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8話 精霊の加護

レルゲンが召子に向かって空間固定の念動魔術で動きを封じる。


しかし、念動魔術がかかってからというものの、どこかすり抜けるようにその場を移動してしまう。


固定できるのはほんの数秒だ。

それだけ分かれば十分とばかりにレルゲンが召子に突っ込んで行き、


聖剣の動きを完全に封じるべく黒龍の剣に魔力を込めてゆく。


黒い刀身が漆黒の輝きを放ち召子へ斬り込まれると


聖剣がある一定の角度を自動で決めているかの如く正確な角度で受け切り、


レルゲンが連続で斬り込むことで体制を崩すことが出来ないか試してゆく。


斬り込まれている召子は重心を一切変えずに、手だけで聖剣を扱ってレルゲンの連続攻撃をいなし続け、隙を見せない立ち回りを基本としているようだ。


(その細腕でよく重心がブレずに剣を振れるな…これが〈勇者〉のスキルか…いや、聖剣の性能か?)


考えながらも連続攻撃は止めず、苦手としている箇所がないか探ってゆく。


しかし、中庭の平原の地形がレルゲン達の攻防で大きな斬り跡が残るのみで進展はない。


(なら、足場の変化にはどう対応する?)


レルゲンが一度高く飛び上がり、すかさず召子の立っている地面を念動魔術で隆起させると


急激な上昇負荷に耐えるべく聖剣を持ちながら体制を低くする。


やはり通常の打ち合いでは埒が明かないと考えたのは正解だった。


様々な反応を見なければ、きっと召子の足止めにすらならないだろう。


瞬間的な隆起が止まり、召子が空中へ投げ出される。


この隙を更に大きいものにするために漆黒の一撃を光線とした攻撃を繰り出し、召子を飲み込んでゆく。


手加減された一撃を召子が、否…聖剣が確認すると


「被害甚大、スキル〈飛翔〉を獲得。実行します」


と新しく手に入れた〈スキル〉でその場を凌ぐ為に高度を上げて光線攻撃を躱したが、光線とは即ち、核撃と大きく似ている。


つまり攻撃後の軌道を変えることであれ可能なはず。


「曲がれ」


放たれた漆黒の光線は地面に当たる寸前に軌道を反転させ、召子の下へと再度迫ってゆく。


当たるまで永遠と追いかけ続けられる、不可避の一撃が完成したが


何度も躱される事はなく聖剣を持つ召子を飲み込んでゆく。


一度躱した攻撃が再度襲ってくるとは予期していなかったようで


一瞬驚いたような顔をする召子の変化をレルゲンは見逃さなかった。


(やはりショウコと聖剣は繋がっている…!)


爆風に包まれた召子に追撃するこの好機を逃せない。


「マリー!」


「任せて!」


魔力感知で正確な位置を捉えたマリーが、爆風の中に入ってゆき、正確に捉えられた神剣による絶対切断は容易に聖剣と召子との繋がりを断ち切った。


繋がりが絶たれた瞬間を肌で感じたレルゲンは、謎の声の主に再度語りかける。


(言われた通り繋がりが絶たれたぞ)


(分かってるよ。君の感覚は私にも共有されているからね。後は任せて)


声の主が遠ざかると、レルゲンの胸が光り始めて一つの球が飛び出してくる。


それを不思議そうに眺めていると、レルゲンの周りを軽く飛んでから召子の下へと飛んで行き、光の球が聖剣に触れると、黒い魔力が小さくなってくる。


(少し魔力が足りないから君のを借りるね。"いつも貸してあげてる"んだからいいよね?)


