2話 七段階目の後始末
モンストルム・ファブリカが大気圏にて爆発を起こし
カイニル・マクマニルの呪いを解き放ったレルゲン達は、事後処理に追われていた。
「まずは山斬りによって寸断されたヨルダルク間の道の整備を騎士レルゲンに命じます」
「拝命致します」
「そして、セレスティアとマリーにはダンジョン攻略後のギルド間との情報交換
そして連れてきたレイン様の中央ギルドでの仕事について、ギルド長クーゲルへの説明を」
「「承知致しました」」
「そして騎士団長ハクロウには急ぎ騎士団の再編を。今攻め込まれる可能性が一番高いと言えます。
頼みますね」
片腕を再度無くした状態で騎士令を取るハクロウ。
「御意に」
謁見の間にてそれぞれに指示を出している女王は、尚も色々な貴族に避難民の帰還方法についてなど協議・指示を出しており
かなり忙しそうだが表情は明るく、寧ろ清々しい喧騒とも感じているようだった。
謁見の間を後にしようとするレルゲン達に女王が再度声をかける。
「そうだ。忘れていましたが、ミリィ・ブルームスタットにこの国永住権と
ディシア・オルテンシア様も食客扱いにし、無期限の中央滞在を許可します」
「今回の元凶とも呼べる私達が、ついでとは…」
レルゲンが謁見の間を後にして歩きながらディシアに声をかける。
「よかったじゃないですか。と言っても処分されそうなら何とかするつもりでしたけど」
「それで本当にいいのなら、私は暫くここに滞在します。カノンともまだまだ話したいことがありますし、
どうせ戻ったとしても私は裏切り者として処断されますから。対策が見つかるまでは___」
何を小難しい事言っているんだ?という表情をするレルゲンが、ある提案をする。
「なら、この国に永遠の忠誠を誓えば良いじゃないか?
正直あの七段階目を最終的に何とか出来たのは、ディシア様とカノンのお陰ですよ」
「そんな簡単なことではないと思います」
マリーもレルゲンに乗っかり、言葉を付け加える。
「簡単なことよ?
貴女の持っている技術は間違いなく中央王国の為になる。私からお母様に進言しておくわ」
ディシアがセレスティアに確認する為に見ると、ニコッと笑い「それでいいのでは?」と言うような表情を取った。
自分の国とは正反対の国柄に頭を抱えるディシアは晴れて?王国入りを果たすのだった。
「これからもよろしくお願いします。皆様」
ディシアが立ち止まり、杖を前に出して令を取る。
「「よろしく!」」
と全員が声を揃えてディシアを迎えた。
話が纏まった所で、マリーがレルゲンに声をかける。
「ねぇレルゲン。これを見て欲しいの」
「何?」
マリーが見せてきたのは神剣だった。
「何を見れば良いんだ?あっ…!」
「そう!二つ目の穴に嵌ったの!」
「どこで見つけたんだ?」
「七段階目が爆発した後に、宇宙から降ってきたみたい。光ってる玉が落ちてて、試しに近づけたら」
「こうなったわけか」
「そう。でも一度ドライドさんに見てもらわないと性能の確認が出来ないから、一段落したら工房に付き合って欲しいの」
「構わないよ。俺もその剣がどう変わるのか気になっていたし」
「それじゃあ、また後でね」
「ああ」
一旦全員が解散して事後処理に追われることに、次にレルゲンとマリーが会ったのは二日後だった。
「剣の確認しに行きましょう!」
朝、レルゲンの部屋を勢いよく開けたマリーが「あぁ!」と声を出す。
「セレスお姉様が抜け駆けしてる!」
「いいえ?公務が終わったのですから抜け駆けではありませんよ?」
「今日はレルゲンと一緒に神剣の確認に行くんだから。レルゲンは早く支度して」
「分かった。じゃあセレス。風邪を引かないようにな」
「はい」
名残り惜しそうにセレスティアがレルゲンを見送るとマリーが「今日は私の番よね?」
とレルゲンに詰め寄っていたのを見て、セレスティアは少し笑うのだった。
ドライドの工房にて
レルゲンとマリーが神剣を持っていくと早速鑑定用の拡大鏡を片目に着けるてじっくりと観察するドライド。
「また珍しい加護がついているな。これが今のマリー嬢ちゃんの武器かい?」
「そうよ」
「この剣には"絶対切断の加護"がついているぜ。文字通り所有者が斬るものは何であろうと斬れる。
例えばこの前王国に来た化け物でもな」
「絶対切断の加護って、要するに使う私次第ってこと?」
「恐らくな。斬る対象をこちらで決めることで、想像を現実にするって言い方が近いな」
「想像を現実に?なんかまだよく分からないわ」
レルゲンが興味深そうにマリーに話しかける。
「実際に使ってみた方が早いんじゃないか?試しに硬いやつを斬ってみたりさ」
「それもそうね。レルゲン、今日一日は空いてるのよね?なら…」
「深域か?」
「そう!試すにはもってこいだわ」
ドライドがやれやれと言った反応を見せ
「深域の格も落ちたものだなぁ」
と一言溢すのだった。
深域で二人は手始めに五段階目の魔物と対峙していた。
今日レルゲンは黒龍の剣を持ってきていない。
マリーの神剣で全て止めがさせるはずだからだ。
「レルゲン、足止めよろしく!」
「分かった」
念動魔術で浮遊剣を操り、魔物の走る方向を制限して止める。
「やぁぁああああ!!!」
気合いの込められた一撃はあまり魔力が乗せられていないにも関わらず
綺麗な切断面を残して魔石へと還るのだった。
その切れ味を見たマリーは
「逆に手応えが無さすぎて本当に斬っているのか分からないわね」
と神剣に向かって文句を言うのだった。