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22話 戦闘狂 vs 守護者

(急に出てきて一体何を言っているんだ、こいつ)


レルゲンが返答せずにカイニルと名乗った者は


おもむろに懐から複数のポーションを取り出して

片目を閉じながらレルゲンに放り投げる。


無造作に放り投げられたポーションを念動魔術で空中に制止させて受け取ると


カイニルがレルゲン達に飲むように促す。


一応毒分離の念動魔術を掛けるが、反応はない。


一気に飲み干すと体力と魔力までもが全快状態になり

この効果にセレスティアが目を丸くして驚く。


「これは、この効果は。間違いなくフルポーション!」


レルゲンが不思議そうにしていると、セレスティアが大変貴重な代物だと教えてくれる。


ミリィにこそ飲んでほしい物だが、残念ながら気を失っているため飲ませることができない。


「これから戦いたいと言っている相手にこんなもの飲ませてどういうつもりだ?」


「どうしてわからないの?

全力のあなた達と戦うためじゃない」


「ますます意味が分からないな。

俺たちは早く帰らなければいけないんだ。失礼する」


「そんなことさせないわよ?」


瞬間的にカイニルが消え、動体視力に自信があるレルゲンですら全く動きを捕捉することができなかった。


カイニルの手には既にミリィがおり、反射的に取り返そうと身体が動きかけたが必死に留まる。


「これで戦う理由ができた?」


「貴様…」


レルゲンの魔力が次第に高まっていくが我を忘れるほどではない。


もうナイトとの時とは違う。

怒りはあるが、魔力の無駄な浪費はしない。


しかし、雰囲気がガラッと変わり、大気がレルゲンの放つ殺気だけで震える。


「いいわ!貴方とてもいい!

眼力だけでそこまで出来るのはそういないわ」


素直な敵の賞賛にレルゲンは更に怒りが増し始め、

保険で持ってきていた王国からの名剣とも呼べる鉄剣を捻る。


(螺旋剣)


ギリ、ギリと鉄剣が悲鳴を上げながら螺旋を描くように成型されていき、徐々に回転数を上げていく。


レルゲンに戦闘スイッチが入ってから、カイニルはミリィを横に下ろし、二刀を抜いて構える。


(ハクロウ先生と似ている剣…!)


マリーがレルゲンの必殺の一撃を見守りながらも敵の特徴的な武器に気づいた。


回転数が臨界点に達した時に、レルゲンが更に魔術を発動する。


右手からウィンドカット、左手からはファイアボールを展開し、両手を合わせる。


「ブルーフレイム・エンチャント」


すぐにセレスティアは火の上位魔術であるブルーフレイム・アローズを連想したが


明らかに下位魔法を組み合わせただけでなく


念動魔術を更に加えられた三重の手順が含まれていると理解した。


(同種の魔術で同種の魔力性質を持つ私達ですら合成魔術は難しいというのに…

貴方はどれほど"上"があるのですか?)


仲間の力とは言え、未だに底が見えないレルゲンに冷や汗をかくセレスティア。


回転する螺旋剣に蒼い炎が包まれてゆき、今か今かと発射を待っているかのようだ。


「受けてみろ」


一瞬で音速を超えた一撃がカイニルの胸を正確に狙い、貫いたと思われたが衝突の瞬間に


カイニルが呟く「秘剣…」


「神仙__雪中花」


不可視の六連撃が蒼い炎を纏った螺旋剣を向かい打ち、粉々に打ち砕かれる。


その二刀は未だ尚輝きを放ち続け、刃こぼれ一つない。


打ち砕かれたのはレルゲンの必殺の一撃の方だった。


(今の技、間違いなくハクロウと同じだな)


「今のはゾクゾクしたわ!

