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19話 朱雀攻防戦 後編

フェンがレルゲンを見る。


間違いなく致命的な一撃となり得たはずの大爆発攻撃を受けても無傷でいられたのはレルゲンによるものだと理解していた。


(私も役に立たなくちゃ…!)


最高の一撃を防いだことによってできた朱雀の隙。

その空いた隙に召子はフェンと共に駆け出していた。


一人で突っ込んだ召子をフォローするべく、レルゲンがマリーとセレスティアを見て、二人共頷く。


しかし朱雀は体制を立て直し、余裕をもって召子とフェンを向かい打った。


口元に青い炎が集約してゆき、ブレス攻撃が容易に召子の勢いを止めた。


(熱い…!これじゃ、近づけない!)


追いついたレルゲンが召子の肩に手を置き一言声をかける。


「焦るな、また俺達が隙を作る。その時に全力を出せるように準備していてくれ」


召子が力強く頷き


「分かりました!」


前に出過ぎた召子とフェンがまた位置へ戻ってゆく。

セレスティアが時間経過によるバフをかけ直しを行い、最初の陣形に戻る。


王国から空中に帯同させていた五本の剣に魔力を全開で流し


ウィンドカットを全ての剣に付与して切断力を上げてゆく。


「回れ」


命令された剣が全て高速回転を初めて、レルゲンの周りを浮遊している。


切断力が極限まで強化された一本一本が必殺の一撃を


同時に朱雀へ向けてあらゆる方向から向かわせて軌道の予測を難しくする徹底ぶり。


朱雀は翼で全身を防御するべく丸くなったが、直撃した翼から鮮血が少し出ており

ダメージとして成立していた。


何度も軌道を変えて朱雀に防御の姿勢を取らせ続けているのを見て、召子の目は輝いていた。


(凄い…!これがレルゲンさんの応用魔術!)