返事する前に魔力が魔力糸で受け渡しをしているかのようにかなりの速度で魔力が何処かへ流れてゆくような感覚。


レルゲンの魔力が三割程消費したところで魔力の消費が止まると


聖剣から流れ出ていた黒い魔力も止まり、虚ろな表情だった召子の瞳に光が戻る。


空中に止まっている事に気づいた召子は


「あれ?ここどこ?なんで私浮いてるの!?」


と若干パニックになっており、〈飛翔〉スキルの効果維持ができなくなった召子が落ちかける瞬間に


レルゲンが念動魔術で召子を支え、再度空中で静止させる。

安定した召子は


「わっ、わっ、あ、ありがとうございます。出来ればそのまま降ろして頂けると」


ゆっくりと地面に降ろされた召子は、辺りの中庭の変わり様に驚きながらも


「あの、何があったんでしょうか?」


掻い摘んでマリーが召子に説明すると、深々と頭を下げて謝罪する。


「大変なご迷惑をかけてしまいすみませんでした」


しかし、召子に助け舟を出したのは暗殺対象だったディシアだった。


「先程は間違いなくヨルダルク側が聖剣に細工したものだと思われます。貴女は特に気にする必要はありませんよ」


「そうですか…あの、貴女は?」


「私は元・ヨルダルクの最高意思決定機関のうちの一人、貴女の暗殺対象だったディシア・オルテンシアと申します」


「貴女がヨルダルクから命を狙われていた方だったんですね」


「ええ、ですが聖剣が強制執行したと言う事は貴女が自らの意志で命令に背いたことと同義です。寧ろ感謝したいくらいですよ」


なぜ暗殺されそうになった人が感謝しているのか分からないといった表情を浮かべる召子だが、ディシアは杖を前につき、最上の礼を持って返していた。


召子はただ、絵になるなぁと思ってディシアの礼を眺めていた。


一通り待っていたのか、レルゲンの中から出てきた光の球、もとい声の主がレルゲンの周りを周り始め


そろそろいいかい?


と主張する様に周囲を周り、またレルゲンの中へ戻ってゆく。


レルゲンが心の中で説明を求めると


(思ったより魔力を使ったからまた今度説明するね。おやすみー)


と一方的に眠る旨を伝えられて、それ以降本当に声が届いている印象が無かった。


周りの面々から今の何?という視線をぶつけられたが、一人だけ、ディシアだけは心当たりがあるようで


「これはあくまでも予想ですが、騎士レルゲンの中には精霊がいるものだと思われます。


当てはめるなら「精霊の加護」でしょう。

加護の中でも最上位に分類されており、私もこの目で見るのは初めてです」


レルゲンが初めて精霊の意思を感じたのはアシュラ・ハガマと対峙した時に光線攻撃を弾く為に感じた


もっと前へ、上へ進んでいけという

どこからか感じた後押し。


ディシアが「なるほど」と溢し、周りに分かりやすく説明する。


「レルゲンの異常なまでの魔力量の秘密は、精霊の加護によるものも多く含んでいるでしょう。


そもそも、全魔力解放の二段階目なんて本来あり得ないのです。


何かしらの誓約を結んでいるか、寿命を縮めているか、またはそれに類する何かだとは思っていましたが、まさか精霊の加護だとは。


ここでセレスティアが現場に到着し、寿命の減少を理由に力を得ていると早とちりしていた。


「寿命を縮めて力を奮っているとはどういうことですか?レルゲン?」


「いや、誤解だよ。俺の中にいた精霊?が力をずっと貸してくれていたみたいだ」


「そうですか」


ふぅ、胸を撫で下ろすセレスティアを見たディシアが、再びレルゲンに尋ねる。


「騎士レルゲン」


「なんでしょう?」


「どういった契約の下で精霊と契約しているかは分かりますか?」


「契約とかは特に何もしていませんね」


「え……あっ、いえすみません。まさか正式な契約をしていないのにあれだけ絶大な力を使っていたとは。


何かしら振り戻しが来てもおかしくは無いのですが、特に語りかけられてはいないのですか?」


「さっき聖剣の暴走を止めるときに、魔力が足りないから君のを貰うねと


後はいつも貸しているから構わないよね?と言われましたよ」


「無意識でも何でもなくただ無償で力を貸し出されていたとは…その精霊は、自身の名は名乗っていましたか?」


「いえ、眠くなったから寝ると。ただ、細かい説明は後でしてくれるとも言ってたので、魔力が戻ったらまた現れるのではないですかね」


「ふむ、一種の休眠状態の様なものでしょうか。分かりました。


騎士レルゲンはまだピンと来ていない様なので教えますが


精霊の加護を契約無しで行使しているなんて他国に知られでもしたらまず間違いなく身柄を狙われますよ。


もっとも、貴方を捉える手段なんて世界中探してもあまり候補は無さそうですが」


二人で盛り上がるのを見て面白くないと思ったマリーとセレスティアがレルゲンの腕を掴んで


「ほら、お母様に報告と中庭の修繕だってあるんだから、お話はそれくらいにして行くわよ」


「召子様、ディシアも同行をお願いします。その方が早く説明できますから」


二人が頷き、念の為聖剣はレルゲンが念動魔術で空中に浮かせながら運んでいき、女王の下へと向かうのだった。

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