……お腹壊さないようにね」

「ありがとっ」


何かを誤魔化すように笑ったあと、ウインクまでつけ足して去っていった。

いや、この、うん。可愛い。可愛いんだけど。


義姉の様子がおかしい。



義父さんからは、多少おっちょこちょいだけど優しくて明るい自慢の宝物だよと、欧米人特有のストレートな娘自慢と、だから君、わかっているよね?という間違いなんてあるわけがないよねという無言の圧力を頂戴しているだけで、特に困った癖や問題みたいな話は一切無かった。

いやわからん。母に向かっても僕の女神、とか平気で言えちゃうタイプの人だからあばたもえくぼと言うか、ひいき目が過ぎるきらいもある。


いや。きっとそういう年頃なんだろう。

親元から離れて、ちょっと羽目を外したくなったというか、自分を解放したくなったというか。

俺は気にしないことにした。




さすがに心配になってきたのは、怪我をしたり、服をボロボロにして帰ってくることが増えたあたりだった。


「だっ、大丈夫!?」

「あ、へーきへーき、ちょっと……あー。転んじゃってさ」


いやどう考えても爆発に巻き込まれたみたいな恰好をしているんですがそれは。

事故?テロ?

その割怪我はかすり傷程度らしく、義姉の尋常ならざる生命力に大変混乱をきたした。

どういう状況???


「もうお風呂入っちゃうね!パパには内緒にしておいて、お願い!」


可愛く小首を傾げてウインクをされてしまったら、それきり言及はできなかった。チョロい。

義父さんにも報告はできない。離れている今告げたところで、結局心配をかけるだけだと思ったからだ。

はからずしも、共犯みたいな立場になってしまった。



「理科の実験に失敗しちゃって」


「子供を助けようとして4トントラックとぶつかっちゃって」


「粉塵爆発に巻き込まれちゃって」


「送電塔の下敷きになっちゃって」


言い訳は日々だんだんと、トリッキーに、某名探偵映画か特撮ヒーローでしかあり得ないような状況説明になっていった。ちなみに今日は、巨大怪獣に踏みつぶされて、だった。そんな馬鹿な。


さすがにこれ以上は見て見ぬふりはできないと思い、同居生活初めての家族会議かと思った矢先、事件は怒った。


俺の学校が爆発した。


学校が、爆発?

信じられない状況ではあるが、さらに信じられないことに、そこに義姉がいた。

学校違うはずなのに。


義姉が、なんかよくわからない巨大怪獣と戦っていた。

義姉の言っていた事は本当だったのだ。


「はぁーー!!シャイニングプリズムクラーーッシュ!!」


戦っていた。それも肉弾戦で。

コスプレして、女児向け玩具のマジカルステッキでも振ったら様になりそうな掛け声は勇ましく、雄々しくふるうのはその拳である。

うわつよい。


しかし敵も一筋縄ではいかないらしく、鮮やかな右ストレートで地に沈むも、息も絶え絶えな様子の身体をカッと光らせ、なにやら形態変化した。

あ、第二形態ね。オタクの脳みそが瞬時に悟る。見てくれからして、この禍々しさならこれが最終フェーズだろう。

赤い目が煌々と光る、白黒のツートンカラー。理解る。これ絶対強い奴。


案の定、義姉さんが吹っ飛ばされた。


「義姉さん!!」


思わず俺は叫ぶ。


どういう原理かコスプレが消えて、いつも義姉さんが着ている紺のブレザーの制服姿になる。

トレードマークの大きな赤いリボンも、他校より多いプリーツが自慢だと言っていたスカートも、この長さが絶妙なのと拘りを持っていた靴下も、ぜんぶボロボロだ。


義姉さんがたまにボロボロで帰ってきてたのはそういう訳だったのか。今さら理解して目頭が熱くなった。


「ヒバリ、君?……ヒバリ君!!」


俺に気づいた義姉さんは、一瞬驚いた顔をしたものの、再び敵を見据えてぐっと立ち上がった。


「義弟の学校を、世界を、壊させるわけにはいかないっ!!」


眩い光が義姉さんを包む。さっきの怪獣の比なんかじゃない。

網膜を焼くような白い光が晴れた時には、さっきのコスプレよりも数段きらびやかになった姿の義姉さんが立っ……浮いていた。

そりゃそうだ。巨大怪獣を拳で沈めるくらいだ。宙にくらい浮くにきまっている。


綺麗だ。神々しいまでに美しかった。

キラキラ加工のURカードって感じだ。


「私の本気、食らいなさい!!」


義姉さんが空中でクッと踏み込む。

飛び上がり、拳を引く。

これまたカタカナの、舌を噛みそうな長い掛け声を器用に叫びながら怪獣に突っ込むと、渾身の一撃をお見舞いした。


怪獣は爆発四散した。


なんだろ、灰?雪?

きらきらと木っ端みじんに吹き飛んだ怪獣の名残が降り注ぐ中、義姉さんは俺に向かって振り向いた。


「ヒバリ君……ごめん。ごめんね。……私、全部思い出したんだ。……帰らなきゃ。戦士の、国に」

「へ?」

「あ、大丈夫。パパとママには私が直接夢枕に立って伝えておくから」

「はい?」


ちょっと理解が。日本語だよな。この期に及んで義姉さんが、何言ってるのかわからない。


無数に降り注ぎ、ふわふわしてただけの光の粒子が義姉さんの周りに収束する。


「短い間だけど、楽しかった。……ばいばい」


そのまま義姉さんは光に溶けて。


その日、義姉さんは居なくなった。


「義姉、さん……?義姉さーーんっ」


俺は叫んだ。

手元には、なぜか、押すと光りそうな電池式の玩具みたいな、セボンスターをいっぱい張り付けたみたいな丸い……コンパクト?って言うんだろうか、女性の小道具の名前には自身が無い……開閉式の物体が残されていた。



真夜中のテンションで書きました初投稿となります。

不束者ですがよろしくお願いします。


少しでも評価いただけましたら、5話完結でアップしてゆきたいと思います。

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