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7話 心の中にある声

「それで、本日はどのような御用向きでしょうか…?」


「ええ、今日から貴女にこの世界の事を説明しようと思って!」


マリーは異世界人との交流に興味を示したようで、召子に今までの事や、これから起きるであろう事

ディシア暗殺の件など全部話してしまう。


もし本当にディシアやレルゲンを暗殺するために王国まで来たのなら、お護りで持ってきた神剣で叩き斬ればよし。


そうで無いならちゃんと友好的に接しておきたいという裏表のないマリーらしい対処法だった。


それを一通り聞いた召子はヨルダルクからここまで来たこと、


自分が〈勇者〉を所持しているからこそ持てる聖剣について


神官からディシア暗殺を依頼されていることを全てマリーに話した。


実際にこの時全て話し合える、信頼し合えるようになるまでの最短の方法をとった事で、事態が最も解決に近くなったのは本人達は全く知る由も無かった。


「大変だったわね。私も結構壮絶な人生歩んでいるつもりだけど


何の覚悟も出来てないうちにこっちの世界に飛ばされて、こいつを暗殺しろ!世界を救えーなんて言われても絶対に出来ないわよ。貴女は凄いと思う」


「いえ、生きていくために必死だっただけで、それにまだ何も出来ていませんし…」


「それでも結果的にはこうして相談してくれてるじゃない。それだけで十分よ」


マリーが召子の手を握って頭を軽く撫でると、今まで溜め込んでいた関が溢れ出し、声を上げて泣くのだった。


ディシアも同様に、自分の身一つでは耐えられないほどの才を与えられた場合、大きく分けて二つある。


一つは力に溺れて人格までも変容し、過去に召喚された人物のようになること。


二つ目は与えられた力に耐えきれず、誰からの助けも無いまま自壊していくケース。


ヨルダルクはこの二つ目の自壊する寸前まで召子を追い込み、名実ともに操り人形に仕立て上げるつもりだったのでは無いかとマリーは考えた。


この推測はかなり良い線で、ヨルダルク側はこの二つ目の自壊するケースを狙って王国に送り込み、召子の心を完全に手中に収めようと考えていた。


「もう一度確認するけど、ショウコはディシアを暗殺するためにここまでくる事になったけど、本心では暗殺なんてやりたくないのよね?」


「はい、やりたくありません!」


胸を張ってマリーに自身の持つ本当の心を打ち明けた時、聖剣から黒い魔力が溢れ出し、召子を飲み込んでいく。


急激な聖剣からの魔力供給は、魔力を一切持たない召子には猛毒となり得る。


そんな事を知らないヨルダルクではないだろう。


マリーは急いで聖剣を、神剣の新たな加護である絶対切断による破壊を考えたが


召子に吸い寄せられるように聖剣が移動してゆき、手に握られた。


召子の瞳は黒く、そして暗く淀んでいき、そこにはもう召子の意識は存在しない正真正銘の人形のように宙に浮かびながらぐったりとしている。


この魔力の大きな変化は王国中に伝播してゆき、レルゲンとセレスティアは真っ先にマリーと召子の下へと急いだ。


レルゲン達が到着するまでの間、約数分間。マリーは一人でこの黒い魔力を纏った召子を足止めする他なかった。


「どうしてこうなっちゃうのかしらね!」


全開で魔力を神剣に乗せた事による聖属性の付与と、絶対切断の加護を駆使してマリーが足止めを図る。


相手は間違いなく魔王を討ち滅ぼさんとする聖剣を手にした勇者。


ここで召子の口から、召子ではない誰かの声が口を借りて抑揚のない声で話し始める。


「一定以上の任務破棄の_____を感知しました。これより強制執行を執り行います」


「誰が勝手にその子の口を使って話してるのかしら!姿を見せなさい!」


しかし、聖剣はマリーの問いに答える事はなく、黒い魔力がどんどんと召子に流れ込んでいる。


狙うはこの魔力の発生源の聖剣のみ、全力で"聖剣を切断する"。

そう決めてからマリーは聖剣を持つ召子に突っ込んで行く。


しかし、神剣と同等以上の存在感を放つこの聖剣を前に、マリーの一撃は易々と弾かれてしまった。


「何でも斬れるんしゃないの?!もう!」


神剣に悪態をついたマリーだが、一つ斬れなかった原因が頭をよぎる。


(私は今この剣で、ショウコの持つ剣を斬れるか疑っていたから?)


