23話 ダンジョンの後始末、今更ながらの観光を添えて
カイニルを退けたレルゲン達は、一度攻略本部に戻り、事の顛末を説明した。
魔物がポップしなくなったと他の冒険者から連絡が既にきていたようで、どうやらダンジョンとしての機能が停止しているようだった。
関係があるとすればテクトと名乗った人物がダンジョンとしての役割を終わらせたに違いない。
ここでカイニルの言葉を思い出す。
「二十層ボス攻略おめでとう。勇者諸君」
つまりカイニルの言葉が正しければ、レルゲン達が十三層のボスだと思っていたベヒモスは
セレスティアの説明通り最終ボスとして用意されていた魔物で、それを倒したからダンジョンとしての機能を停止させた。ということになる。
マインドダウン状態のレルゲンは目に深いクマが出来ており、マリーとセレスティアに肩を貸してもらいながら攻略本部まで戻り
気を失っているミリィはマリーが背負っている。
レインに会った時は大層心配されたが、マインドダウンだと説明して少し安心したような表情をしていた。
「お疲れ様ですレルゲンさん、皆さん。大変な事になりましたね」
セレスティアはミリィの身を案じて、レインにどこか休めるところがないか尋ねる。
「ミリィが重症です。回復魔術はかけましたが、未だに意識が戻りません。どこか寝かせてあげられる場所はありませんか?」
「攻略本部に医務室がございます。どうぞこちらへ」
ミリィを医務室に寝かせてきた三人がレルゲンの下へと戻ってくる。
「レルゲン、大丈夫?」
マリーが肩を貸しながらレルゲンに問う
「ああ、マインドダウン特有の気分の悪さなだけだ。国に戻ればすぐに元に戻るさ」
「なら早めに戻りましょう。カイニルとかいう奴は必ずまた現れるわ。レルゲン、貴方は本当に変人に気に入られることが多くて大変ね___」
「ははは、本当にそう思うよ」
その場にいた全員が苦笑いを溢す。
「というわけでレインさん。本当に短い間だが世話になった。難しいだろうが
今後半年間はダンジョンには近づかない方がいいかもな」
「仰っていたテクトという人物と関係があるのですか?」
レルゲンが頷き、「これは予想だが」と始めに断りを入れて話し始める。
「奴はダンジョンのことを人工生命体だと言っていた。その創設者だとも。
つまり、魔物を人為的に作り、"操作できる"可能性がある。そうなれば最初に煽りを受けるのは」
「攻略本部…なるほど。内容は理解しました。ですがその間の生活もありますので…」
断ろうとレインが傾きかけた時にマリーが待ったをかける。
「なら、うちの国にくればいいじゃない。ギルドの仕事で良ければいくらでも仕事はあるわよ」
「うちの国…?」
レインがマリーを見て不思議そうな顔をすると、マリーとセレスティアが小さな声で自己紹介する。
「中央王国機構、第三王女マリー・トレスティアよ」
「同じく第一王女のセレスティア・ウノリティアと申します」
「えぇぇぇえええ!!!!」
「静かに!周りに聞こえる!」
「し、失礼しました。訳ありだとは思っておりましたが、まさか国の超重要人物だったとは。数ある非礼、謝罪いたします」
「そんなことはいいのよ。で、うちで働く気はある?」
「ぜひお願いします!」
マリーとレインが話している時に、レルゲンがセレスティアへ魔力糸を繋いで念話で話しかける」
(セレス、聞こえるか?)
(はい。マインドダウンですのに無茶しますね)
(これくらいなら平気さ。それよりもミリィのことだが、気になる点がある)
(カイニルがミリィを庇おうとしていたことですか?)
レルゲンがよく見ていると驚いた表情をセレスティアへ向ける。
(そうだ。戦闘中の奴に唯一の隙が出来た瞬間だ。ミリィには俺達の知らない何かがある)
半ば確信めいた表情をするレルゲンにセレスティアも納得しているようだ。
(私もこのままミリィを置いて国には帰れません。連れて行きたいのですよね?)
レルゲンが頷き、秘密の会話はここで終了した。
後はセレスティアが上手く理由を作ってミリィも王国へ連れて帰ることが出来るだろう。
レインとは一旦別れ、ミリィが目を覚ました時に、人がいるようにお願いをしておく。
一度旅館に帰ってから気力を回復するべく帰路に着き、三人の会話は普段より多くは無かったが
寝る時は自然と三人一緒に同じベッドの上で夜更かしせずにすぐに眠りについた。
マインドダウン状態のレルゲンは旅館に帰ってから二人に魔力をある程度流し込んでもらったおかげで、一晩で器の回復がだいぶ進んでいた。
まだダンジョンへ挑戦し始めてから一か月と少し。すぐにでも王国へ帰る選択肢もあったが
行きはレルゲンの念動魔術で飛んで来て早く着いたこともあり、帰りもレルゲンが回復するまでフィルメルクでゆっくりする事に。
今までずっとダンジョンに潜り続けたことで、この街に着いてからというもの
旅館とダンジョン間の往復だけで観光は全く出来ていなかった。
「というわけで、今日からしばらくレルゲンが回復するまで観光を楽しみましょう!」
マリーは王国でレルゲンと一緒に出かけた時に買った服装に身を包み
セレスティアは足のラインがよくわかる紺色の生地で出来た物を履き、上半身は白のトップスに身を包みんでいるがお腹まわりの肌が少し露出しており
レルゲンは目のやり場に多少困った。
二人の服装は旅館の外に出るまでは内緒で!ということだったので、レルゲンは早めにマリーとお出かけした時に買った服に身を包み、入り口付近で待っていた。
「お待たせ!」
「お待たせ致しました」
「二人共、よく似合っているよ。セレスの出かけ着は初めて見たけど、ちょっと驚いたよ」
「もっと肌を出さないと思っていましたか?」
「正直な」
「私も普段はこのような格好はできませんから、今日は少し挑戦してみました」
「本当によく似合っているよ。さぁ、初めてのフィルメルク観光、存分に楽しもう」
フィルメルク特有の洋服店や出店での買い食い、足だけつける温泉などで三人は癒されてゆき、会話も弾んだ。
次に気づいた時には陽が既に落ち始めた頃で、最後にはミリィの容体も確認しに行ったが
まだ意識は戻っていないようだった。