第一章 6話 特別試合 改稿版
大会もいよいよ最終戦
木剣のみの打ち合いになる相手はどんなお貴族様かと思っていたら
『なるほど、相手は君か』
『ええ、まず試合が始まる前に謝罪をさせて頂戴。
私が有利になるルールに何度も変えさせて』
『いいさ、結果は変わらないからな』
『ふふっ、貴方そんな冗談も言えるのね』
その冗談とは、これほどまでの縛りルールでも勝てると思っているのか。
またはそんな減らず口を言えるタイプだったのかと思っているのかは分からないが、
お互いに決勝まで駒を進めてきたもの同士。
気分が高揚していた。
『特別試合、始めてください!』
最初に動いたのは彼女の方だった。
木剣の種類は彼女の背丈には不釣り合いな長さで、
両手で主に扱うロングソードに近い形状。
それを片手で簡単に上段へ振りかぶり、飛び上がる。
剣本来の重量と、彼女の並外れた膂力。
飛び上がってから振り下ろされるまでの間に落下する重力を掛け合わせた、必殺の一撃。
一連の動作速度も申し分ない。
これをまともに受ければ幾ら彼でも木剣を破壊されて
試合続行不可能となり判定負けとなるだろう。
だが、巨大な威力を持った一撃を受け流す方法は白髪の剣士との対決でよく「見た」
彼女の一撃が彼の剣に当たってから、上体を捻りながら剣同士を滑らせて受け流す。
『なっ』
(その技は先生の…!)
(悪いな嬢ちゃん、技見せすぎた)
このまま剣を滑らせながら前進し、
彼女の腹に一撃を加えて試合終了かと思いきや、
片手で振り下ろされたロングソードを両手で持ち直し、無理矢理空中でガードの体制を作る。
木剣同士が打ち合い、彼女が開始位置まで飛ばされるが、
これを自慢の膂力で何とか姿勢を崩さない。
着地の際によろけるなら、そのまま追撃をしようと準備していた彼だったが、不発に終わる。
『貴方、真似っ子は随分とお上手なのね』
『そちらこそ、見た目によらず力強すぎるだろ。何食ったらそんな力つくんだよ』
『失礼な!食べているものは普通よ!』
食べる量について言わない辺り、大飯食らいなのかなと思ったが、
その後の展開が容易に想像できたのでやめておく。
今度も先に仕掛けたのは金髪の彼女。
だが今度は飛び上がらずに地上で細かく攻撃を仕掛ける。
彼はまだロングソードの遠い間合いで、
あたかもショートソードの用に扱う彼女に対応がやや遅れている。
それでもまともに打ち合わず、躱し、いなしをメインにカウンターの機を伺っている。
まともな持久戦なら徐々に動きのキレが落ちてくる彼女が不利になっていくのだが、
それでも涼しい顔して連続攻撃を仕掛けてくる。
(全く遅くならないどころか、徐々に早くなってきてないか?)
そう、彼女の真髄は正に天から与えられた身体能力。
細い腕からは信じられない威力で繰り出される攻撃は、
相手に合わせてキレを増していく。
何かしらの“加護”を有しているといっていい。
加護の正体は分からないが、加護持ちとの戦闘は滅多に経験がない彼は
(ポテンシャルだけなら白髪の剣士より上か…!)
と彼女の評価を改めた。
正直彼女から漏れ出る自然魔力はまだまだ偏りが酷く、
剣士なら誰もがしている身体強化すらまともな効果になっていない。
だがそれでも人間離れした膂力が、無理矢理に彼女の戦闘能力を底上げしている。
穴だらけであるだけに、どう攻めていいか考えている時間が、
更に彼女の穴を埋めていく。
『俺は絡め手で何とか凌いでいたが、
ボウズはどうやってあの剣をどうにかする?』
愛刀を両方とも折られ、
棄権した白髪の剣士がカカッと笑いながら試合を見つめる。
(私に足りないものは全部、この彼が持っている。
でも、ここでの勝ち負けは別!身体は軽いし、徐々に押せてきている!このまま一気に!)
彼が徐々に押され、もう少しで闘技場の外周付近まで後退させられる。
だが、闘技場の外周付近まで押してから
(後一撃が決めきれない!)
彼女の加護もあってか剣速は未だに加速し続け、
攻撃感覚は徐々にではあるが確実に短くなっている。
観客にはもう剣先を目で追うことすら出来ない速度まで達しているのだ。
じりじりと攻撃しているはずの彼女が押され始める。
ここで白髪の剣士が気づく
(そうか、ボウズの魔術は物体を操る力…!
たとえ魔法、魔術は禁止されても魔力による「身体強化」だけは純粋な身体能力の一部。
これは単に剣を体の一部として魔力を流し込んでいるだけ!
不味いぜ嬢ちゃん、あのボウズも逆境状態で尻上がりするタイプだ)
先生を倒した彼は、いわば格上の存在。
ルール変更があってようやく互角の勝負が出来るレベル。
初めから挑戦者として挑んで掴んだ光明が遠ざかる。
負けを覚悟した彼女の剣速は加護を失い、
今度は遅くなり攻防が逆の関係になっていく。
(スタミナ切れか?いや、あの表情はそうじゃないな)