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39話 ミリィ・ブルームスタット

意識を集中する。


目指すはこの魔物の核になっているミリィが閉じ込められている赤い石。


深く、更に深く集中していき、周囲に止まられせている魔物の魔力を全て遮断。


更に自身より上部にある魔力の大きい塊を想像しながら探してゆく。


「見つけた」


再び空中に浮き、最短でミリィの元へと向かうために白く発光する白銀の剣を握り直し、天井を次々と溶かして破壊しながら進んでゆく。


途中モンストルム・ファブリカの防衛本能からか幾つもの手のような物が


壁や破壊する天井からも無数に伸びてゆき、この先に進むなと言わんばかりの抵抗を見せる。


しかし、裏を返せばこの先に弱点となる場所が存在すると言っているに等しい反応は、レルゲンを更に後押ししていた。


ミリィの魔力を感知するまでに接近し、赤く光る、傷のついた魔石が格納されている部屋に到着する。


するとそこには、テクトと思わしき白衣を着た人物が、ミリィが入った赤い石に手をつきながらレルゲンを待っていた。


「やぁ、よく来たね。こうして会うのは初めてかな。まぁもっとも、声でのやり取りは何度もしているが改めて自己紹介をさせてもらおう。


私はテクト。テクト・シュトラーゼン。ヨルダルクから追放された科学者だ。よろしく、レルゲン・シュトーゲン」


「自己紹介してもらったところで悪いが、さっさとその石を壊してミリィを助けさせてもらおう」


「おっと、せっかちだね。しかし助けるのは結構だが、お勧めはできないかな」


「どういう意味だ」


レルゲンが問うと、テクトはレルゲンに後ろを堂々と見せて


大量の映像が流れている画面が無数にある前の椅子へ豪快に座ったと思えば


またレルゲンの方へ椅子の向きを回転させて語り始める。


「君は知っているのかい?そこの娘の素性を」


「素性だと?」


「そうさ。本当に君が命をかけてまで護る必要があるのか。私には甚だ疑問だということさ___


彼女の名はミリィ。ミリィ・ブルームスタット。と言えば大体察しがつくかね?」


「なんだと…?」


頭が、理解が追いつかない。

こいつは今、なんと言った?

ブルームスタット?あのナイトの血縁者だとでもいうのか?


レルゲンの考えを見透かしたようにテクトが笑いながら首を振る。


「大方優しい君は、あの自分の師匠であるナイト・ブルームスタットの血縁者だと思っただろう。


しかしそれは違う___大きな間違いだ。

かの天才はこんな研究をしていた事を知っているかね?


人工生命体の研究さ」


「人工生命体…だと?」


「君は見ているはずだ。奴の作品を」


(自動人形のアイとユゥの事を言っているのか?だが…)


「だが奴は人形を作っていたはずだ、かい?」


「…!!」


思考を先読みされたレルゲンは半歩ほど後ずさる。


「彼が作っていたのは本当の、ただの人形だったか?