ならば、もう疑う事はしない。

この剣なら聖剣を斬れる。いや、もう"既に斬っている"。


そう念を込めて握り直された神剣は、一層白い輝きを放ち、斬る対象を探しているかのように魔力が揺らめいている。


マリーが再度聖剣に向けて突っ込み神剣を振り上げると


この変化を感じ取った黒い聖剣が


「概念切断を検知、危険度:大」


とまたも召子の口を使い、今度は危険度について感知したようだった。


それを受けてただぐったりとして浮いていた召子が移動してマリーの一撃を紙一重で躱す。


避けられると思っていなかったマリーはあえなく空振りに終わったが


聖剣から発せられる黒い魔力が神剣によって空間ごと斬られ、一瞬召子と聖剣との接続にノイズが入った。


これを繰り返しやれば、いつかはショウコを解放出来るとマリーが決意を固めるとレルゲンがディシアを連れてやってくる。


「マリー!何が起きてる!」


「分からない!分からないけど、悪さをしているのはあの聖剣なのは間違い無いわ!」


その状態を初めて見たはずのレルゲンは少し悲しい気持ちになっている事を自覚していた。


「ディシア、あれが聖剣の本当の姿か?」


「いいえ、間違いなくヨルダルクの細工が施されています。本来聖剣とはそちらのマリーが持っている聖属性の武器と同じ種類の武器です。


こうも反対の…"悪属性"に近い状態になる事は自然には絶対にあり得ません」


「分かった。ならもうあの剣は壊すしかなさそうだ。室内戦闘だと被害が大きい。一旦外へ連れ出すぞ!」


黒龍の剣に少し魔力を込めて部屋を破壊し、外の景色が顕になるが、続けて標的を見つけた聖剣が告げる。


「暗殺対象を発見、これより任務遂行に当たります」


念動魔術で無理矢理に聖剣に支配されている状態の召子と、マリー、ディシアを連れて中庭へ移動する。


一瞬ディシアを連れてくるか迷ったが、聖剣がディシア暗殺を最優先とするなら再び室内に逃げ込まれる可能性もあった。


今は側に置いておく方が一番安全だと直感的に判断。


中庭に降ろされたマリーとディシアは周りに人がいない事を確認すると一歩下がる。


「意図しない移動方法を確認。

この第二目標を危険度:中に再カテゴライズ」


ここで第二段階の魔力解放の一撃でどうにかなるかと考えたが、心のどこかで(違うよ)と声がする。


レルゲンが周りを見渡すが、誰も自分に話しかけた様子はない。


誰が自分に話しかけているのか分からずに、思考を切り替えようとすると、再び内側から声がする。


(ちゃんと対処方法を教えてあげるから、言う通りにしてごらん)


不信感が頂点に達したレルゲンが思わず謎の声の主に返答する。

黒龍の剣とは反対の左手で自身の胸の服を掴み


(誰だ?どこから話しかけている?)


尚も謎の声がレルゲンに語りかける。


(それより今はあの子を助けたいんでしょう?なら今は細かい事は後々、ね?」


(分かった。で、どうすればいい?)


納得したのか、少し嬉しい気持ちが直接流れ込んでくる。


(いいね。それじゃあまずはマリーに黒いオーラを全て断ち切るように指示を出して。


全部断ち切れるまでは君はその補佐とディシアを護ることに専念だ。それから先は私がやるよ)


(信じて良いんだな?)


(君もくどいね。助けるために取れる行動は一つだけだよ)


返事は返さず、マリーに指示を出して二人は黒い魔力を纏った召子に向かって勢いよく駆け出した。

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