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27話 侵攻前夜


ディシアを連れて飛ぶこと一時間。

飛び始めてからディシアは下の様子をしばらくは興味深く見ていたが、初めての飛行にしてはやや反応が薄かった。


(以前にも飛んだことがあるのか?)


と考えもしたが、飛行魔術はまだまだ発展途上で、念動魔術の応用による飛行しかレルゲンは知らなかった。


しかしディシアは結婚したセレスティアの変わりように驚いており


初めて飛んだ時の感動よりもセレスティアがレルゲンにお姫様抱っこで見せる幸せそうな表情を見て、若干羨ましいと感じていた。


(セレス、いつの間にかそんな表情をするようになっていたのですね)


ギリギリ陽が落ち切る前にヨルダルクのダンジョンが見えてくる。


塔型のダンジョンはレルゲン達がフィルメルクで攻略したものとほぼ同じ形状をしており


外壁の色が少し緑がかっているくらいの変化しか分からない程だった。


ダンジョン街の人を見ると、魔物で溢れていることはなく、平和な日常が続いていた。


安心すると同時に、攻略本部が構えられているダンジョン入り口に降り立つ。


セレスティアを下ろし、ディシアを優しく地面に下ろすと「ご苦労様でした」とレルゲンに一言労いの言葉をかけた。


事情を説明しにディシアが歩を進めるのを追いかけると、すぐに別室へ案内される。


「そうですか。ディシア様に中央王国の第一王女様までお越し頂くとは、これは只事ではありませんね」


「神託にもありました通り、このダンジョンは数日も経たぬうちにテクトという人物が魔物の解放を行うと考えられます。


攻略者達には申し訳ありませんが、直ぐに避難をするのと対策本部の設立を急いで下さい」


「分かりました。直ぐには無理ですが、ダンジョンへの再入場は一時止める方針に致します。


そして対策本部ですが、これは攻略本部とギルド主体で設立を急ぎます」


対策の話し合いがもうじき終了する時に小刻みな地震が発生する。


「これは…!」


「大地の怒り…」


体感はそこまで大きな地震ではなかったが、滅多に発生しない揺れに対して全員が驚く。


近くの椅子や机に手をついて揺れが収まるまで身体を支えていたが


食器が入った棚が音を立てて陶器が擦れる音がして不安を煽り立てていた。


レルゲンが揺れの中心地と今後の対策について言及する。


「間違いなくダンジョンが揺れの中心だ。そう時間はかからない内に魔物がここを抜けてくる。


入り口を塞ぐことができれば時間稼ぎは出来るだろうが、他の冒険者までダンジョンに閉じ込める事になるから難しい。食い止めるかが鍵になりそうだな」


「ではこの街はどうなってしまうのだ…」


攻略本部の長が肩を落とすが、それよりももっと規模の大きい話しだと分かってもらうしかない。


「辛いかもしれないが諦めてくれ。国家間の戦争にまで発展しかねない事案なんだ」


ディシアが攻略本部の長の肩に手を触れ、慰めるように語りかける。


「私からもお願いします。同盟国である中央王国との友好関係はこれからも大事になります。


まずはあなた方の命を大事に、そして出来るなら周りの方達の安全を確保するために力をお貸し下さい」


「分かりました。ディシア様、そして皆様。すぐにでも行動を開始しましょう。


セレスティア王女殿下、まずは長旅でお疲れだと思います。


こちらで宿を用意致しますので、本日はそちらでお休み下さい。何かダンジョンに動きがあった時は最優先でお声掛けさせて頂きます」


「分かりました」


宿に案内され、セレスティアと一緒に休んでいると、扉を軽く叩く音がする。


ダンジョンに動きがあったのかと思い、急いでセレスティアを起こす。


「私です。ディシア・オルテンシアです」


「ダンジョンに動きがあったのか?」


「いえ、その…」


歯切れが悪いディシアを部屋の外に置いておく訳にもいかず、とりあえず部屋の中に入れる事に。


レルゲンが扉を開けると、白い寝巻きを着たディシアが杖を持って部屋の前に立っていた。


ディシアがレルゲンの手に触れ、謝りながらも中に入る。


その様子を見ていたセレスティアが少し機嫌が悪くなる。


