4話 聖剣の力
一試合目、私の相手は一本の剣を持った老人だった。
両手で握られた剣はふらふらと左右に揺れながら
足元は何かに躓けばそのまま転んでしまいそうな人物だった。
所謂酔っ払いだろう。
手早く片付けて次の試合に行くべく、召子から動く。
上段に構えられた聖剣をそのまま振り下ろす。
そのまま勝負ありになるかと思いきや、これを寸前で躱し、後ろに飛んで距離を取る老人。
「いやぁ、怖いねぇ…老人相手に容赦なしかい?」
「私は勝たなきゃいけないのです」
「その真っ直ぐな瞳…昔を思い出すねぇ
こっちもちょいと本気でやりますか」
ここで召子が考えを改める。
(この老人、恐ろしく身軽だ。私の世界であの歳になると間違いなく杖をつくだろうに!)
今度は老人が召子に詰め寄り、剣を振るう。
これを辛くも全て防いでいると、打ち込んでいた老人の剣に若干ヒビが入る。
「打ち込んでいるこっちが折れてしまいそうだねぇ。魔剣ってやつかい?」
「そんなところです」
適当に返答すると、老人は打ち込みを中断して後ろに飛んで距離を取る。
すかさず空いた距離を詰めるべく召子が肉薄する。今度は一撃ではなく連続攻撃を仕掛けて
老人の剣の破壊を目的に攻撃を繰り出す。
この狙いには老人もすぐに気づいたが、いかんせん素人感満載の打ち込みだ。
逆に老人は躱すのみで攻撃に転じることが出来ないでいた。
数分間同じやり取りをしていると、体力差が現れてくる。
やはり召子の方が継続力は高く、老人は足元が更におぼつかなくなっており、遂には剣でうっかり受けてしまう。
粉々に破壊された剣では、戦闘を継続する事が出来ないと老人が手を上げる。
「勝者!ショウコ・モガミ!」
「ふぅ…」
と息を吐き出して、一回戦目を勝利で飾る。
「いい酔い覚ましになったわ」
老人は潔く負けを認め、その場を後にする。
召子は聖剣の性能を相手に押し付けるようにして戦い、順調に駒を進めた。
そして決勝戦まで来た召子は会場の熱気が最高潮になっていることに気づき、心臓の鼓動がうるさいと感じるくらいには緊張していた。
「貴女が私の相手なの?」
声をかけられた召子は一瞬反応に遅れて「えぇ、まぁ」としか返せずにいると
声をかけてきた女性は少し笑って、勝利を確信したようだった。
事前に彼女の戦い方は見てきた、間違いなく麻痺毒が塗り込まれているダガーを二本使う選手で
今まで一回だけ相手の剣を壊せば勝ちだった召子にとっては戦いづらい相手だ。
実況役の男性が大きな声で選手紹介をする。
「お待たせ致しました!これより決勝戦の開催を宣言致します。
片やこれまで全ての対戦相手を麻痺状態にして勝ち上がり、勝つべくして勝ったダガー使い、フレア!
片やこれまで全ての対戦相手の武器を破壊してきた、ウェポン・ブレイカー、ショウコ・モガミ!
準備はよろしいですか?それでは、始めて下さい!」
まず動いたのはフレア。
この武器に頼り切ったボンボンをさっさと麻痺状態にして試合を決めるべく、召子に向かって距離を詰めてゆく。
召子もフレアからの攻撃を迎撃しようと聖剣を構えるが、フレアの素早い横移動による肉薄は、召子の反応を大きく上回る速度だった。
足に軽い切り傷が入り、フレアは召子に向かって勝ち誇ったように言葉をかける。
「予想通り武器の性能頼りだったようね」
聖剣を地面に刺し、召子の体制が崩れるがまだ倒れない。
この様子を見たフレアが疑念の籠った表情をするが、もう一度切り傷を入れるべく、召子に向かって突進してゆく。
召子はこの突進を真横に薙ぎ払う形で聖剣を振り距離を取らせようとしたが
フレアは身軽な身のこなしで身体を回転させながら上体を捻り、跳んだことで薙ぎ払いを躱すことと肉薄の両立をしてみせた。
「やぁああ!!」
短い気合いと共に召子に回転斬りによる斬り傷を再度与え、今度こそ決着かと思われたが、それでも召子は
「痛ったーい!」
と可愛げな悲鳴を上げるのみで麻痺による追加攻撃は一切効いていないようだった。
これにはフレアも驚きを隠せず、召子を初めて敵と認識を改めることになる。
しかし召子はフレアの身を最初から案じていたのだが、自身にとって危険が降りかかると判断した瞬間、
とんでもない速度でフレアとの距離を潰し、上段から聖剣を振り下ろした。
咄嗟に二本のダガーで受け切ろうとしたが、この速度でこの魔剣と衝突したら間違いなく破壊される。
そう感じた時には遅かった。
呆気なく破壊された二本のダガーで勢いが止まる事はなく、そのフレアに深く斬り傷を負わせる一撃は
魔力によって強化された漆黒の剣によって止められた。
ガキィイン!!
と轟音と共に上げられた衝撃派が、召子の繰り出した一撃の威力の高さと、それを止めたレルゲンの防御力を示していた。
咄嗟に剣を引っ込め我に返った召子は思わずフレアに謝罪する。
「すみません!本当に殺しちゃうところでした…」
フレアは苦笑いし
「負けたわ」
と一言だけ漏らした。
審判が高らかに勝者を宣言する。
「ウェポン・ブレイク!勝者!ショウコ・モガミ!」
一瞬の出来事だったために観客の反応が遅れたが、直ぐに盛り上がりをみせて召子を祝福した。
声援を送っている中にはレインの姿もあったが、召子が見せた最後の一撃を要人席で見たディシアは真っ先にその場を後にする。
(あの剣、間違いなく聖剣ですね…とうとう私を殺しにやってきたというわけですか…)
最後にレルゲンと召子が戦いはしたが、呆気なく聖剣を掬い上げられて手から離れてしまった召子は負けを認めたが
レルゲンはクーゲルから事前に聞いていた魔剣使いはこの娘の事だと直ぐにわかった。
レルゲンが持っている黒龍の剣よりも濃密な魔力を発し、持ち主の意思一つで性能を引き出せる手軽さ。
戦闘に慣れさえすれば、王国の戦力として申し分ないと感じられるポテンシャルを持っている召子にレルゲンが声をかける。
「見事な剣だった。よかったら騎士団に入ってみないか?大会優勝者なら色々と融通が効くぞ」
「ありがとうございます。是非騎士団に入らせて欲しいです」
「それじゃあまた後で。君の剣で居場所を追うから、近くに置いといてくれ」
召子はこの剣が居場所を見つけられる程何かを発しているのか?と疑問に思ったが、すぐに切り替え
「分かりました」
と返し、その日はそのまま自分が寝泊まりしている宿に戻った。