いや違う。君は見ているはずだ。半身が欠けた瞬間のもう一人の怒りを、感情を」


「どうしてお前がそこまで知っている」


「簡単なことだ。見ていたからさ、この目で」


テクトが左目に手を伸ばし指を指して強調するように見せてくる。


「私には、"千里眼の加護"があるのさ。この忌まわしい加護は、"時間を問わず"私に世界を揺るがしかねない出来事が発生した時に限り、


それを映像として見せてくる代物でね。君たちの戦闘は全て見ていたというわけだよ」


「そうか、ではなぜミリィがナイトの作品の一つだと確信している?」


「そんな事は簡単さ。奴はヨルダルク出身の魔術師兼、研究者だったのだよ。


研究記録には生きた人間を使った実験記録がいくつも残っている。その中に」


「ミリィがいたという訳か」


「そうだ。なぜ君達にミリィというある種の出来損ないが接触したのかは私にも分からないが、


とにかく君達は出会った。出会ってしまった。


そこで絆を育み、最終的には自身の自己保存プログラムさえ書き換えて君の二人目の妻を護った」


ここでレルゲンが小さく笑う。


「なぜ君が笑う?」


「いや、なぜも何も、どうしてそんな事実を知ったからと言って、俺が、俺達がミリィをなぜ助けないと思ったんだ?」


「…!!」


「始めは胡散臭い奴が、足手纏いが来たと思ったさ。だがな」


黒龍の剣と白銀の剣を合わせて、再び一振りの剣となりレルゲンの全魔力が込められてゆく。


「俺達はちゃんと仲間になった。助ける理由なんざ、それだけで十分だ」


「よせ!止めるんだ!」


テクトの静止を振り切り、赤い石へ切り込む。

ミリィが石から解放され、レルゲンが魔力糸で編んだ服を着せる。


「レルゲンさん…」


「ああ」


「ありがとう。ごめんね…」


ビー!ビー!と不安を煽るような音が部屋中に響き渡る。


テクトの表情は焦りで埋め尽くされており、完全にレルゲン達は意識の範囲外だった。


「私の傑作が、技術の結晶を失うわけにはいかない!!」


大量のボタンが配置されている板を必死に叩くテクトにレルゲンは声をかける。


「もうここに用はない。俺達は引き上げさせてもらうが、アンタはここに残るのか」


「残るも何も、自壊シーケンスが発動し、もうじきこの魔物は…ダンジョンは…塵となって消える。君達の国ごとね」


「…!」


ここでミリィが諦めたようにレルゲンの頬に軽くキスをして


「私が元に戻れば、みんな助かるの?」


「それはそうさ、君が核だからね」


「なら私は戻るよ。みんなの居場所を奪うくらいなら、私は元に戻る」


レルゲンはミリィを抱きしめたまま決して離さない。痛いくらい強く抱きしめられた手を優しくミリィが撫でる。


「ありがとう、レルゲンさん。冒険、とっても楽しかったよ」


「駄目だ。君は俺が絶対に助ける」


(考えろ、何か手が絶対にある筈だ)


何かが頭の片隅に引っかかる。

それはカノンとディシアが共同で開発した"魔法陣"だ。


「この魔法陣はね、複雑だが実質距離に制限がない、と思う!ディシアの知識が無ければ知らなかった世界を見た、ムフー!」


カノンに見せられた魔法陣は、"一度見た"

瞬間、レルゲンの思考速度が跳ねる。


無意識的に魔力糸をモンストルム・ファブリカの上空に向かわせ、超高速で陣を形成してゆく。


そしてそれよりも遥か、遥か上空の大気圏にまで伸ばされた魔力糸もまた同様の魔法陣を形成。


これで準備は整った。

ミリィを見て、再度優しく語りかける。


「君は、俺達が絶対に助けるよ」


ミリィがどうやって?といった表情を浮かべたが、レルゲンはテクトに向かって告げる。


「こいつは後何秒で自爆する?」


「後三十秒だ」


「お前はここに残るのか?」


「ああ…残るとも。何とかなる可能性が僅かでもあるのならね」


「そうか、一応言っておくが、王国は助かる。

お前がそのオモチャを捨てるなら命は助かるぞ」


「はっ、それが仮に真実だとしても、私はここに残るの道を選ぶよ」


「なら俺から言うことはもう何もない。さらばだ、崇高なる科学者よ」


レルゲンはミリィを抱いて自壊寸前のモンストルム・ファブリカを後にする。もう時間がない。急いで陣を起動する必要がある。


上空で待機させていた転移魔法陣を下ろしてゆくとモンストルム・ファブリカは綺麗に吸い込まれるようにしてその場から消えてゆく。


魔力感知からも消え失せてから数秒後、上空に巨大な太陽にも似た二つ目の光源が出現し


地上には巨大な衝撃波と荒れ狂う暴風が吹き荒れていた。


「ミリィ、おかえり」


「ただいま、レルゲンさん」

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