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第一章 8話 闊歩する魔物達 改稿版

まばらに逃げ始めている観客を避けつつ、もうじき魔物がいる場所まで辿り着いた。

魔物が近くなるにつれて、彼らとは逆方向に逃げる観客が増えてくる。


それにぶつからないように速度を殺さず向かうと


『ガァァァアアアア!!!!』


魔物の声が響いている。

幸い魔物を避けるように観客が退避はしているが、

いかんせん戦闘するには狭い空間だ。


魔物が移動したら被害が大きくなるのは必至。


(あれはウルフファング…!)


『俺が牽制する!その隙に一撃頼んだ』


『分かったわ』


魔物を視認する。


ウルフファングは三段目の魔物だが、

近々四段目に昇格するのでは無いかと噂になっている。


主な生息域はユニコーンと同じ森の奥地。

本来群れで行動することで知られているが今回は一頭のみ。


成獣だと思われるが、先程の咆哮といい、

まともに音圧を受ければたちまち体が数秒間硬直して動けなくなる。


既に躱した観客の中にも硬直し始めている人もいた。

今はまだ魔法陣付近にはいるが、いつ動き出しても不思議はない。


『また咆哮がくるぞ!』


(先程よりも大きい咆哮を出すつもりか)


彼らが接近してきたことに対する、臨戦体制に入ったことへの合図。


『咆哮は何とかする!構わず突っ込め!』


ウルフファングが咆哮を上げるよりも早く、

自分とマリーの耳に小さいウォーターボールを出現させ、耳を保護。


『きゃっ?!』


と驚いたような声を一瞬あげるが、速度は緩めずにウルフファングまで駆ける。


加えてすぐに音の衝撃波の直撃を防ぐために、

帯同していた十本の剣を横一列に並べる。


『ガァァァアアアア!!!!!!!』


先ほどとは比べ物にならない音圧でウルフファングの咆哮が響き渡るが、

二重に対策された二人は硬直することなく突っ込み続ける。


咆哮が終わったとほぼ同時に剣の間合いに入り、

下段から垂直に首元へと真っ直ぐ軌道を曲げられた二本の剣が、

ウルフファングの首を捕らえたかに見えたが、

四段目に昇格が控えているだけあって反応が速い。


薄皮一枚を切り裂き小さく鮮血が上がる。


上体が逸らされ更に懐が広くなり、この隙間にマリーが素早く潜り込む。


戻ったときにはマリーが頭の真下に位置取り、うまく死角に入った。


『やぁぁぁああああ!!』


裂帛の気合いで死角からの一撃。


元々の剣の切れ味の良さも相まってか、

滑るようにウルフファングの首が落ち、魔石へと還る。


この間、僅か五秒の早業。

魔法陣を彼が視認してから念動魔術で、

距離がまだ数メートル開いている状態から浮かび上がらせる。


先に魔法陣を破壊してから手伝ってやろうとも思ったが、

その必要は無かったようだ。


いくら膂力が高いとはいえ美しい切断面を見ると、

自分も武器を新調したくなるもの。


ここで思考を魔法陣に戻す。

形状こそ違うが、ユニコーンとタイプは同じ。


ここも象形文字に近い部分を狙って書き換え、魔法陣を自壊させる。

お互いに目を合わせ、次の魔物と魔法陣がある場所へ闘技場の外周通路を駆ける。


『なんかまだ魔法すら使える気がしないんだけど』


『あの魔法陣、恐らくだが加算方式だ。

だからまだ使える感覚になっていないんだと思う』


『で、その加算の割合は?』


話が早い。流石は王女様だ。算術はお手のものか。


『十分の一』


『え?でも魔法陣は五個よね、どういうこと?』


『そうだ、これは俺の推測だが、

俺達が最終的に目指している魔物が居る場所。

その魔法陣の効果割合が高いと思う』


『じゃあ尚更他の魔法陣には時間をかけていられないわね』


『急ごう』


ここでお互い魔力を足に込める。


技術が必要だが、体外に放出されなければ魔力消費も極端に抑える事が出来る。


二人とも無駄な魔力消費すること無く加速する。


残る心配は白髪の剣士が骨折した状態で二・三段階目の魔物を倒せるかだが、

ユニコーンの時の口振りを考えれば時間をかけずに倒せる筈だ。


幸いこちらはマリーの戦闘能力は彼が思っていたより高い。

順調に行けば白髪の剣士よりも早く最後の魔物まで辿り着くだろう。


二体目の魔物が目前に迫る中、

白髪の剣士が魔法陣を破壊した手応えを魔力感知から判断する。


予め白髪の剣士には“魔力揮発剤”を二回分渡しておいた。


これを魔法陣にかければ、

魔石を液状化して陣を形成しているに限り無効化することも可能だ。


元々魔力揮発剤はダンジョンでよく使われる物で、

市販こそほぼされないが攻略者には必須とも言っていいほどの代物だ。


大規模魔術を発動した後に、

周辺の魔力濃度を抑えるために使われることもあるらしいが、

そんな魔術を行使できる人間はこの魔法陣を作成できる数よりも少ない。


ダンジョンでの主な用途はセーフゾーンの作成で、

魔物のポップは周囲環境の魔力をリソースにして出現するのが原則。


その魔力を揮発剤で消してやれば、

付近では魔物のポップを防げて簡略化された安全圏を一時的に作ることができるという訳だ。


『どうやらマリーの先生も頑張っているようだな』


『ええ、自慢の先生だもの!』


二体目の魔物は歯ごたえがなかった。

彼が放った剣で牽制をすると、その牽制で魔石へと還っていった。


魔法陣を破壊し、魔術行使の効率を考えると合計で約三割、

この割合で考えると最後の魔物は半分の五割と考えていい。


それほどまでに最後の魔物に自信があるということだ。


(このまま白髪の剣士の討伐を待たずにユニコーン以上の魔物と戦うか?それとも…)


