5話 召子の騎士団入り
日を改めてレルゲンが召子を迎えにやってきた。
「ショウコ様、レルゲン副団長がお見えになっております」
下の階から宿屋の受付が召子を呼ぶ。
「本当に来た!」
多少慌てながらも身支度を整えていると、扉を軽く叩く音がする。
「はい!今開けますので少しお待ち下さい」
余りヨルダルクから持ってきていない、というより荷物が極端に少ないので、あっという間に支度が終わる。
「どうぞ」
レルゲンが扉を開けるとそこには制服姿の召子がベットの上に座っており、レルゲンは部屋の寂しさを見るに
「荷物はこれだけ?」
と召子に問う。
「なにぶん急いでいましたから」
「そうか、荷物は俺の方で全部運んでしまうが、問題ないか?」
「はい、ありがとうございます。あっ…」
レルゲンが召子に向かって振り返り、疑問の表情を浮かべる。
あんなに他人には触れず、扱えないと言っていた聖剣が糸も容易く空中にフワフワと浮かんでいるではないか。
口を開けて驚いているのを見ると、レルゲンが「あぁ」と一言だけ漏らし
「これは念動魔術ってやつで、簡単に言ってしまえば物を浮かばせたり
移動させたりできる雑用に向いてる魔術だな。今は戦闘に使っているのは俺くらいじゃないかな」
雑用魔術を戦闘に使って、かつ副団長まで登り詰めているなんて凄いなぁ、と素人ながらに召子は思った。
王宮の入り口までレルゲンに連れられ、いざ中へ。
大きな門が開き、衛兵達がレルゲンへ声をかける。軽く手を上げて挨拶を交わしたレルゲンは早速召子を訓練場に案内してくれた。
主に普段使われている鉄の剣よりも重い、特殊な木剣で訓練をしているようで
団員達はレルゲンと召子が入って来たのを見て一礼だけ済まし、また訓練へと戻っていく。
「訓練とはいえ結構激しいですね」
「そうだな。他の国よりかは厳しい訓練をしていると思うよ。
なんせここ一年の間に滅亡寸前まで行ったのが二回もあったからな」
「二回も!?大変な世界だ…」
レルゲンは召子を見て
「そうだ、潜ってきた修羅場も多いから現状に満足しない団員が多く在籍してる。
女性団員は一割程しかいないが、力が有れば自然と上の階級に上がる仕組みになっているから安心してくれ」
「分かりました」
ここで様子を見にきたマリーとセレスティアが声を掛けてくる。
「そちらが大会優勝者のショウコ・モガミ様ですか?」
「あぁ、そうだよ。ショウコにも紹介すると、こちらが第一王女のセレスティア、こっちが第三王女のマリー。どっちも俺の奥さんだ」
(こんな綺麗な方が二人も、しかも王女様と結婚してるなんて…私のいた国では考えられないな…)
「初めまして、最上召子と申します」
深々と頭を下げて挨拶する召子に手を差し伸べる二人。順番に握手を済ませていると、セレスティアが疑問に思った。
(いくら魔力が少ないとはいえ、触れてみて全く感じない事などあるのでしょうか?…)
しかし表情には出さずに握手を終えて、レルゲンが召子の魔剣を預かっているのを見て、やはり疑問が尽きなかった。
(やはり、この濃密な魔力を発する魔剣。ただの魔剣ではありませんね。訳ありと考えた方がいいでしょうか)
二人と挨拶を済ませて中庭に足を運ぶレルゲンと召子。
草木の心地よい香りが鼻を抜け、ここで寝られたら気持ち良いだろうなと感じていると、一本の木の前で止まる。
「ほら、連れてきたぞ。団長殿」
呼びかけられた人物からの返事はなく、レルゲンの表情に少し苛立ちが見える。
「せい!」
かなりの力を込められた蹴りが木を襲い、大きく揺れた木から一人の老人が落ちてきた。
「いてて、おいボウズ。最近起こすの雑になってきてねぇか?」
「なら最初の呼びかけでちゃんと起きたらどうだ」
落ちてきた団長と呼ばれる人物を見た召子は、思わず
「侍だ」
と溢してしまう。
それを聞いたハクロウが
「久しぶりに聞いたな、その単語」
と漏らしながら、真っ直ぐ召子を見る。
レルゲンは
「サムライってなんだ?」
とハクロウに聞いたが、これには答えずただじっと召子の瞳の奥を覗き込むように見つめる。
「えっと…」
召子が困ったような声を上げると、すかさずレルゲンがハクロウの頭を叩き、凝視するのを辞めさせる。
「痛ぇな!」
ハクロウもレルゲンに抗議の視線を向けたが、レルゲンも負けじと
「困ってるから止めとけ」
と無理矢理中断させる。
それでもハクロウはやっぱり召子が気になるようで、最後に
「俺の弟子になる気はないか?」
と声をかけ、召子は困りながらも
「少し考えさせて下さい」
とだけ返答し、その場を後にした。
レルゲンは大方騎士団に所属する上で必要な場所を全て見せ、その日は召子専用の部屋を用意してお開きとなった。