「それで?ディシア様はどうしてこんな夜更けに部屋を訪ねてきたのですか?」


「すみません。夫婦の間に割って入るつもりはなく、ただ昔のセレスとは随分と変わっていたようにも見えたので


少し話をしたくて。レルゲン様。セレスと話す時間を下さいませんか?」


「明日じゃダメなのか?」


レルゲンが一度ディシアを追い返そうすると、ディシアはなぜ断られたのか本当に不思議そうな顔をする。


「あっ、いえ申し訳ございません。では明日また日を改めて伺いますので」


ディシアが部屋を後にしようとした時に、引き留めたのはセレスティアだった。


「少しだけですよ?」


パァっと表情が明るくなるディシア。

それから少しだけと言いつつも、国家機密を伏せながら結局今までのことをディシアに話し


終わったのは夜明け近くになるのだった。


それを見ていたレルゲンは邪魔をしないように目を閉じながらも、二人の会話を聞いて少し笑うのだった。


翌日の攻略本部は人でごった返しになっていた。


中にはダンジョンに無理矢理入ろうとした者もいたが、従わなければ冒険者の資格剥奪という


冒険者の処分で最も重いものの内の一つが適応されると発表されると、文句を言いつつも徐々に人が散ってゆく。


攻略本部の長がレルゲン達を見つけると、再び要人室に通される。


「反発もありますが、冒険者達の避難は八割は完了しております。


全員の避難が完了するまでは待てませんが、入り口を封鎖することも視野に入れて対応ができるかもしれません」


「分かった。なら突破された後の事を考えよう。どこか中央王国までの間に狭い道はあるか?」


長が地図を広げながら、「ここならどうでしょうか?」とレルゲンに提案する。


「狭い道かは分かりませんが、二つの山に囲まれた道がございます。


その先は平野が暫く続くので魔物の足止めが難しくなりますが…レルゲン殿はここを通ってきていないのですか?」


「空を飛んで来たからな、到着を優先して地上はあまり見れていなかったんだ」


「空!?あぁ、いえ失礼しました。であれば仕方ありません。


ともあれ山に囲まれた道を迂回するとなるとかなりの時間がかかります。それこそ中央王国までの期間が倍ほどにはなるでしょう」


「最悪山を落として通路を塞ぐ手もありか」


レルゲンがしれっと恐ろしい事をいうが、ディシアが待ったをかける。


「お待ち下さい。それでは二国間の重要な導線がなくなってしまいます。


山を生業に生活している方々もいますので、同盟国の要人とはいえ地形まで変えてしまうのは看過できません」


「レルゲン。流石に出来ることとやってはいけないことは分けて下さい」


ディシアが興味深そうにレルゲンへ尋ねる。


「山を斬る事は実際に出来るのですか?」


「ああ、こいつがあれば出来る」


黒龍の剣を軽く叩いて見せるとディシアは目を輝かせて


「この件が片付いたら是非、ヨルダルクの研究を手伝って欲しいくらいです」


なんだかカノンに似ているなと感じたが、やはりディシアも間違いなく研究者だと分かる一面が見てとれた。


「ダメですよ?

レルゲンは中央王国の切り札なのですから、いくらディシアの頼みとはいえ承諾できません」


「もう、セレスはケチですね」


「いいえ、当然です。あなたの国の重要機密を開示しろと言っているのと同じですからね?」


バチバチといがみ合う二人を見て、レルゲンは苦笑いをするしかなかった。


レルゲンが一度仕切り直しの意味を込めて、ディシア個別で呼び、セレスティアを含めた三人だけの部屋で確認をする事に。


「カイニル・マクマニルという人物は知りませんが、テクトという名___ダンジョンの創始者といえば


ヨルダルク出身の元研究者の内の一人で、大昔に国を永久追放された人物です」


セレスティアが点と点が繋がったと感じた表情を浮かべ


「テクトの最終目標は恐らくヨルダルクに対する復讐でしょうか」


レルゲンも同じ考えに至っていた。


「俺もその可能性が高いと思う」


段々と敵の全容が掴めてきたレルゲン達は、更にテクトが過去に何をして国外追放に至ったのか深堀りをする。






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