『マリー!高いところは平気か?』


『多分大丈夫!』


『なら飛ぶぞ』


『え?飛ぶって、どういうこ、きゃああああああああああ!!』


彼女の悲鳴を無視して白髪の剣士が今戦っているであろう場所に空から直線で向かう。


何か嫌な予感がする。


最後の魔物は万全な状態で戦いたいのもあるが、

魔物の数を一体でも減らせれば、その分観客が逃げられる導線が確保できるのが大きい。


放送があれきりなのも気になる。


既に魔物も五体中、半分を超える三体を排除しているが、

相手側が何か反応を見せてもおかしくはない。


よほど最後の砦に自信があるのか、それとも他に…


『あはは!貴方、こんな楽しい時間を独り占めしていたのね!

これ、癖になりそう!』


『楽しみすぎだろ。この非常時に』


『それはそうだけど、いいじゃない空に魔物はいないんだし。

オンとオフの切り替えが大事なのよ』


『ものはいいようだな』


今この頭の靄を気にしすぎても仕方がない。

彼女を見習うわけではないが、張り詰めすぎた糸はいつか切れる。


『先生ぇー!!』


『嬢ちゃん!?』


冷静な判断を心がけていた白髪の剣士も、

空から愛弟子が降ってきたら驚きもする。


『向かいに来たぜ、爺さん。

やけに時間がかかっているとは思ったが、そういうことか』


『いやーすまねぇ。「こいつら」は全快の俺でも手を焼く奴だ』


白髪の剣士が相手をしていたのは、二段階目の魔物だ。

名はグンタイイワシ。


通常は海上や海辺で見かけられる魔物で、一体ごとに小さい魔石を有している。


グンタイイワシから取れる魔石の換金効率は最悪で、

風で吹けばすべての魔石を回収することは困難。


魔石は一つ一つが小さな石ころレベルのため、

数を集めなければ買い食いする金額にもならない。


刺激を与えれば数の暴力で暴れ、

冒険者にも海辺で生活する人々にも敬遠される魔物だ。


一体一体は二段目の魔物だが、数が多い。

魔力感知ではその数およそ百五十体。


確かに、この群体魔物は魔術戦向きで、

刀でちまちま払っていてはいつまで経っても完全討伐はできないだろう。


下手に刺激を与えれば観客への被害は絶大で、

いくら小さくても広範囲になればなるほど怪我人が増えていく。


一般人からすれば今回の魔法陣で召喚された中で、

一番出会いたくない魔物といっていい。


経験豊富な冒険者なら時間をかけてじっくり数を減らせるが、

今回は時間をかけている暇はない。


今でこそまだ最後の魔物に動きはないが、

いつ観客を無差別に襲い始めてもおかしくない。


『来てもらったところで悪いが、どう料理する?』


『消滅魔術も三割ほどだが効果が減衰している。

火炎魔術で一斉に焼くつもりだ』


『それはいいけど、一か所にどう集めるの?

それとも火炎魔術を何度も打ち込む?』


『火炎魔術は魔力効率が悪い。

連発もできなくはないが、最後を考えるとそれは避けたい。だからこうする』


魔力糸を無数に出し、グンタイイワシの周囲の空間を取り囲む。

ここで異変を感じたグンタイイワシが魔力糸の外に出ようと暴れ始める。


『もう遅い』


魔力糸で取り囲んだ範囲を狭くする。

身動きができないほど魔力糸で縛りあげられたグンタイイワシが苦しそうに藻掻く。


まだ彼の技術では百五十もの不規則に動いている個体を

一体一体補足することは“まだ”できない。


ゆえに魔力糸を無数に出し、全体を捉えて、

最後は投網のごとく縛り上げる。


『ファイア・ストーム』


『中級魔術を詠唱破棄…!』


絶命し、ばらばらと魔石になって地面に転がっていく。


『あの糸みたいなやつで行動範囲を狭めて、魔術で一気に焼く。

いやぁ、壮観だねぇ』


『さぁ、最後の一体だ』


ここで五体目の最後の魔物が動きを始める。動いた先は闘技場の真ん中。


闘技場の観客はもうすでにまばらで、非難はもうほぼ完了と言っていい。


『よく来てくださいました。皆さん。

あぁ、ワタクシ自慢の魔物達が……しくしく』


(この声は放送の奴か)


闘技場の中央で待ち構えていた輩は紺のタキシードに紺のハットをかぶり、

顔には白を基調とした涙が描かれた仮面を着用している。


分かりやすいウソ泣きの仕草で演技していることを

逆にアピールしているかのような話し方をしている。


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