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23話 光の矢

作戦決行の日

レルゲン達は雲の上から潜行していた。


念には念を入れ、セレスティアの隠蔽魔術を全員分にかけ、超速度でヨルダルクの施設へ向かっていた。


まず向かうのは人形兵隊部隊が格納されている施設。この研究施設は岩壁に隠されるように作られており


大量の導線が確保されていることから、一度に多くの人形兵隊が出撃することが可能だろう。


ディシアは案内人として連れてきただけで、戦闘には参加しない。


レルゲンとディシアを除いた全員を岩陰に下ろし、動きがあるまでここで待機する作戦だ。


「みんな、なるべくすぐに戻る。それまで何とか持ち堪えてくれ」


全員が頷き、レルゲンとディシアだけがその場を後にする。


一時間程飛んだところでディシアがレルゲンを止める。


「こんな森のど真ん中にあるのか?」


「はい、丁度この地点に疫病兵器の研究施設があるはずです」


途中に改造昆虫の研究、もとい飼育施設があったらしいのだが、建物らしい建物が見当たらなかったため


上空からはわからないように対策しているのだろう。


「よし、なら俺達も作戦開始といこう」


こちらが用意できた光の矢は三本。

本来の光の矢は、矢の先端に魔力を臨界点まで溜め込んだ魔石を取り付け


衝撃により大爆発を起こすらしいが、今の王国の技術に魔力を臨界点まで高めた魔石を維持できる術はない。


そのため、レルゲンが用意した光の矢は巨大な鉄の塊を螺旋状に念動魔術で捻り回転させることで貫通力を上げ


地中深くに構えられたとしても衝撃で破壊するという


何十年に一度起きるとされている星の落下に近い攻撃方法だ。


レルゲンが雲の切れ目から着弾点を確認し、螺旋状に加工した光の矢を高速回転させる。


「ウルカ、頼んだ」


「分かったわ。ヨルダルクよ、これは抑止の一撃___心して受け止めなさい。テンペスト」


高速回転された螺旋の塊に、風の上位魔術を纏わせ、貫通力を更に上げる。


周囲の雲がゆっくりと渦を巻きつつ、レルゲンが用意した光の矢に吸い込まれてゆく。


レルゲンが右手を更に上空へ掲げ、勢いよく下すと、瞬間的に加速された光の矢が音速の壁を突破し


衝撃派と共に森の地面に着弾する。


何十メートルも地中を突き進み、地面との衝突で出来たクレーターは幅にして数キロに渡り周囲に広がってゆき


衝撃の余波を受けた範囲の森は丸ごと抉り取られていた。


これでは多少着弾位置にズレがあったとしても関係ないだろう。


「次は改造昆虫の施設だな。ディシア、また案内を頼む」


「え、えぇ…分かりました」


この淡々としているレルゲンの姿を見て、ディシアは心底王国側に身を預けて良かったと感じていた。


(やはりこのお方は身内に対しては甘い一面がありますが、敵と認定してからの容赦の無さは恐ろしいものがありますね…


そして、それに協力を惜しまない純精霊。


皮肉な事にヨルダルクが長年喉から手が出る程欲しかった人材に

長年の成果が一瞬にして奪われる光景は、私がしっかりと後世に伝えなければ)


ディシアはレルゲンという可能性の塊に、ヨルダルクの最新研究技術を与えたら今後本当に世界を支配することが現実になり得てしまうと考えた。


それこそ"世界の抑止力"が働いてしまう程に。


レルゲンがそれを望む性格とは思えないが、自身の持つ情報は極力教えないようにする必要があると


後の記録に記述として残されている。


レルゲン達は暫く飛び続け、今度は改造昆虫の施設に到着。ここも先ほどと同様に森に囲まれており


小さな昆虫の場合は一度解き放たれればもう一匹一匹追跡することは困難になる。


すぐに光の矢を高速回転させ、ウルカの力を借りて音速以上の速度で打ち込み


施設を周辺環境ごとクレーターを形成し、無に返す。


破壊し終わった後に、マリー達と連絡を取るために持ってきていた遠隔通信が可能な装置が光り、レルゲンに連絡が来ていることを知らせる。


「マリーだけど、こっちに動きがあったわ。大量の人形が施設から出てきて、進軍を始めてる」


「分かった。恐らく今疫病と昆虫施設を破壊したせいだろう。向こうもこっちと似たような通信装置を持っていても不思議じゃない。


予定通り足止めを頼む」


「分かったわ。また何かあれば通信するわね」


通信が切れ、ヨルダルク側も異変があった事を察知したことを確認する。


すぐにでも光の矢の発射位置に向かう必要がある。


「ウルカ、ディシア。先を急ごう。思ったより時間が無さそうだ」


二人とも頷き、全速の念動魔術で発射地点へ向かって行く。


発射地点はも抜けの空だった。

ということは、もう既に…


「発射済みか!意思決定の早い奴らめ!ディシア、魔力解放をして向かう!


