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35話 山斬りによる足止め


次に目を覚ましたのは次の日の朝だった。


マリーからの献身的な魔力供給と地脈からの魔力もあってレルゲンとセレスティアの魔力量はほぼ全快状態まで回復されていた。


また、一度睡眠を取ったことでセレスティアは頭の整理がだいぶ進み、表情の暗さも改善されていた。


「おはよう、レルゲン」


「もう朝か、おはよう。マリー」


「セレスお姉様も、しっかり休めたみたいで良かったわ」


「そうですね。魔力も戻りましたし、今度こそモンストルム・ファブリカを止めないと」


レルゲンとマリーが頷き、何とかしてあの動く要塞を止めたい気持ちは同じ。レルゲンが二人に提案する。


「あの七段階目を完全に止めるには、ドライドの武器が必要だ。二人の分は予備武器も頼んではいるが、


ようやく慣れてきた神剣と神杖を変えない方が多分いいだろうと思う。


だから武器完成までの時間稼ぎが出来ればいい。これからやるのは奴の足止めだな」


「どうやって止めるの?」


「真っ当なやり方だとまず無理だろうな。だから少し地図を変えようと思う」


「レルゲン、それってまさか」


レルゲンが頷き肯定するが、マリーは地図?と疑問の表情に出ていた。レルゲンは少し笑い。


「奴はデカいが、それよりもデカいもので通せんぼするってことさ」


「それで地形を変えて、地図が変わるってこと?」


「そう、ヨルダルクから中央までに山で囲まれている地域があるんだが


こうなってしまった以上、一日でも、半日だったとしても足止めできるならやるべきだと思う」


「山の土砂を利用するってこと?」


「いや、もっとスケールを大きくしよう。やるなら山ごとやったほうがいい」


「山ごと!?」


マリーは驚いていたが、レルゲンの表情は至って真面目だった。



ディシアは王国内であれば王立図書館を除き自由に歩ける権利を女王から貸与されていた。


暫く当てもなく歩いていたが、庭を歩いていると硝子張りのドーム状の建物が見えて


自然と惹かれるように吸い込まれていく。


「ようこそ、我が研究室へー」


挨拶をしてくれた少女は「我が」と言った。

であればこの年端もいかない白衣を着た少女が


中央の研究機関のトップなのか?と疑問に思ったが、その反応には慣れているようで


「おや、ここでは見ない顔だね。新しい研究員希望者かい?」


「いえ、私はここの国の者ではありません」


簡単に挨拶を済ませると、目をキラキラと輝かせて


「君が…いや貴女があのヨルダルクの最高意思決定機関の一人なのかい!?」


「はい」


「いやーよく来たねぇ!君に、君達にいつか会ってみたいと思っていたんだよ!話したい事がいくつもあるんだ。


もちろんここに来たからには付き合ってもらうよ。嫌だと言ってもね」


(なんだ、この変人)


とディシアは思ったが、少し話し始めてからはすぐに意気投合するお似合いの仲間だったことに気づくまで、あと数分。


謁見の間にて、騎士団と貴族達が集まっているところで、女王を見るセレスティアの目を見た女王は


魔力と気力が戻りつつあるセレスティアとレルゲンを見て安堵するのだった。


(昨日は心が折れているように見えましたが、しっかり立ち直りましたね)


セレスティアが女王に向けて礼を取りながら、改めて騎士団や貴族諸侯の協力が必要になる事を告げる。


貴族諸侯からは


「なぜこんなにも短期間の内に国が危険に晒されるのだ…」


と頭を抱えるものもいたが、最終的には貴族領へ中央住民の避難が敢行されることとなり、お開きとなる。


謁見の間での会議が終了した後、女王の私室にてレルゲン、マリー、セレスティアの三人が


現在の詳細な状況を説明して作戦を伝えると、女王は一度驚きの余り目を丸くした。しかしすぐに表情が元に戻り


「許可しましょう。状況の復帰についてはまた後日話し合うとして


今は国の安全が高まる確率が少しでも上がる事が重要です。頼みましたよ。三人とも」


こうして山斬りによるモンストルム・ファブリカの足止め作戦が敢行されることとなった。


すぐに出発の準備が整えられ、三人は山斬りのタイミングまで現地で待つことになる。


「さて、どんな化け物が出てくるか待ってやろうじゃない」


数日待っていると徐々にモンストルム・ファブリカから伝わる地震のような地鳴りが伝わってくる。


「ようやく来たわね」


「じゃあ、打ち合わせ通りに頼む」


マリーとセレスティアが頷き、別れてゆく。

マリーはモンストルム・ファブリカの進行方向に正面から正々堂々と立ち


レルゲンとセレスティアは切断する山の裏側へ。


地響きが頂点に達し、全容が明らかになった七段階目と言われている魔物を正面から見上げるマリー。


手には既に抜剣している神剣。念動魔術による飛翔状態で待機する。


「止まりなさいテクト!話があるわ」


「おや?そこにいるのは第三王女のマリー・トレスティアじゃないか。話とは何かな?」


「貴方、王国の地脈を使って魔力を吸い上げたてヨルダルクへ侵攻するようだけど、本当に上手くいくと思っているのかしら?」


「何かと思えばそんなことか、もちろん出来るとも!今日は君一人で来たのかい?」


「ええそうよ!七段階目なんて見た事ないから、わざわざ見物しに来てあげたわ」


「それは光栄だ。どうだい?実に素晴らしいだろう、この大きさ、そして溢れんばかりの力の姿」


「そうね、でも無骨すぎてあんまり私の趣味じゃないわ」


「それで?そんなことをわざわざ言いに来たんじゃないだろう?」


「いいえ?それだけよ?」


モンストルム・ファブリカに背を向けて、レルゲンとマリーが強固に繋げられている魔力糸越しに念話を交わす。


(位置に入ったわ。いつでも大丈夫)


(わかった、すぐに離脱できるようにしていてくれ)


セレスティアの隠蔽魔術、ハイド・スペリアによって魔力糸ごと隠された秘密の会話をしてタイミングを図る。


「君は間違いなくまた目の前に立ちはだかるだろう。今のうちに消しておくとしよう」


モンストルム・ファブリカから手のようなものが伸び、マリーに向けて核撃砲の準備が開始される。


(今よ!)


マリーの合図が念話越しから伝わり、レルゲンがすぐに黒龍の剣を引き抜いて準備する。


第二段階、全魔力解放


碧く剣が光輝き、山の中腹から横一線に薙ぎ払われ、念動魔術で山崩れのブーストをかける。


ミシッ!と大きな音が響きテクトは音の方向へ注意を抜けたが


一気に流れ込んできた土砂に抗う事が出来ずモンストルム・ファブリカの目の前に大量の土砂や木々が倒れ込み、行手を阻む。


「君たちの狙いは始めからこれか!」


「そうだ。精々遠回りして王国まで来るんだな」


核撃砲を何発も打ち込み山を破壊しようとするが、歩けるまでの高さまで吹き飛ばす事が出来ない。


「いいだろう。数日伸びる命、精々楽しむといい」


完璧に決まった迂回作戦はテクトの進路を変えることに成功し、三人は手を合わせるのだった。

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