16話 レベルアップボーナス
難色を示す女王にどうやって納得させるかがレルゲン達の課題となっていた。
しかし、中々案が出てこない。
セレスティアが『やはり…』と前置きし
『私たちのレベルを女王陛下に伝えて、深域の魔物達に打ち勝つ力量があることを示す他はないのでしょうか?』
『確かに先日倒したロンリー・コングとのレベル差を伝えれば可能性はありそうだな』
レルゲンも賛成はするが、今回は何か違う理由があるような気がしており、そこが引っかかっていた。
するとマリーが他の案を出してくる。
『やっぱりお母様は私達王女よりも、むしろ召子を気にしているんじゃないかしら?
とするなら、召子のレベルが最低でも100に上がるまではダンジョン攻略は難しそうだから、
水神様に召子の手ほどきをお願いするっていうのはどうかしら?
ほら、水神様って六段階目の中でも上の方の強さだし』
『水神様と模擬戦闘か!それは良さそうだな、召子には今一番足りないのは魔物との戦闘経験だから
ダンジョンで新しい強力な魔物と戦うなら、水神様のお墨付きをもらえれば女王様も納得するかもだ』
『水神様ってどれくらい強いのですか?』
召子が不安そうにレルゲンに聞くと、マリーやセレスティアも気になるようで、レルゲンに目線で説明を求める。
『そうだな。俺との戦闘相性が良かったから何とも言えないが、マリーの言った通り戦った感じはかなり強い部類だと思う。
まず雷攻撃がなぜか聞かなかったしな。水なのに感電しない特徴がある』
『不思議な龍ですね。そもそも龍と戦ったことが無いので全て不思議な出来事には変わりないんですけど』
『あまりこちらから事前に情報を伝えすぎて先入観を持って戦闘に入らないようにこれ以上は教えられないけど
召子のレベルでも聖剣の力を上手く引き出すことができれば、勝負にはなるはずだと思う』
『ありましたね。格好の訓練場が』
『全然頭になかったな。さすがマリーだ』
そういうとマリーがちょっと得意げに鼻で笑うのだった。
四人でまとめた案を女王に伝えると、にっこりと笑い
『それは名案です。水神様にも何かお礼を考えなくてはなりませんね。
マリー、何か水神様に贈り物の希望がないか訪ねてきてください』
『わかりました。お母様』
『召子様もお気をつけて。回復役としてセレスティアを貴女に付けます。存分に励んでください』
『ありがとうございます。女王陛下。セレスティア様、よろしくお願いします』
『はい、怪我をしたときは私が癒しますので、恐れずに立ち向かってください』
召子が頷くと、再びの深域に出発する一行であった。
水神様に事情を説明すると、召子を見て
『鍛える分には構わんが、そう弱くは見えんぞ?
その武器の性能もそうだが、お主自身の纏っている魔力以外の何かを感じる』
『私、もっと強くなってそれで元の世界に帰りたいんです』
『そうか、目標があることは良い。
久しぶりの運動だ。うっかり死なないように注意するのだな_さぁ剣を構えよ。行くぞ』
召子が〈飛翔〉によって空中に静かに浮かび、水龍の頭の高さと同じところまで上昇し
勝負、もとい稽古が始まった。
レルゲンが召子の位置が見えるところにある木陰に腰を下ろし、マリー、セレスティアもそれに倣う。
マリーがレルゲンに優しく問いかける。
『心配?』
『少しな。いくら水龍が手加減しているとはいえ相手は六段階目、五段階目とは強さの格が違うからな』
今回はセレスティアだけ神杖を持参し、他のレルゲンとマリーに至っては非武装でこの深域に来ている。
『大丈夫ですよ。どんな大怪我だって私が治してみせますから』
『心強いよ。頼んだセレス。そういえば、お前は一緒に戦わないんだな。フェン君』
マリーの膝に乗っているフェン君にレルゲンが手を伸ばして撫でようとすると
再び牙を剥いて威嚇する仕草を取るので手を引っ込める。
(これはずっと嫌われるパターンかな)
とレルゲンは密かにフェン君との和解を諦めるのだった。
それから丸一日かけて水龍との修行を終了するとレベルは10上昇して70になり
横で戦いを見ていただけのフェン君も65までレベルが上昇していた。
レルゲン達とは根本的にレベル差があるため定かではないが
召子の戦闘経験値は今回はレルゲン達には入らず、フェン君のみと分け合っている印象を受けた。
それからというもの、召子の特訓は数日間続いてゆき、ついにレベル100を達成するのだった。
動きに関しても少しずつキレが増してきており、
途中から水龍は手加減をやめて普通に戦っているようにレルゲンには見えていた。
フェン君のレベルは95まで上昇し、あと一歩で節目というところだ。
ここで召子のプロパティ画面に見たことのない文言が記載されていた。
「レベルアップボーナスを選択してください」
ボーナスには攻撃力、俊敏性、体力、持久力、防御力など上げ始めたら限がないほど項目がある。
選択肢が多すぎて逆に選択できないという珍事が発生していた。
『レルゲンさん。これ、どうしましょう?』
『俺もこういうのは経験ないから何とも言えないけど、やっぱり最後は召子が一番納得した形がいいんじゃないか?』
『そうですよね、私もこういったテレビゲームのような経験はないので、どれを選べばいいのやら…』
レルゲン達はテレビという単語に聞き覚えが無かったため察することしかできなかったが
それでも何とか力になれないか考えを巡らせる。
レルゲンが召子に分からないながらも選択肢を提示する。
『魔王のレベルにもよるとは思うけど、まだ初めてのボーナスだし何かスキルを強化してみるのはどうだろうか?』
『スキルですか__そうすると〈能力上昇率UP〉が無難でしょうか』
『そうだな、俺も今後絶対に腐らないスキルを選ぶとなるとそれになる。
しかしいいのか?消費ポイントは今あるほぼ全てを使うことになるぞ』
『いいんです。私だけだと全く決まる気配がありませんから。えい!』
ボタンを押してボーナスポイントがほぼ全て消費され、〈能力上昇率UP 中〉に変化していることが確認できた。
『アドバイスありがとうございました』
『最終的に納得できたのなら俺もよかった』
レベルアップによるボーナスがあることに気づいた召子は
次は150か200レベルかなとまた一つレベルを上げる楽しさをしることができた。