君を抱いて飛ぶから追いつくまでは我慢してくれ。ウルカも俺の胸に入ってくれ」


「分かりました」


セレスティアを抱いた時のお姫様抱っこではなく、一本の線になるように身体を密着させて

少しでも空気抵抗を軽減する。


「頑張れ、レル君!」


全魔力、解放


赤いオーラが身を包み、瞬間的に速度が上げられて発射された光の矢を追いかける。


狙うのは間違いなく中央王国の王宮だろう。


ディシアがレルゲンに発射されてから数分で王国まで到着するのを伝えると


更にレルゲンが速度を上げて追いかけてゆく。


徐々に光の矢が発しているであろう轟音が聞こえてくる。


原理はよくわからないが、爆発を利用した推進力でとんでもない速度を出しているようだ。


目視すればレルゲンの勝ち、先に王国を焦土に変えればヨルダルクの狙い通りとなる。


白い一本の煙が見え、レルゲンが白い光の矢を目視する。


右手を伸ばし


「曲がれ!」


と一言叫ぶと、軌道を無理に変えようとしたためか、光の矢の先端がぐらつくのみでまだ完全に軌道を曲げるまでには至らない。


中央王国が見えてくる。


即座に魔力糸を直接伸ばし、繋がりを強固にする方法へ切り替える。


何百メートルも伸ばされた魔力糸が光の矢に接続され、レルゲンの魔力が大量に流し込まれ


ようやく速度を落としながら大回りの軌道を描きながら王国の上空で旋回する。


「間に合った…」


肩で息をするレルゲンを肌で感じるディシアの鼓動も、レルゲンに強く抱かれることで更に早鐘を打っていた。


「このままこいつを発射地点に持っていく。今度はそこまで早く飛ばないから離れてもらって大丈夫ですよ。ディシア様」


「すみません、余りの速さに腰が抜けてしまって…」


光の矢をヨルダルクに向けて持っていくために

反対側に進路を変えて飛んでいくが


暫くはディシアを抱えないと行けなさそうだ。


「こちらこそ余裕がなかったから気遣えずにすみませんでした。


落ち着くまでは抱えさせて頂きますので、安心して下さい」


「ありがとうございます」


発射地点まで戻り、ヨルダルクが発射した光の矢を無慈悲にも向かわせると


大爆発と共に赤い炎がレルゲンの瞳を照らしていた。


すると大爆発の音で発射音を隠すかのように二発目の光の矢が遠くの森から上空に進んでゆく。


「しつこい連中だな」


「そんな…!発射地点が他にもあったなど私は知りませんでした。本当です…!」


ディシアが泣きそうな目でレルゲンを見つめるが、レルゲンはディシアの頭を優しく撫でて、少し微笑みかける。


「分かってる。今までディシアが王国のために日夜頑張ってる姿はみんなが見ているし


俺も君を信じている。だからこれはイレギュラーだよ」


ディシアはレルゲンに捕まっている腕に力が入り、心の中でお礼を言うのだった。


「だからさっさとあれを元の場所に返してやろう」


再び魔力解放による追跡をし、魔力糸を直接繋げることで軌道を安定させ


元の位置に返してやる事でクレーターの数が増えるのだった。


三発目も警戒はしたが二発目の発射台で打ち止めのようで、マリーに光の矢を無効化した事を通信機で伝える。


するとマリー達も後退しながら足止めがうまくいっているようで


そのままレルゲン達が到着するまでは持ち堪えられそうということだ。


「わかった。そのまま無理せずに到着するまで待っていてくれ」


「分かった、で、なんでディシア様がレルゲンにくっついている訳?」


「イレギュラーが起きてディシアの腰が抜けてしまったんだ」


「そう…ところで「様」が抜けているけど、これは後で聞く必要がありそうね」


「忘れていただけだ」


「どうだか、とりあえず待っているから」


「あぁ、また後で」


通信が切れ、ディシアを見ると


「もう様は要りませんよ」


と先手を打たれてしまったレルゲンだった。

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