20話 ヨルダルクからの宣戦布告
深域ダンジョン、もとい朱雀攻略を女王に報告すると
大きくなったフェンを見て大きく驚いていたが、全員が無事に帰ってきたことに一番喜んでいた。
「伝承の朱雀に力を認められたのですね。そしてそれがその証と」
持って帰ってきたのは斬り落とした翼と爪。
空いた時に燃えないように常にレルゲンが浮かせておく必要がある程未だに熱を発しており、取り扱い注意の代物だ。
「強さで言うなら間違いなくこの前王国に進行してきたモンストルム・ファブリカより厄介でした。
とにかく防御力が高く、ウルカの魔力供給が無ければ勝てなかったかもしれません」
「純精霊様もお疲れ様でした。今後とも騎士レルゲンをよろしくお願いします」
「レル君は私の大切なパートナーだからね!任せて」
「さて、では皆さんが全員無事にお帰りになったところで、ヨルダルクから痺れを切らした書簡が到着しました」
女王がセレスティアにヨルダルクからの手紙を渡すと、順に読み上げた。
「親愛なる王国の皆様、これはヨルダルクからの正式な書類であることをまずは理解してほしい。
我々が貴国に要求するのは全部で三つ。
・国家反逆罪として指名手配中のディシア・オルテンシアの身柄を速やかに引き渡すこと。
・貴国に監禁している祖国の勇者、ショウコ・モガミの身柄を無条件で解放することと併せ、聖剣の返却。
・反逆者から知り得た国家安全機密情報の速やかな破棄、及びその者が口外しないための呪いの付与
どれか一つにでも応じないと判断した場合、いかなる手段を以ってしても
ヨルダルクの安全のための手段を厭わないことをここに宣言するものである」
これにはマリーが我慢ならないようで、小さく
「馬鹿げてる」
と溢すと、女王も同意のようでマリーを見て大きく頷き
「そうです。余りにも馬鹿げている。我が国家は新興国ですが
この要求には一つも応じるつもりはありません。
既に返しの書簡も出し、向こうの出方を待っています。
恐らく大人しくこちらが条件を呑むとは微塵も思っていないでしょう。
そのための侵攻準備も既に開始されているはずです。
この国は武力で勝ち取ったところから始まりましたが、今はあなた達が頼り。
開戦猶予は分かりませんが、いずれにしてもそう残された時間はありません。
この侵攻を防ぎ、国民と領土を死守しなければ、他の国からも将来的に搾取され続けることには変わりないでしょう。
若いうちから沢山の修羅場を潜り成長してきた姿を、王国民に示して下さい」
集まった全員の表情は暗くなるどころか、逆に国を護るためにやる気に満ちている。
召子は戦争とは縁遠い国にいたが、いざ戦うとなるとかつて自分を召喚した時に助言をしてくれた
仮面の男性のみが気になっていた。
責任を取らされて処刑されていないかなど、不安なことが多いが出来れば助けて上げたい。
そして自分に、聖剣にかけられていた呪いを身を挺して破ってくれたレルゲン達に恩返しがしたい。
召子にあるのは国を護るなんて大それたことではなく、恩返しの為に戦う気持ちが強くあった。
レルゲンがディシアを呼ぶ。
「ディシア」
瞳を一度閉じてから開き、杖を前について宣言する。
「はい、私が知り得るヨルダルクの情報を全て開示すると約束します」
女王が大きく頷き、至急対策本部の設立を宣言。王国民にはまだ戦争になる事は伏せた状態で、王国は水面下で動くこととなった。
レルゲンは朱雀の翼と爪を持って、ドライドの工房へ訪れていた。
「ドライド、いるか?」
「おう旦那!元気にやっているようだな。武器の発注かい?」
「ああ、こいつで俺専用の武器と、フェンという狼専用の装飾品を作ってもらいたい。これは伝承にある朱雀の翼と爪だ」
「す、朱雀だとぉ!?!?本物か?」
ドライドが素材の種類に驚いて椅子から転げ落ちる。レルゲンが頷き。
「深域に発生したダンジョンに潜ったら朱雀と遭遇したんだが、女王から聞いている内密な話があるだろう?それ用の武器が至急必要になった」
「聞いてるぜ。見たところ難しい素材だが、ここまで元の強度があれば強い加工にも耐えられるはずだ。
一週間で作ってみせるぜ。また片手直剣でいいか?」
「ああ。早いな、助かるよ」
「それで、狼ってのは新しい仲間かい?」
「そうだ」
「分かった。そっちも一週間と掛からずに仕上げてみせるぜ。髪飾りでどうだ?」
「種類は任せる。効果は素材を活かしたものならなんでも大丈夫だ」
「おう、期待して待っててくれ!最高の仕上がりで届けてみせるぜ」
拳と拳を突き合わせてお互いにニッと笑い合い、これで武具の発注はクリア。
残るはディシアからヨルダルクの武装について聞きに行かなければならない。
最近は行き着く暇が召子の修行期間くらいだったもので、ヨルダルクとの一件が終わったら
少し、いや一週間ほど休みを貰いたいという淡い期待を抱くレルゲンだった。