37話 ユニーク vs ユニーク
レルゲンはまず黒龍の剣が限定して効かないのか、それとも遠距離攻撃全般か
はたまた攻撃自体効果がないのか確かめるべく下にいるマリーとセレスティアに声をかける。
「こいつの攻撃では全く効いていない。
確かめたいことがあるから二人とも全力の一撃を
モンストルム・ファブリカへ叩き込んでほしい!」
「「了解!」」
マリーは全力の魔力を込めた物理攻撃を足元に繰り出し
セレスティアはマルチ・フロストジャベリンを四十本ほど生成して一気に放つ。
すると一つの答えが導き出される。
堅い外壁に覆われているモンストルム・ファブリカには一見効果が薄そうな物理攻撃が通り
逆に遠距離からの攻撃は攻撃が一切通っていないようだった。
セレスティアがレルゲンに伝える。
「恐らくレルゲンの一撃を警戒した耐魔力の一種だと推測できます。
その代わりマリーの一撃が通ったと考えられます」
「わかった_ありがとう」
(まだ可能性の域は出ないが、ミリィを取り込んだことでこの魔物の何かが変わったんだ。
だから耐魔力なんて代物が急に付与されている)
今まで黒龍の剣による光線攻撃によく頼っていたレルゲンだったが、思考の転換が必要だった。
(物理攻撃が効き、魔力による攻撃が効かないのなら、
”熱による直接攻撃”ならどうだ?)
即座に黒龍の剣に全開で魔力を込めると、テクトが少し呆れたように笑う。
「バカの一つ覚えだよレルゲン・シュトーゲン。
君にはそれしか無いのかい?」
テクトの煽りには反応せず、碧く輝く黒龍の剣にドライド渾身の傑作である
「真・白銀の剣」を重ねて光を吸収させる。
眩く輝いている「真・白銀の剣」は無色の純粋な光を放ち、黒龍の剣は輝きを失う。
そこから更に白銀の剣から光を徐々に抽出するが
念動魔術によって光を拡散させないように制御する。
一本の長い光の棒状になった白銀の剣の外側に集約された状態の光を纏わせてゆくと
白銀の剣は超高熱により刀身が赤くなり始め、やがて真っ白になる。
ナイトとの決戦の時はこの時既に剣の融解が始まっていたが、さすがは六段階目の素材でできた剣だ。
融解による変形が起きることなく、剣の状態を保っていた。
テクトも全く理解できないレルゲンの念動魔術に狼狽を隠し切れず、思わず口に出してしまう。
「なんだそれは」
「さあな。ただ、この魔術は他の誰も再現不可能のユニーク魔術なのは間違いないだろうとだけ教えてやる」
「ユニーク魔術だと?馬鹿な、ありえない。そんな高尚な魔術をその歳で発現させるなど」
「なら、一度受けてみるがいいさ。そのご自慢の防御力で」
「いいだろう。間抜けな君に特別にチャンスを差し上げよう。どこでもいいぞ」
全身から更に青い魔力が吹き上がり、全て身体能力に付加された一撃は
容易にモンストルム・ファブリカの足を溶かし斬った。
「なんだと?この七段階目の完成されたモンストルム・ファブリカを斬ったというのか。
しかし、その程度の傷、容易に修復できるとも_そして」
身体の一部が割けるように腕を出現させ、レルゲンに向けて手をかざす。
「前回君が避けるしかできなかった大出力の核撃砲はどうする?避けてもいいぞ。
その代わり後ろの国はどうなるか分からない君じゃないだろう」
レルゲンは下を向き、少しの脱力状態になる。
それを見たマリーとセレスティアは心配そうな顔つきになり見守るが、声はかけない。
光がモンストルム・ファブリカの手の平へと集まっていき、充足しきった瞬間
大出力の光線となってレルゲンへ一直線に向かう。
しかし、レルゲンは動かない。
テクトは(諦めたのか…?)と思ったが
顔を上げたレルゲンの目が見開いたと同時に
モンストルム・ファブリカが放った光線は遥か上空へと起動が曲げられ、やがて消えてゆく。
「馬鹿な、何をした?レルゲン・シュトーゲン」
「見ての通りさ。俺にその攻撃はもう効かない」
「……!! ならば当初の目的通り、魔物達に君の国を蹂躙させるとしよう」
モンストルム・ファブリカが入口を開き、特別な六段階目を含む魔物の群れを生産し、排出する。
明らかにヨルダルクでの一件以降より生産速度と生産数が上がっている。
ハクロウが騎士団の指揮を取り、大きな声をかける。
「俺たちは手筈通り魔物の相手をする!進め!!」
号令と共に騎士団とマリー、セレスティアが魔物達の群れと対峙する。
マリーが騎士団に向けて
「特別な六段階目は私とセレスお姉様、ハクロウ騎士団長で相手をします!
皆さんはそれ以外の魔物を狩って下さい!」
「「「了解!!」」」
それぞれ役割が決まり、駆け出す面々。
「さぁ、楽しいショーの始まりだ」
レルゲンが下に注意が向いているテクトに向かって軽い挑発をする。
「こっちもそろそろ続きと行こうじゃないか、七段階目よ」
「いいだろう!君のユニークと私のユニーク、どちらが上か試そうじゃないか」
激しい戦いが再び始まろうとしていた。