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9話 ハクロウの過去との関係

「事情は承知いたしました。しかしショウコ・モガミ様の騎士団入りは一旦保留に致します。


一度ほとぼりが冷めるまで騎士見習いとして生活し、地道に周囲からの信頼を勝ち取って下さい。


騎士見習い専用の学び舎もありますが、どうされますか?」


召子は一度自分で今後の身の振り方をどうするのか考え直す必要があった。


もちろんもうヨルダルクとは手を切るつもりなのは変わらず


王国へ正式に加入することには変わらない決意があったが、魔王の件もある。


ただ無意に時間を浪費する訳にもいかない。

だが、どうするべきかもまだよくわかっていないながらも、また学校に通うことは少々憚られた。


「いえ、学び舎で勉学を積むよりも実際に騎士団の皆さんにお世話になり励んで行こうと思います」


「分かりました。ではまずは騎士団の雑用から始めてまいりましょう。騎士団長ハクロウ」


突然話を振られたハクロウが、態度には出さないが驚き、女王を見つめる。


「はっ」


「新しい左腕の調子はどうですか?」


「正直な話、まだ調整中です。方式なんかは変わりませんが、まだ操作する時の魔力糸に若干の誤差を感じております」


「分かりました。では、当面の間はショウコ・モガミ様のお目付け役にハクロウが就き


腕の感触を確かめる期間に致しましょう。諸々の教育は貴方に一任致します」


「承知致しました」


普段ならこういった公務は嫌がるのがハクロウだったのだが、考えを改めたのだろうか。


最近平和が帰ってきたことで、レルゲンはハクロウの昼寝を起こす係と化していたので、


このお目付け役任務はハクロウのいいお灸になるかとレルゲンは思ったのだが、


思いの外本人はやる気のようなのであまり気にしないことにした。


女王からの新たな任務を言い渡された召子は、ハクロウが騎士令を取っているのを真似すると、女王は表情が少し緩くなっていた。


それからと言うもの召子はハクロウについて色々と周り、この国の常識や騎士団のしきたりについて徐々に知ってゆく。


「ハクロウ師匠!次は何を教えてくれるのですか?」


「そうだなぁ、今日は技や体捌きじゃ無く、心について教えて行こうか」


「心、ですか?」


何やらあまり楽しく無さそうな雰囲気…と言うのが顔に出ていたのか、ハクロウが急に真剣な表情になり自身の刀に手をかける。


(え、私斬られる?)


召子が額に汗を滲ませた所で、ハクロウが刀から手を離し、ニッと笑って見せる。


「今のが心だ。相手を斬る、倒す覚悟___と言い換えてもいい。

言葉で言うよりよっぽど分かりやすかっただろう?」


「はい…とっても…ただ心臓に悪いので実演はこれっきりにして下さい…」


「何言ってんだ。お前さんはこれからもっと大きなモノを護り、導いていくんだ。いずれ修羅場に多かれ少なかれ必ずぶつかる。


そこで奮起出来るか出来ないかで、きっとその剣の性能も大きく変わってくると思うぜ」


「全ては私の気持ち次第だってことですよね」


「そうだ。ここ最近はずっとお前さんと一緒にいたから何となくはわかるが


いざって時に動ける心さえ成長出来れば、後は身体が勝手に動いてくれる土台はあると思う。


俺が片腕を失った時もそんな時だったな」


どこか遠くを見つめるハクロウは、ついこの前の出来事を遠い昔に経験した様な眼差しで、召子に語りかけていた。


爽やかな風が二人を包み、中庭の草原が波となって静かに押し寄せてくる。


「老人の昔話を聞いてくれるか?」


「ええ、是非」


ハクロウが昔、初めて剣技を極めようと決心したのは約五十年程前まで遡る。


まだ盗賊の頃、ハクロウは日夜野盗行為を繰り返し、日々の生活を送っていた。


誰よりも力を持っていると確信していた、今考えれば若気の至りだっただろう。


いつも通りその日暮らしの為に目をつけたのが一人の「侍」だった。


こんな夜更けに一人、長い刀を携えて歩いている様は完全に無防備状態。


偶に居るカモだった。早速後をつけているとある何も無い曲がり角で姿が一度見えなくなり、走って追いかけると既にカモの姿はない。


諦めて戻ろうと振り返った瞬間何かにぶつかり

青年だったハクロウが後ろへ転ぶ。


「いってぇ」


大きく尻もちをついて鼻を抑えていると


「おっとぉ、こんな夜更けに済まないねぇ、ボウズ」


「前見て歩け!ボケ」


「しかし、野盗行為は見過ごせないねぇ…いつもこの通りで野盗に遭うって噂になっているぞ」


「衛兵の類か…ついてねぇな」


ゆっくりと青年のハクロウが剣を抜くと


「やる気かい?優しいねぇ、食後の運動に付き合ってくれるとは」


「抜かせ!」


力任せに振るわれた剣は侍を捉える事なく、綺麗に何度も交わされていき


侍はまだ素手で剣をいなし続けている。


(完全に子供扱いか!)


「どうする?そろそろやめとくかい」


「ふざけるな!」


夜道の暗がりの中に一つの白い輝きを持った青年が一人。

それを見た侍は、面白い物を見たような表情になり「おぉ?」


とだけ溢し、やれやれといった表情と共に三尺はあるだろう長い一本の刀を鞘から抜いてゆく。


魔力を乗せられた武器に対して、侍が何かを呟く。瞬間、青年のハクロウが持っていた剣が粉々に打ち砕かれていた。


「これに懲りたらもう野盗は辞めることだな」


手をひらひらと振ってその場を後にしようとする侍。

居ても立っても居られなかったハクロウは


「待て!さっきの剣、どうやった。何でそんな馬鹿でかい刀が"複数に見えた"」


その場を後にしかけた侍の歩が止まり

こちらをゆっくりと振り返る。


「かなり加減はしたが、この暗がりの中でよくぞ我が秘剣の一端を見抜いた。


どうだボウズ。野盗など辞めて我が門下生にならんか?」


急な誘いにハクロウは一番重要なことを確認する。


「飯は食えるのか?」


侍が少し笑い


「約束しよう」


と答えた。


「なら入る。俺は飯が食えれば何でもいい」


「そうか。ではこれからはボウズもコジロウ・ササキの門下生よ。


まずは飯だな___道場にまだあまりがあるはずだ。好きに食うといい」



「あまり周りには話しちゃいないが、これが剣を極めるきっかけになったことだな。


どうやって魔力無しの状態で剣を折られたのかは未だにわからねぇが、あの時は衝撃的だった」


昔を懐かしみながら語っていたハクロウに真実を告げようと召子が口を開く。


「それは、その剣の先生はきっと、私と同じ様に世界を渡ったのだと思います」


「なぜそれがお前さんにわかる?」


「"知っている"のです。私はその剣士を」


今まで過去に何度かこうして異世界人の召喚は行われており


召喚される時代は違えど、間違いなく日本に剣豪として名を馳せている佐々木小次郎であると。


掻い摘んで自分の知っている佐々木小次郎を伝えると、ハクロウも思い当たる節が無いわけでもないようで、「可能性はある…」


と半ば認めていた。

そこから更に召子が〈スキル〉という情報を開示した事で、ハクロウが小さく頷いていた。


「そんな素振りが無かったわけじゃないが、そうか。あの先生が異世界人とはねぇ…長生きはしてみるものだな」


それから先も陽が暮れるまでハクロウと召子の知っている佐々木小次郎を語り合い、驚きあっていたのだった。

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