でも余り驚いていないわね?」


「その"流派"は門下生が多いんじゃないか?」


「…!この技使えるのはほんの一握りだけよ。驚かせようと思ったのに、見たことがあるのね」


残念そうに両手をあげて首を傾げるカイニル。


レルゲンが螺旋剣を破壊されて間も無く、こちらも準備が完了していた。


「ユニゾン・テンペスト!」


マリーとセレスティアの合体魔術がカイニルを襲うが、抜群の速度で横に跳びながら回避し

マリーに狙いを絞ったカイニルが二刀を振りかざす。


咄嗟にマリーとカイニルの間に入ったレルゲンは振り下ろされた二刀を黒龍の剣で受け流そうとする。


最初からカイニルの剣を正面から受けてはいけないという直感が働き、剣を滑らせていくように角度を変えていくが


余りにも速く振り下ろされた二刀はレルゲンの想定を遥かに超えており、受け流しに失敗する。


左肩から腹にかけて二本の線がはっきりと分かるほどレルゲンの身体を斬りつけた。


鮮血が迸り、セレスティアがすぐに回復魔術をかけようと動くが


一度手で制して魔力糸を大量に生成する。

その数は悠に百を超えるだろう。


一度に縫合された傷口からは血が止まり、止まった瞬間にセレスティアがエクストラヒールをかけて完治させる。


回復の流れを興味深そうに見ていたのはカイニルだけではなかった。


「実に素晴らしい!カイニルと対峙してまだ息があるとは!」


ダンジョン内に反響する男性の声。


「誰だ」


「失礼、自己紹介がまだだったね。私はテクト。このダンジョンの"生みの親"さ」


「生みの親だと?何を寝ぼけている。

まるでこの建物自体が生きているような口振りだな」


「そうさ!よく分かったね。

ダンジョンとは全て生きている"人工の生命体"とでも言っていいだろう!」


眉間の皺が深くなる一方のレルゲンだが、ここでカイニルがテクトに向かって悪態をつく。


「おいテクト!私の邪魔するってのはどう言う了見だ?」


「おっと悪かった。つい興奮してしまってね、すまない。

では続けてくれたまえ。私はこれで失礼するよ」


「待て!」


レルゲンが呼びかけるが、テクトはダンジョン内で二度とレルゲンに語りかける事はなかった。


「そんじゃそろそろ続きと行こうか、レルゲン君」


「あんたを倒して、全部説明させる」


「威勢がいいね。私に啖呵切れる人間は初めて見たよ」


レルゲンが黒龍の剣を構え、意識を集中する。

第二段階、全魔力解放


全身から群青色の魔力が噴き上がり、その魔力を全て身体強化に充てる。


「正面から打ち合おうってことね!

なんて魅力的なお誘いなの!」


「言ってろ戦闘狂」


噴き出した群青色の魔力がレルゲンの全身に満遍なく巡っていき、お互いが駆け出す。


剣戟の応酬が続き、レルゲンとカイニルの周囲の大気が荒れ狂う。


「いいね!私の動きについてきてる」


「その余裕そうな面、すぐに消してやる」


一段と速度を上げたレルゲンに、しっかりと対応するカイニル。


剣戟の余波だけで周囲の地面が斬られた後のように掘られ、傷ついてゆく。


剣戟の余波がミリィの側を通過すると、ミリィの身を案じたのはレルゲンではなく、カイニルの方だった。


(そんな"遠く"にいるミリィを気にかける理由は何だ?)


分からない事だらけだが、この隙を逃すレルゲンではない。


身体強化に回していた分の魔力を黒龍の剣に全て込め、刀身の光が伸びようとしたところで止まり

伸びた光が逆に短くなってゆく。


完全に伸びた刀身からの光は全て無くなったが、その分全ての魔力が剣に込められて碧い光を放つ。


振り下ろされた一撃は、筆で書いた一本の線の如く鋭く細い一撃となり


百メートル近く縦に切り裂いた。


念動魔術によって光の軌跡を強引に剣に押し込めた一撃は


カイニルの片腕を落としたが、続け様にレルゲンは胴を別つ一撃を放つ。


横に薙ぎ払われた必殺の一撃はダンジョンの壁を容易に貫通し


碧い光は何百メートル先も伸びてゆき、やがて消える。


カイニルはレルゲンの横薙ぎを瞬時に受けきれないと判断して垂直に跳んで回避するが


地面に降りてくる事なく、空中で静止している。


レルゲンは一瞬念動魔術による飛翔かと思ったが、そうではなかった。


空中に"立って"いる。

間違いなく、空気の上を歩いており


まるで階段を降りるように一歩一歩降りてくる。


切断された腕はどういうわけか出血が既に止まり、新しい腕が生えようとしているようにも見えた。


(こいつ、人間に化けた魔族か?)


とも思ったが、最初に見せたハクロウと同じ秘剣。あれは間違いなく人間が放ったものだと考えを改めた。


魔族は人の真似事はするが、鍛錬はしない。


そもそも人間より自分の方が強いと思っている傲慢な種族に自己研鑽という文字は無い。


地面に降り立ったカイニルは再びミリィを見たが、諦めるように視線を切り、レルゲンを見て言葉をかける。


「一旦引かせてもらうわ」


「逃すと思うか?」


「いいえ、貴方は逃すわ。

だって貴方、既にマインドダウンじゃないの」


言われてからようやく身体が悲鳴を上げていることを自覚し、レルゲンが片膝をつく。


「お嬢さん達だけで片腕の私と戦ってみる?」


一瞬魔力が高まるがすぐに消し、二人とも唇を噛んで睨みつける。


「いい子ね。今度会う時はもっと楽しみましょう?」


再び跳んで、空中を蹴るように飛翔しながらその場を後にするカイニル。


レルゲンとカイニルの戦いを遠隔で観察していたテクトは高揚の余り叫んでいた。


「素晴らしい!素晴らしいよレルゲン・シュトーゲン!

あのカイニルに撤退を選択させるなんて!


ハハハハハ!!!


これでまたボクの研究は前に進めることができる!!」


孤独な研究所とも取れる個室で、興奮を抑えられない探究者は、幸せの絶頂を迎えていた。


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