よく見ると薄い糸のようなもので剣を操っているレルゲンを見て


接続を強化する狙いがあるのかと思ったが、レルゲンは既に魔力糸無しでの操作が可能になっている。


召子は分からなかったが、マリーとセレスティアは余計な工程をなぜ敢えて入れているのか考え


レルゲンなりに何か狙いがあると瞬時に理解して、すぐに追撃が出来るように構えを取り直した。


一歩、また一歩と歩いて近づいてゆくレルゲンを見て、朱雀は翼での防御を止めて羽ばたき


五本全ての剣を地面に叩き落とした。


魔力糸で尚も繋がっている剣に向かって、レルゲンが命令を入れる。


「綴雷電」


魔力糸から全ての剣に向かって最大出力の電撃が流し込まれ


周りに叩き落とした剣が激しくスパークし朱雀を襲い、動きを止めた。


「みんな!今だ!全力攻撃!」


全員が持ちうる最高の攻撃を仕掛けるべく、即座に駆け出す。


召子とマリーは聖剣の力と神剣に魔力を流し込んだ一撃で朱雀を同時に斬りつけ


セレスティアはマルチ・フロストジャベリンを一気に四十本近く出現させて


朱雀に向けて一斉に発射され、突き刺さってゆく。


この初めての連携攻撃で朱雀が魔物の声を上げて初めて痛みを表現したが、すぐに目に力が宿ってゆき


「思い上がるなよ、人間が!」


あまりの音圧に、前衛で剣を振るっていた二人が後ろに跳んで距離を取る。


朱雀の全身の筋肉が力強く鳴動し、一瞬で加速して召子目掛けて羽ばたき低空飛行で突進してゆく。


あまりの速さに召子は動けず、死を覚悟した瞬間、間に割った入ったのはフェンだった。


身を挺してまで主人を護ろうとする動きに、召子は昔飼っていた犬を思い出す。


「駄目だよフェン君!君が死んじゃう!」


召子の悲痛な叫びは届かず、フェンに突進が迫る。


だが、念動魔術による移動補助で更にフェンと朱雀の間にレルゲンが割って入った。


レルゲンは一言召子に向かって


「いい従者を持ったな」


とだけ声をかけて、腰を静かに落とす。


全魔力、解放。


どしんと上から巨大な海が落ちてきたかのような濃密な圧力が辺りを包み込み


朱雀が一瞬目を開いて驚いたが、それでも速度は殺さずにレルゲンへ突っ込んでゆく。


レルゲンは全力で足腰と腕、黒龍の剣と白銀の剣に魔力を流し込み、剣をクロスさせて防御の体制を取る。


凄まじい衝撃と共にレルゲンが朱雀にジリジリと押されてゆくが


ここで召子のプロパティ画面が自動で開き、フェンのレベルアップボーナス画面が表示された。


後で分かった事だが、この時フェンのレベルが丁度100に到達していたようだ。


ありとあらゆる上昇パラメータの中に、一つだけ、光が強く輝いている文字があった。


〈進化〉だ。


迷わず進化を選択して「はい」を押すと、すぐにフェンの進化が始まったのか、フェンを白い光が包んでゆく。


光が収まると同時に可愛かった面影を若干残しながらも


身体は大きく成長して約二メートル程の高さまで大きくなり、狼に相応しい姿へと進化していた。


大きく遠吠えをして、召子を一度フェンが見る。

進化の光によって朱雀は突進を止め、再び両者に距離が出来た。


この短い均衡を破ったのはフェンだった。


素早い身のこなしですぐに朱雀との距離を潰し、長い爪で朱雀に切り付け、鋭い牙で翼に噛みついたりと、俊敏性で朱雀を単体で押していた。


レルゲン達も加勢しようと一度構え直したが、今下手に突っ込むとフェンの勢いを殺しかねないと判断して、動向を見守ることに。


(頑張って!フェン君!)


召子の思いが届いたのか、一層速度を上げたフェンの動きについていけない朱雀は


痛みにより翼で身体を覆い防御する体制を取るが、フェンの勢いは止まらない。


しかし、フェンを見ていると自分で決めるというよりも、味方の時間を作っているような動きにレルゲンは見えていた。


予感は確信へと変わる。

フェンからの視線がレルゲンと衝突したからだ。


「ウルカ!魔力を貸してくれ!」


「分かった!レル君、頑張って!」


ウルカの魔力がレルゲンへと流れていき、


第二段階、全魔力解放


青い炎のような魔力が噴き上がり、全て黒龍の剣に込められてゆくと


刀身が碧く伸びようとするがこれをレルゲンの念動魔術で刀身のみの大きさに圧縮し


剣自体が脈打つような、今までには無かった力の流れを感じ取ることが出来ていた。


レルゲンが空中へ念動魔術で飛び出し、フェンを呼ぶ


「フェン、いいぞ!!」


即座にレルゲンの意図を汲み取ってかフェンがその場を離れる。


「オオオオオオォォォォォォ!!!!」


渾身の気合いと共に上空から繰り出された縦への一線攻撃は、朱雀の片翼を根本から斬り落とし


傷口からは鮮血が溢れ出ていた。


しかし、溢れ出ていた鮮血も徐々に治まり、そして止まる。


新しい翼が生えてくることはなかったが、朱雀は初めてレルゲンに向けて対話を持ちかけてきた。


「見事な剣だった。レルゲン・シュトーゲン、そして"勇者達"よ。


斬り落とした翼は好きに使うが良い。我の加護を存分に活かし、今後も励むと良い」


「分かった。翼はもらっていく。あんたはこれからどうするんだ?」


レルゲンが朱雀に問うと、朱雀は素直に答えてくれた。


「他の挑戦者が現れるまではまたここで傷を回復させることに専念することになる。

其方が気にすることではないぞ」


「そうか、では俺達はこれで失礼する。ありがとう」


瞬きし、何に対しての礼なのか分からなかった朱雀だが最後にレルゲンをもう一度呼び止め


ずっと使っていた技の名前を尋ねた。


「念動魔術」


「念か、フハハハ。そうかなるほどな。見事な術だ」


そう言って朱雀は玉座に戻って行き、回復する為に再度の眠りについてしまった。


「俺達もここから出よう。朱雀は何も言わなかったし、きっと出口のはずだ」


全員で転移魔法陣に乗ると、そこは王国の転移魔法陣と繋がっていた。


それに驚いたカノンとディシアは


「随分早いお戻りだね。もう攻略してきたのかい?」


「フェン君が大きくなっているのもそうですが、その翼の圧倒的な存在感。


私はそちらが気になります。是非冒険のお話を聞かせてください」


二人ともレルゲン達が生死をかけた戦いをしてきたとはつゆ知らず、目を輝かせるのだった。

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